EMI|電子機器に干渉する電磁ノイズ障害

EMI

EMI(Electromagnetic Interference、電磁妨害)とは、電子機器間で意図しない電磁エネルギが結合し、機能の低下や誤動作、規格不適合を引き起こす現象である。発生源(ノイズ源)・伝搬経路・被害受容体の三要素で整理でき、設計段階から系統的に抑制することが重要である。EMIはスイッチング電源、モータ駆動、クロックを持つデジタル回路、長尺ケーブルなどで顕在化しやすい。規格上は「放射エミッション」と「伝導エミッション」に大別され、周波数帯や測定手法が定義されている。

発生メカニズムと結合経路

EMIは主にdV/dt・dI/dtの急峻な変化に伴う広帯域スペクトルが源となる。結合経路は(1)伝導:配線・電源ラインを介した伝達、(2)放射:アンテナ化した配線・筐体からの空間放射、(3)容量性・誘導性結合:近接配線間の電界・磁界結合、(4)共通インピーダンス結合:共有リターン経路のインピーダンスで電圧が発生、に分類できる。特にコモンモード電流は長尺ケーブルで効率的に放射され、放射障害の主因となる。

規格と評価(EMCの枠組み)

EMIはEMC(Electromagnetic Compatibility)の一部であり、発する側のエミッションと耐える側のイミュニティで捉える。代表的な適合枠組みにはCISPR、IEC、FCC、VCCIがあり、住宅・産業・医療など用途別に限度値や試験法が定められる。伝導エミッションはLISNを用い150 kHz〜30 MHzを、放射エミッションは3 m/10 m法で30 MHz〜1 GHz(場合により更に上)を評価する。設計の良否はプリコン段階の近傍電磁界測定や電流プローブでのコモンモード電流測定でも把握できる。

電源系ノイズの抑制

スイッチング電源はEMIの主要因である。基本方策は(1)入力フィルタ:コモンモードチョーク+X/Yコンデンサで差動・共通成分を減衰、(2)スナバ回路:スイッチ端子のリンギング抑制、(3)ゲート抵抗最適化:スイッチングの立下り・立上り勾配を制御、(4)ソース/エミッタ抵抗・レイアウト改善:寄生L・Cを低減、(5)デッドタイム適正化:ブリッジの貫通電流抑制、である。さらに帰還ループとパワーループの面積分離、入力・出力コンデンサの最短リターン配置が効果的である。

プリント基板(PCB)レイアウトの要点

  • 高速電流ループの最短化:スイッチ素子−整流素子−バルク/バイパスCの三角形を極小化する。
  • リターン電流の経路設計:GNDプレーンを連続させ、スリットで電流が迂回しないようにする。
  • 差動ペアは緊密・等長:ループ面積縮小で磁界放射を抑制。
  • 分割GNDの慎重運用:アナログ/デジタル/電力の領域分離は「単一点で合流」。不用意な分割は共通インピーダンスを増やす。
  • クロック/高速エッジは内層化し、参照プレーンを近接させる。

シールドと筐体設計

金属筐体や導電塗装は電界・磁界に対する遮蔽効果をもたらすが、スリットや開口はスロットアンテナとなりうる。開口長は波長の1/20以下を目安に小さくし、パネル接合部はガスケットで導通を確保する。ケーブルの貫通部は360°接地クランプで編組を広帯域で接続し、ピグテールは可能な限り避ける。これによりコモンモード電流の外部放射を抑える。

グラウンドと接地手法

単純な「一点接地」か「多点接地」かは周波数で選択する。低周波では一点接地が共通インピーダンスの制御に有効、高周波では多点接地で帰路を短縮する。シャーシGNDと信号GNDの結合はRC/ビーズ/容量の周波数選択結合が実務的で、ESD/EFT経路をシャーシ側に逃がす。避雷器やサージ保護デバイスは安全規格も併せて選定する。

ケーブル・インタフェース対策

I/OはEMIの出入口である。コモンモードチョーク、TVSダイオード、ラインフィルタで差動信号の品質を保ちつつ広帯域の妨害を減衰させる。ツイストペア化と編組シールドでループ面積を減らし、コネクタ周辺で360°アースを確保する。高速インタフェースはピン配置とリターンパスの対で設計し、コネクタ金属シェルを筐体に低インピーダンス接続する。

周波数ドメインでの見方

EMIはスペクトラムで評価する。スイッチング基本周波数fとその高調波n・リンギングの共振周波数frが支配的になる。フィルタはカットオフfcとインピーダンス整合を意識し、電源インピーダンスが高周波で落ち込まないようMLCCの自己共振、ESR/ESLを考慮する。磁性体は透磁率の周波数特性とコアロスに着目する。

設計フローと実務の勘所

  • 要件定義:適用規格、限度値、設置環境(住宅/産業)、ケーブル長を確定。
  • 予防設計:レイアウト・部品選定・筐体構造でEMI余裕度を確保。
  • プリコン評価:近傍界プローブ、電流プローブ、テーブル上試験でホットスポットを可視化。
  • 是正:発生源低減(スナバ/ゲート抵抗/ソフトスイッチング)、経路遮断(フィルタ/シールド)、被害側強化(イミュニティ向上)。
  • 妥当化:認証試験条件に合わせたセットアップ(接地、配線、負荷)を再現。

関連概念:EMIとEMSの関係

EMI低減は他方のEMS(耐性)を阻害しないよう設計する。過度なフィルタは通信帯域や安定度を損ねる恐れがあるため、システム最適化としてのトレードオフ設計が要る。モデル化・回路シミュレーションと実測の往復で整合を取ることが肝要である。