BJT
BJT(Bipolar Junction Transistor)は、電子と正孔の双方をキャリアとして用いる接合型トランジスタである。NPNまたはPNPの三層構造からなり、エミッタ・ベース・コレクタの3端子で電流増幅とスイッチングを実現する。ベース‐エミッタ接合の順方向バイアスにより、少数キャリアが注入され、薄いベースを拡散してコレクタに回収される過程で大きなコレクタ電流が得られる。増幅率β、トランスコンダクタンス、アーリー効果、温度依存性を理解することで、アナログ増幅から高速スイッチングまで幅広い設計が可能となる。
構造と動作原理
BJTは高ドープのエミッタ、薄く低ドープのベース、適度にドープされたコレクタで構成される。エミッタ注入効率とベース通過率の積が電流増幅の要であり、ベース‐エミッタ間が順方向(約0.7V程度のSiの場合)になると、エミッタからのキャリア注入が支配的となる。ベースは非常に薄く設定され、再結合を抑えつつ、コレクタ‐ベース接合の逆方向電界によりキャリアを掃き出す。これにより小さなベース電流で大きなコレクタ電流を制御できる。
NPNとPNPの配置上の違い
NPNは電子が主キャリアで移動度が高く、高周波特性とスイッチングで有利である。一方PNPは正孔が主キャリアであり、同プロセス条件では利得や速度で劣ることが多いが、低側参照のバイアスや相補回路に不可欠である。
動作領域とバイアス
動作は大別してカットオフ、アクティブ、サチュレーションの3領域である。アナログ増幅はアクティブ領域で行い、負荷線と静点(Q点)を設定する。スイッチングでは飽和を許容しつつも、蓄積電荷によるターンオフ遅延を考慮する。バイアスは分割抵抗とエミッタ抵抗で温度・βばらつきに鈍感化し、必要に応じて定電流源や帰還を併用する。
代表パラメータ
- 直流電流増幅率β=IC/IB
- アーリー電圧VA:出力抵抗に相当する効果
- コレクタ許容損失PD、コレクタ電流定格IC(max)
- 飽和電圧VCE(sat)、ベース‐エミッタ電圧VBE
- 遷移周波数fT、ゲイン帯域幅product(GBW相当)
直流・小信号モデル
アクティブ領域ではエクスポネンシャルI‐Vが支配的で、Ebers–Mollモデルで全域記述できる。小信号解析ではhybrid-πモデルが広く使われ、gm=IC/VT、rπ=β/gm、出力抵抗ro≈VA/ICで与えられる。これにより利得、入力インピーダンス、出力インピーダンス、周波数応答を設計可能である。
アーリー効果と直線性
コレクタ‐ベース電圧が増すとベース幅が狭まりICが増す(アーリー効果)。roの有限性は出力段の利得や直線性に影響するため、カスコード化や負帰還で補償する。
高周波・スイッチング特性
高周波特性は接合容量CBE・CBCと遷移時間により制約される。fTはICの増大で一旦向上するが、過度な電流や自己発熱で劣化する。スイッチングではベース駆動比、蓄積電荷、ミラー効果が遅延要因である。飽和防止用のショットキークランプやベーススイープアウト手法でターンオフを高速化できる。
安全動作領域(SOA)
過電圧・過電流・二次破壊を避けるため、SOA曲線内で使用する。特に高VCEかつ高ICの領域はリスクが大きく、スナバ回路やクランプで保護する。
回路構成と応用
基本の共通エミッタ(電圧利得大)、共通ベース(高周波向き)、共通コレクタ(エミッタフォロワ、低出力抵抗)を使い分ける。差動対は入力オフセットとCMRRに優れ、電流ミラーは安定したバイアス供給に有用である。ダーリントン接続は高βを得られるがVBE増加と速度低下を伴う。アナログではプリアンプ、パワーステージ、バッファに、デジタルではトーテムポールやレベルシフト、オープンコレクタ出力などに広く用いられる。
負帰還と安定化
エミッタ抵抗による局所帰還は温度ドリフトと素子ばらつきに強い。周波数補償は位相余裕を確保し、リンギングや発振を回避する。熱結合やサーミスタでVBEの温度係数を相殺する設計も一般的である。
設計上の留意点
- 熱設計:接合温度上限、放熱(θJA、θJC)の管理
- ばらつき対策:βのロット・温度依存に鈍感なバイアス
- 直線性:動作点、余裕電圧、roの影響を考慮
- EMC:配線帰還や容量結合を抑えるレイアウト
- 信頼性:SOA内動作、過渡保護、逆電圧対策
製造技術と信頼性
現代の平面プロセスでは、エピタキシャル層上に拡散・イオン注入でベース/エミッタ領域を形成し、サリサイド化やガードリングで抵抗・寄生を最適化する。パッケージはTO-92やTO-220、SOT-23などが代表で、熱伝導と寄生要素が特性を左右する。信頼性面ではエレクトロマイグレーション、ハーミチシール、湿度ストレス、サーマルサイクルが評価対象である。これらを理解し、データシートの定格と特性曲線に基づき、BJTの利点である高gm・低ノイズ・堅牢スイッチングを引き出すことが重要である。