LiDAR
LiDARとは、レーザー光を用いて対象物までの距離や形状を高精度に計測する技術である。光が物体に当たって反射するまでの時間を捉え、その情報から三次元的な位置を推定する点が特徴であり、近年では自動運転や測量など幅広い分野で応用が拡大している。この技術は高解像度で遠方を捉えることが可能である一方、周囲環境の条件やコスト面などの課題も存在し、研究と開発が日々進められている。
計測原理
LiDARの計測原理は主に光の飛行時間(Time of Flight)を用いる方式である。具体的には、レーザー光を瞬時に発信し、対象物で反射した戻り光を検出器が受信するまでの時間差を計測することで距離を割り出す。光の速度は真空中で約3×108 m/sと非常に高速であるため、計測を行う際には高感度かつ高速応答可能な電子回路が必要となる。また、物体の形状や材質により反射強度が変化するため、複数の波長やスキャン方式を用いて安定して正確な情報を得る工夫がなされている。高い分解能を実現するためにパルスの発信頻度を増やす手法や、複数のレーザービームを同時に照射するマルチチャネル方式が開発され、精緻な三次元マッピングが可能となっている。
構成要素
LiDARシステムは、大きく分けてレーザー光源、スキャニング方式、受光素子の3つの要素から構成されることが多い。まずレーザー光源が高強度かつ狭いビーム幅を持つ光を発振し、スキャニング方式によって広い範囲を効率よく照射する。そこから反射した光を受光素子が検出し、飛行時間や位相差などの情報を電気信号として取り出す仕組みである。これらの要素が最適に組み合わさることで、高い空間分解能と計測精度が実現される。
レーザー光源
レーザー光源はLiDARの性能を左右する重要な部分である。一般に赤外域の波長が用いられることが多いが、用途によっては可視光や紫外域が選択される場合もある。パルス状のレーザーを高速に発振するためには、大電力を瞬間的に供給できる回路や冷却機構が必要となる。さらに、狭いビーム幅を維持しながら高出力を実現するため、半導体レーザーやファイバーレーザーの設計が重要なテーマであり、小型化と低コスト化が積極的に進められている。
スキャニング方式
照射範囲を広げるためのスキャニング方式は、ガルバノミラーを用いた機械式スキャンと、位相アレイ光学系を用いたソリッドステート型に大別される。機械式スキャンは回転ミラーを動かすことで比較的広い視野をカバーできるが、可動部があるため耐久性やサイズに制約が生じやすい。一方でソリッドステート型は電子的に光の向きを変えるため、可動部が少なく小型化に適している。ただし、現時点では量産コストや技術的ハードルが高く、広い範囲を安定してスキャンできる手法の開発が進められている。
受光素子
LiDARに用いられる受光素子には、APD(Avalanche Photodiode)やSPAD(Single Photon Avalanche Diode)などの高感度センサーが使われることが多い。これらは微弱な反射光でも効率的に検出でき、時間分解能が高い点が特長である。さらにCMOS技術と組み合わせることで、信号処理を集積回路内で直接行うことが可能となり、高速かつ大規模なデータ取得を実現する。受光素子の開発は、計測精度やコスト、消費電力など多角的な観点から進められており、今後の技術進歩が期待される領域である。
用途
LiDARは、あらゆる分野で活用されている先端技術である。例えば自動運転では、車両周囲の正確な三次元環境マップをリアルタイムに生成し、他車や障害物との距離を素早く把握するのに利用される。測量分野では航空機やドローンに搭載され、山岳地帯や建造物の詳細な地形情報を得ることが可能となっている。加えて産業用ロボットの制御や、生産ライン上での物体検出、農業や建設分野での自動化支援に至るまで、その応用範囲は拡大を続けている。
自動運転分野
自動運転におけるLiDARは、車両周囲360度の環境を高精細に把握するための重要なセンサーと位置付けられている。カメラやレーダーでは難しい正確な距離情報や物体の立体的な形状を把握できるため、車線維持や障害物回避などの高度な運転支援を可能とする。ただし、車載用途では天候や汚れによる光学的な干渉、搭載コストやスペースなどの課題も存在し、システム全体としての信頼性を確保するための取り組みが欠かせない。
測量・地形計測
LiDAR計測は山林や急峻な地形の三次元モデル化に優れ、短時間で広範囲を高精度に把握することができる。航空機に搭載すれば、樹木の下層にある地表の形状まで推定することが可能であり、従来の写真測量に比べて木々や構造物の影響を受けにくい。また、ドローンに搭載した小型装置も利用されるようになり、災害時の迅速な状況把握や建築現場での土量管理など、現場の効率化やリスク低減に大きく貢献している。
産業・研究開発
LiDARは製造業や物流、農業などの分野でも導入が進められている。工場の自動化ラインではロボットの周辺監視や物体形状の検出に利用され、精密な組み立てやピッキングを行うための視覚センサーとして期待されている。農業ではトラクターやドローンと連携させて地表の凹凸や作物の位置を計測し、自動収穫や最適な肥料散布などの効率化に役立てられている。研究開発の現場でも、ロボティクスやAR/VRなど新分野との融合により、さらなる用途拡大が模索されている。