ArFエキシマレーザ
ArFエキシマレーザは、半導体の微細加工工程で重要な役割を果たす深紫外線光源として広く利用されており、特にフォトリソグラフィ技術を支える根幹的な存在として認知されている。ArFとはArgon Fluorideの略称であり、高エネルギーな193 nm前後の波長を安定的に発振する特性がある。KrFエキシマレーザ(248 nm)よりも波長が短く、より微細なパターンを描画できることから、先端プロセスにおいてはArFが主流となってきた。レーザ媒体のガス混合比や放電条件などが最適化されることで、安定した高出力と長寿命化が実現され、半導体露光装置メーカーの競争力を左右する要因の一つともなっている。
ArFエキシマレーザの概要
ArFエキシマレーザは、アルゴン(Ar)とフッ素(F2)などのガスを混合し、放電や電子ビームを用いて高エネルギー状態を作り出すことで生じる励起ダイマー(エキシマ)の解離発光を利用している。エキシマとは、基底状態で結合しない分子が励起状態では結合して発光するという特異な現象を指す。このような励起状態から基底状態へ遷移するときに放出される光が深紫外領域に属し、高いフォトンエネルギーを得られるという利点がある。ArFエキシマレーザで得られる193 nmの短波長は、微細な回路パターンを形成するための露光プロセスに不可欠な要素となってきている。
波長の特徴
ArFエキシマレーザが発振する193 nm付近の波長は、一般的に深紫外(DUV:Deep Ultraviolet)と呼ばれる領域にあたる。波長が短いほど光の回折限界が下がるため、半導体基板上により微細なパターンを描くことが可能になる。従来はi線ステッパ(波長365 nm)やKrFエキシマレーザ(248 nm)が用いられていたが、回路パターンのさらなる微細化が進むにつれてArFエキシマレーザへの移行が加速していった。現在ではArF液浸露光技術などが確立され、ナノメートル単位での加工精度を実現する要となっている。
半導体露光への応用
ArFエキシマレーザはフォトマスク上の回路パターンをレジストに転写する際の光源として使われる。193 nmという短波長を活かし、高い解像度でレジストにイメージを焼き付けることが可能になる。さらに液浸技術を組み合わせることで、空気より屈折率の高い液体をレンズとウエハの間に挟み込み、実質的に波長を短くしたのと同等の効果を得ている。この手法により回折の影響が抑えられ、32 nm以下の微細回路にも対応できるため、ロジックチップやメモリの高性能化や小型化に寄与している。
レーザ発振のメカニズム
ArFエキシマレーザの発振には、放電プラズマによって原子状のアルゴンとフッ素分子が衝突し、エキシマ分子を励起するプロセスが必要になる。励起されたArFエキシマ分子は非常に短い寿命しか持たず、速やかに基底状態へ戻りながら光子を放出する。レーザ共振器内では、この光子が高反射ミラーと出射ミラーの間を往復する過程で増幅され、狭帯域かつ高ピークパワーの出力が得られる。ガス組成や放電条件の微調整によって、レーザの出力強度やビーム品質、発振スペクトルの狭帯域化などを最適化することが行われる。
メンテナンスとコスト
ArFエキシマレーザにはガス交換や内部部品の摩耗といったメンテナンス要件が存在し、システム全体の稼働率に大きく影響を及ぼす。特にガスの組成は高性能発振を保つ上で重要であり、一定期間ごとにガスのリフィルが必要になる。また、ミラーや放電電極などの部品交換も定期的に実施されるため、ランニングコストが無視できない規模になることも多い。露光装置の稼働を一刻も止めたくない半導体工場では、予備のレーザユニットを常に備えておくなど、予防保全に力が入れられている。
高効率化の工夫
ArFエキシマレーザの効率を高めるには、放電エネルギーをできるだけ励起に有効活用し、損失を低減することが求められる。具体的には、放電空間を均一に保つための電極設計や、ガス流路の最適化、発振スペクトルを狭帯域化するための波長ロック技術などが導入される。結果として、高い平均出力とビーム安定性を両立し、半導体露光プロセスのタクトタイム向上と歩留まり向上に寄与している。周辺部品の大型化や冷却系の強化といった対策も進められ、さらなる出力向上を狙った研究開発が行われている。