BACnet|ビル自動化の標準通信規格

BACnet

BACnetはビルオートメーション分野で広く用いられるオープンな通信規格であり、ASHRAE Standard 135として策定され、国際規格ISO 16484-5にも整合する。空調(HVAC)、照明、セキュリティ、エネルギー管理などの装置や監視ソフトウェアを、ベンダに依存せず相互接続できる点が特徴である。BACnetは「オブジェクト」「プロパティ」「サービス」という明確なデータモデルを持ち、BACnet/IP、MS/TP(RS-485)、Ethernetなど複数の物理・リンク層を選択できる。発報・監視・記録・スケジューリングまでを一貫して扱えるため、BAS全体のライフサイクルで運用しやすい。

標準と位置づけ

BACnetはASHRAEが制定した建物設備用の通信標準である。設備ごとに異なる専用プロトコルの壁を越えるため、相互運用性(Interoperability)を中心に設計されている。実装はPICS(Protocol Implementation Conformance Statement)で公開され、BIBB(BACnet Interoperability Building Blocks)により装置間の機能的互換性を定義する。適合性評価としてはBTL(BACnet Testing Laboratories)認証が広く用いられ、現場でのベンダ混在構成においても安心して導入できる体制が整っている。

アーキテクチャとデータモデル

BACnetは各機能を「オブジェクト」として表現し、オブジェクトは多数の「プロパティ」を持つ。例えば温度などの連続量はAnalog Input/Output/Value、開閉などの離散量はBinary Input/Output/Value、段階的な状態はMulti-state系で表す。さらにDevice、Schedule、Calendar、Trend Log、Notification Class、Event Enrollment、Loop、Programなどのオブジェクトがあり、設備監視に必要な履歴収集、イベント通知、制御ループ、スケジューリングまでを網羅する。

  • 代表的プロパティ:Present_Value、Units、Status_Flags、Priority_Array、Out_Of_Service など
  • 効率化機能:COV(Change of Value)通知により、値変化時のみ更新しネットワーク負荷を低減

通信層とネットワーク構成

BACnet/IPはUDP上で動作し、既定ポートは47808(0xBAC0)である。BVLC(BACnet Virtual Link Control)によりIP上の仮想リンクを提供し、サブネットを跨ぐブロードキャストにはBBMD(BACnet/IP Broadcast Management Device)を用いる。MS/TPはRS-485のトークンパッシング方式で、MACアドレス、Max Master、ボーレート、終端抵抗の適正化が安定動作に直結する。Ethernet(ISO 8802-3)も選択肢であり、ルータがネットワーク番号を跨いでNPDUを転送する。近年はIPv6対応(Annex U)も整備されている。

  • アドレス体系:デバイスインスタンス番号(全体で一意)とネットワーク番号で拠点内外のルーティングを明確化
  • セグメンテーション:大きなAPDUを分割し再送制御することで信頼性を確保

主要サービス(APDU)

BACnetのサービスは装置探索、監視、制御、イベント処理、時刻同期などを網羅する。典型的にはWho-Is/I-AmやWho-Has/I-Haveで発見を行い、ReadProperty/WriteProperty/ReadPropertyMultipleでデータ授受を行う。SubscribeCOVで変化時通知、TimeSynchronization/UTCTimeSynchronizationで全体の時刻整合を取る。アラームはAcknowledgeAlarmや(Un)ConfirmedEventNotificationで管理される。

  • 探索:Who-Is / I-Am、Who-Has / I-Have
  • データ:ReadProperty / WriteProperty / ReadPropertyMultiple
  • イベント:SubscribeCOV / GetEventInformation / AcknowledgeAlarm
  • 時刻:TimeSynchronization / UTCTimeSynchronization

デバイスプロファイルと相互運用

BACnetにはB-BC(Building Controller)、B-AAC(Advanced Application Controller)、B-ASC(Application-Specific Controller)、B-SS(Smart Sensor)、B-SA(Smart Actuator)、B-OWS(Operator Workstation)、B-OD(Operator Display)などのプロファイルがある。プロファイルとBIBBの組み合わせで装置ごとの期待機能が明確化され、PICSで提供範囲が公開される。これにより設計段階で相互運用を検証しやすく、導入後の置換・増設の自由度が高い。

設計・導入の要点

  • アドレス計画:デバイスインスタンスとネットワーク番号の一意性確保、命名規約の統一
  • MS/TP品質:配線長、終端・偏波、グラウンド、アイソレーション、ノイズ耐性の確保
  • トラフィック最適化:COVのデッドバンド設定、Trend Logのサンプリング周期設計
  • BBMD配置:拠点間のブロードキャスト要件を精査し、過剰拡散を防止
  • 時刻同期:全装置のNTP/UTC整合、ログ時系列の信頼性確保
  • セグメント条件:Max APDU、ウィンドウサイズ、再送回数の整合

セキュリティとBACnet/SC

従来のBACnet/IPは暗号化や認証が前提でなく、ファイアウォールやVLAN分離、不要ポート閉塞(UDP 47808)の基本対策が不可欠である。新たなBACnet/SC(Secure Connect)はTLS上のWebSocketを用い、証明書ベースの相互認証を行う。トポロジはHub-and-SpokeまたはFull Meshを選択でき、長距離・拠点間接続での安全性と到達性を高める。BBMDやNAT越えの複雑性を低減しつつ、ゼロトラストに近い設計が可能になる。

トラブルシューティングと計測

BACnetの現場診断では、Who-Isでの探索応答確認、デバイスインスタンスの重複検出、APDUセグメント再送の有無、COVの遅延や取りこぼし、Trend Logの欠測を点検する。IP系はWiresharkでBVLCやNPDU/APDUを解析し、MS/TPはUSB–RS485アダプタでバス波形とトークンパッシングの健全性を観測する。MAC重複、終端不良、Max Master不整合は典型的な要因であり、設計値と実機設定の差分管理が有効である。

関連規格・用語

ASHRAE 135、ISO 16484-5、BTL、PICS、BIBB、BVLC、BBMD、MS/TP、APDU/NPDU、COV、Schedule、Trend Log、Notification Classなどの用語を理解しておくと、仕様書や試験成績書の読解が容易になる。特にBTLリストの確認とPICS整合は、マルチベンダ構成の成功に直結する。

代表的ユースケース

  • HVAC:ゾーン温度やVAV、チラー・ボイラの最適制御をBACnetで統合
  • 照明制御:占有センサ連動の調光スケジュールとエネルギー可視化
  • エネルギー管理:メータ類のTrend Log集計とデマンド監視の自動化
  • セキュリティ連携:入退室イベントをBACnetイベントとして監視・記録