FZ法|単結晶育成の極致、浮遊帯域溶融技術

FZ法

FZ法(フローティングゾーン法、Floating Zone Method)は、るつぼを使用せずにシリコン棒を高周波誘導加熱で局所的に溶融し、その溶融帯(フローティングゾーン)を棒の一端から他端へ移動させることでシリコン単結晶を育成する手法である。るつぼを用いないため、容器由来の汚染が原理的に排除でき、チョクラルスキー法(CZ法)では達成困難な超高純度・低酸素濃度の結晶が得られる。この特性が、高耐圧・低損失を要求されるパワーデバイスや高抵抗率を必要とする放射線検出器など、特定の高付加価値用途においてFZ法を不可欠な位置に押し上げている。

開発の経緯

FZ法の原型は、1950年代初頭に金属の精製技術として確立されたゾーン精製(Zone Refining)に遡る。不純物の偏析現象を利用して金属棒を高純度化するこの概念を、半導体材料の単結晶育成へ応用したのがFZ法の出発点である。1952年にWilliam Pfalnnがゾーン精製の原理を発表し、その後ほどなくシリコンへの適用が試みられた。1950年代後半には実験室レベルで高純度シリコン単結晶の育成が確認され、その後の半導体産業の発展とともに装置の大型化・量産化が進んだ。CZ法が大口径化・量産化で先行する一方、FZ法は高純度・高抵抗率という固有の強みを維持し、特殊デバイス向けに独自の地位を確立してきた。

基本原理と装置構成

FZ法の原理は、高純度多結晶シリコン棒(フィードロッド)の下端に種晶を接触させ、高周波コイルによって局所溶融帯を形成した後、棒とコイルを相対的に移動させることで溶融帯を上方へ送りながら単結晶を成長させる点にある。溶融帯は表面張力によって上下の固体部分に保持されており、この安定した溶融帯をるつぼなしに維持することが技術的な核心である。装置は真空チャンバーまたは不活性ガス雰囲気中に配置され、酸素・炭素など外部からの汚染を極力抑えた環境で運転される。高周波コイルの形状・周波数・電力、棒の回転速度、移動速度(引き上げ速度)などのパラメータが結晶品質を決定する重要因子であり、製造各社はこれらを厳密に最適化している。

偏析と不純物低減

ゾーン精製の原理となる偏析(Segregation)現象では、固相と液相の間で不純物の分配係数(偏析係数)が1より小さい場合、不純物は固化した結晶よりも溶融帯側に濃縮される。溶融帯を棒の一端から他端へ複数回通過させることで不純物が端部に集積し、大部分の結晶領域が高純度化される。シリコン中の金属不純物の多くは偏析係数が極めて小さいため、FZ法による1回の通過でも相当な精製効果が得られる。また、るつぼを使わない構造上、酸素(O)の混入がCZ法に比べて桁違いに少なく、1×1015 atoms/cm3以下という超低酸素濃度の結晶が実現可能である。

CZ法との比較

シリコン単結晶の主要製法であるCZ法とFZ法は、それぞれ異なる強みを持つ。CZ法は石英るつぼを用いてシリコン溶湯から結晶を引き上げるため、直径300 mmを超える大口径ウェハを量産できる。しかし石英るつぼからの酸素混入は避けられず、酸素濃度は一般的に1017〜1018 atoms/cm3台に達する。一方FZ法はるつぼを使わないため酸素混入が根本的に抑制され、高抵抗率(数kΩ・cm以上)の結晶が得られる。ただし溶融帯を表面張力のみで保持する構造上、大口径化には限界があり、現状での量産主流は直径150 mm(6インチ)前後にとどまる。以下に両者の主な特性を整理する。

項目 CZ法 FZ法
るつぼの使用 あり(石英) なし
酸素濃度 高い(1017〜1018 atoms/cm3 極めて低い(〜1015 atoms/cm3以下)
抵抗率 低〜中(最大数十Ω・cm程度) 高(数kΩ・cm以上も可能)
大口径化 300 mm以上の量産実績あり 150 mm前後が主流
主な用途 ロジック・メモリ用ウェハ パワーデバイス・放射線検出器

主な用途

FZ法で育成されたシリコン単結晶は、その高純度・高抵抗率特性を活かした分野で使用される。最も重要な応用先の一つがパワー半導体デバイスであり、高耐圧のPINダイオードやIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)では、高抵抗率のベース層が電圧を支持する役割を担うため、FZ基板が好まれる。また、X線・ガンマ線の検出器や放射線量計測用素子では、結晶中の欠陥や不純物がキャリア寿命を短縮するため、超高純度のFZ単結晶が必要不可欠である。さらに、太陽電池研究用の高品質サンプルや、基礎物性研究用の標準結晶としても利用される。シリコンウェハの用途を大口径・量産品(CZ)と高純度・特殊品(FZ)に分業する形で、現在の半導体産業は成立している。

パワーデバイスとの関係

パワーエレクトロニクス分野では、電気自動車のインバータや産業用モータドライブ、鉄道用変換器など、高電圧・大電流を扱うデバイスが増加している。これらのデバイスを構成するシリコン系パワー素子において、高耐圧化にはドリフト層の高抵抗率化が求められ、CZ基板では困難な抵抗率をFZ法が提供する。一方、近年はSiCやGaNといったワイドバンドギャップ半導体が台頭しており、SiC基板はシリコンFZ品を超えた特性を持つ領域も存在する。しかしシリコンFZ基板は成熟した加工技術と低コスト(SiCとの相対比較で)を強みとして持ち、中耐圧帯を中心に依然として需要を保っている。

ドーピングと抵抗率制御

FZ法においても、最終製品の電気特性を決定するために不純物ドーピングが行われる。特徴的なのはガスドーピングであり、成長雰囲気中にホスフィン(PH3)やジボラン(B2H6)などのドーパントガスを微量導入することで、溶融帯内に均一にドーパントを混合させる手法が用いられる。この方法はCZ法のように固体ドーパントをシリコン融液に添加するより均一性が高く、長手方向の抵抗率分布を均一に制御しやすい。ドーパントの種類としてはn型向けにリン(P)やアンチモン(Sb)、p型向けにホウ素(B)が一般的であり、目的とする真性半導体的な超高抵抗率から実用的な低抵抗率まで、幅広い抵抗率を実現できる。

結晶品質と欠陥制御

単結晶の品質評価では転位密度、酸素・炭素濃度、面方位の精度などが主な指標となる。FZ法による結晶は低酸素濃度ゆえに酸素析出物(BMD:Bulk Micro Defect)の形成が少なく、デバイス活性層内のキャリア寿命が長いという利点を持つ。一方、CZ結晶に含まれる酸素はゲッタリング(gettering)サイトとして金属汚染を捕捉する役割も担うため、高純度FZ結晶では別途、外部ゲッタリング処理を施すことがある。また、半導体チップへの加工工程で生じる熱応力が結晶に影響しないよう、インゴット切断・スライス・研磨の各工程においても慎重な品質管理が求められる。

技術的課題

FZ法の最大の課題は大口径化の困難さである。溶融帯を表面張力のみで支える構造は物理的な限界を内包しており、直径が増大するほど溶融帯の安定維持が難しくなる。現時点での量産限界は概ね直径200 mm(8インチ)であり、300 mm以上が主流となったCZ法に比べてウェハあたりのチップ取り数で不利となる。また高周波誘導加熱装置の電力消費や、製造歩留まり向上に向けた装置制御の高度化もコスト面での課題となっている。こうした制約に対応するため、電磁

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