IEC 60204-1
IEC 60204-1は機械類の電気装置に関する一般要求事項を定める国際規格である。工作機械、搬送装置、包装機械などの産業用機械に組み込まれる制御盤・配線・操作器・保護機器の選定と実装、保護方策、マーキング、検査・試験までを体系化し、感電・火災・予期せぬ始動などのリスク低減を図る。機械安全の基本規格であるISO 12100のリスクアセスメントに基づき、電気的観点の具体的対策を示す位置づけであり、機械の企画・設計・製造・据付・保守の全段階で参照されるべき基盤規格である。
適用範囲と位置づけ
本規格は定格電圧おおむねAC1000V以下、DC1500V以下の機械電気装置を対象とし、建築物の固定電気設備(IEC 60364の領域)や搬送媒体そのものの危険(圧力容器等)は対象外とする。電気装置の設計者、制御盤メーカ、機械メーカ、インテグレータ、評価機関が共通の指針として用いることで、製品安全とメンテナンス性、互換性の両立を図ることを意図している。
安全の基本原則
- 電撃からの保護:直接接触・間接接触を防止するための基本絶縁、障害物、保護接地(PE)、自動遮断を組み合わせる。
- 熱・火災の防止:過電流保護、適正な導体断面、温度上昇の管理、可燃材料の回避を徹底する。
- 機能上の安全:危険源を迅速・確実に停止させる制御系、非常停止の確保、誤動作・予期せぬ始動の防止を図る。
電源と保護装置
- 主開閉装置:機械の全電源を一括遮断でき、施錠可能で明確な“開離”状態が確認できることが望ましい。
- 短絡・過電流保護:ヒューズ、MCCB、配線用遮断器の整合と選択協調を取り、下流機器の耐短絡能力を満足させる。
- 漏電保護:RCDの感度・時限を負荷特性や不要動作リスクと整合させる。
- 外部供給回路:制御電源が外部から供給され主開閉器で遮断できない回路は識別とラベリングを行い、残圧・残電の危険を明示する。
保護接地と等電位ボンディング
すべての導電性外装は保護導体で主接地点に接続し、可動部にはフレキシブルなバイパスを設ける。保護導体の識別色は緑/黄の二色とし、端子や記号はIEC体系に準拠する。ボンディングは低インピーダンスで連続性を確保し、塗装面は接触面の絶縁を除去して確実な接続を得る。
制御回路と停止機能
制御電源はSELV/PELVの適用や二重絶縁機器の採用で感電リスクを低減する。停止機能は「危険源の除去」を第一とし、主回路遮断や機械的ブレーキなどを適切に組み合わせる。非常停止は容易に到達でき、単一動作で危険な動きを阻止する機能を備える。安全関連制御の信頼性要求レベル自体はISO 13849-1やIEC 62061で規定されるが、IEC 60204-1は配線、部品選定、電気的インタフェースの一般要件を提供する。
プログラマブル制御の留意点
PLCなどプログラマブル機器は再起動時の状態、メモリ保持、ウォッチドッグ、電源瞬断時の挙動を定義する。停止や非常停止の主要機能をソフトのみで実装する場合は、機械のリスクに応じ冗長性や自己診断を備える。
配線・機器選定・筐体
- 導体・ケーブル:定格電流、許容温度、曲げ半径、可動用途(ドラッグチェーン)への適合を確認する。
- 筐体保護等級:設置環境の粉じん・水・汚損度に応じてIP等級を選定する。
- 識別と色:導体識別はIEC 60445に整合し、青は中性線、緑/黄は保護導体に限定する。
- EMC:電源系と制御系の分離配線、シールドの360度接地、参照接地面の低インピーダンス化でノイズ耐性を高める。
色識別の要点
緊急停止ボタンは赤色頭部に黄色背景を基本とし、常時通電の危険回路や外部供給回路はラベルで明確に区別する。導体色の誤用は重大事故につながるため、設計・配線・検査の各段階でトレーサビリティを確保する。
操作・表示・マーキング
操作子は誤操作の起きにくい配置とし、機能名・回路番号・端子番号を一貫した方式で表示する。盤扉や装置には定格電圧・最大短絡電流・保護方式・外部供給の有無などの銘板情報を明示し、言語は使用国に適合させる。
文書化と情報提供
- 回路図(電源系統図、端子表、配線図)、部品表(型番・定格・メーカー)、設定一覧(保護機器の時限・整定)を整備する。
- 保守文書には点検周期、交換部品、調整手順、ロックアウト/タグアウト手順を含める。
- 図記号はIEC 60617、参照命名はISO/IEC 81346を用いて一貫性を確保する。
検査・試験
- 目視検査:配線の損傷、クランプの緩み、クリアランス/沿面距離の確保を確認する。
- 保護導体連続性試験:主接地点から各外装部までの低抵抗を測定する。
- 絶縁抵抗試験:定めた試験電圧で主回路・制御回路の絶縁状態を確認する。
- 耐電圧試験:想定過電圧に対する絶縁強度を検証する。
- 機能試験:非常停止、インターロック、再起動防止、監視回路の動作を確認し、結果を記録する。
関連規格と整合
IEC 60204-1は機械固有の安全制御要求(ISO 13849-1、IEC 62061)、配電盤の構造(IEC 61439)、施設配線(IEC 60364)、筐体の保護等級(IEC 60529)、識別・表示(IEC 60445、IEC 60617)などと相互に整合している。実務では、ISO 12100によるリスク評価→本規格に基づく電気装置設計→安全関連の性能レベル算定→検査・試験・文書化、の順で適合性を確認するのが効率的である。