ISM|ライセンス不要で広がる無線帯域

ISM

ISM(Industrial, Scientific and Medical)は、産業機械、科学研究、医療機器など幅広い用途の無線通信に活用される周波数帯である。工場の制御システムや検査装置、医療用機器や家庭用電子レンジなど、多様な分野で利用され、データ伝送やセンシング、加熱処理などを効率的に実現している。免許不要で使用できる点や、世界各国で同様の周波数帯が確保されている点から、IoT機器や無線通信モジュールの普及を後押しする要素ともなっている。

誕生の背景

従来、無線周波数帯は軍事・放送用途などに優先的に割り当てられ、一部の産業・医療機器が共用する制度であった。しかし、技術進化により産業界や医療分野が多様な無線通信やエネルギー伝送を必要とし始めたことで、免許不要の周波数帯を設定する動きが生まれた。こうして確立されたのがISM周波数帯である。初期はマイクロ波加熱など限定的な用途にとどまっていたが、やがて無線LANや近距離通信などの拡がりを受け、現在ではIoTやスマートホームなどにも幅広く採用されている。

周波数帯の特徴

ISM周波数帯には、代表的なものとして2.4GHz帯や5.8GHz帯などが含まれる。2.4GHz帯は電子レンジやBluetooth、Wi-Fi(IEEE802.11b/g/n)などで広く利用され、障害物を回避しやすく多様な用途に適している。一方、5.8GHz帯は高周波数帯ゆえに伝搬距離は限られるが、大容量データを高速かつ安定的に伝送しやすい利点がある。こうした複数の周波数帯が世界各国でほぼ共通して免許不要に設定されているため、国際的な機器開発や輸出にも好都合な環境が整っている。

利用例

家庭やオフィスで使われるWi-FiアクセスポイントやBluetooth機器、電子レンジなどがISM周波数帯の代表的な利用例である。さらに工場の制御システムや無人搬送車(AGV)、医療現場の非侵襲センサー、RFIDタグ読み取り機などでも活用されている。産業用ロボットが複雑な動作を行う際のリアルタイム通信や、医療機器の検査データ転送など、ワイヤレス化による省配線や運用効率の向上が注目されている。こうした利便性と需要の高さから、より高周波帯を扱う拡張規格の策定も進んでいる。

電波法規制

ISM帯は免許不要で使用できる反面、送信出力やアンテナ設置条件、機器認証などが法令で定められている。各国や地域の電波法規制に従って最大出力や占有帯域幅が設定され、規制値を超えない範囲での利用が求められる。また、機器が複数混在する環境では混信の可能性が高まるため、通信方式やプロトコル面でも干渉回避の仕組みが採用される傾向にある。これらのルールを守ることで、多くのユーザーが同じ周波数帯を快適かつ安全に利用できる仕組みとなっている。

技術開発の潮流

無線技術の高度化に伴い、複数の周波数帯を同時に利用するアグリゲーション技術や、周波数ホッピングによる干渉回避が盛んに研究されている。工場自動化(FA)や物流においては、リアルタイム通信や大規模センサーネットワークを実装するためにISM帯の周波数拡張や高出力化が検討されている。さらに、SAR(比吸収率)や電波安全基準を遵守しながら高精度レーダーやマイクロ波送電を実現する動きも活発化しており、新たな産業応用が期待される。

混信と安全性

免許不要で誰でも利用しやすいISM周波数帯は、機器同士の電波干渉が発生しやすいのも事実である。特に2.4GHz帯は電子レンジやBluetooth、Wi-Fiが集中し、多数のデバイスが競合するケースが日常的に起こる。そのため、拡散スペクトル通信や周波数ホッピング、チャンネルボンディングなどの技術を組み合わせて安定性を確保する施策が不可欠である。加えて、人体や医療機器への悪影響を最小化するための安全基準が各国で設定されており、利用者やメーカーには安全性への十分な配慮が求められている。

技術応用の広がり

近年は産業向けIoT(IIoT)やスマートシティなど、人々の生活や社会インフラを支える領域でISM帯の活用が急速に進んでいる。多数のセンサーやデバイスを低コスト・低消費電力でつなぐLPWA(Low Power Wide Area)技術との連携も検討され、工場間や都市環境など広範囲にわたるワイヤレス通信網の整備が可能となりつつある。こうした取り組みにより、生産性向上や省エネルギーが期待されるだけでなく、ユビキタスなネットワーク社会の実現へ向けた基盤として、ISM帯の存在意義はさらに拡大していくと考えられる。

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