HEPAフィルタ|空気中の微粒子を99.97%除去する高性能フィルター

HEPAフィルタ

HEPAフィルタ(High Efficiency Particulate Air Filter)とは、空気中に浮遊する微小粒子を高効率で捕集する超高性能エアフィルタである。JIS Z 8122により「定格風量で粒径が0.3μmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率をもち、かつ初期圧力損失が245Pa以下の性能を持つエアフィルタ」と規定されている。ろ材には直径1〜10μmのガラス繊維が用いられ、慣性・さえぎり・拡散・重力・静電気の5つの捕集機構によって幅広い粒径の粒子を除去する。もともとは第2次世界大戦中の米国で放射性物質の飛散防止を目的に開発され、現在では半導体製造のクリーンルーム、医療施設、空気清浄機、原子力施設など、きわめて幅広い産業・生活環境で不可欠な要素技術となっている。

開発の経緯

HEPAフィルタは1940年代に米国政府が軍事目的で開発したのが始まりとされる。当初は核開発計画において放射性微粒子が環境中へ拡散することを防ぐための換気フィルタとして設計され、後にクリーンルーム用途へと転用された。性能規格はIES(Institute of Environmental Sciences)の推奨基準IES-RP-CC-001として整備され、粒径0.3μmの粒子に対して99.97%以上の捕集効率と定格風量における250Pa以下の圧力損失が世界共通の指標となった。日本では当初JIS Z 4812「放射性エーロゾル用高性能エアフィルター」として制定され、その後JIS Z 8122のコンタミネーションコントロール用語規格の中で定義が整理された。

構造と材質

HEPAフィルタのろ材は主に直径1〜10μmのガラス繊維製シートで構成される。繊維の充填率は10%程度であり、見かけ上の空隙は数十μmに達するが、後述する複合的な捕集機構によって0.3μmという微小粒子でも高率で捕捉できる。ろ材はじゃばら(プリーツ)状に折り畳まれ、アルミスペーサーや接着剤スペーサーで各プリーツ間の間隔を均一に保ちながらフレームに収納される。じゃばら折りによってコンパクトな外形寸法の中に大きなろ過面積を確保でき、流速を低く保つことで圧力損失の増大を抑制している。フレーム材はアルミニウムや亜鉛めっき鋼板、難燃性樹脂など用途に応じて選定される。

粒子の捕集メカニズム

HEPAフィルタは単純な篩のように目より大きな粒子を遮断するのではなく、以下の5つの物理的機構を複合的に活用して粒子を捕集する。

  • 慣性衝突:比較的大きな粒子は気流が繊維を迂回するときに慣性で直進し、繊維に衝突して捕集される。粒径が大きいほど効果が高い。
  • さえぎり(遮り):粒子が繊維表面に近い流線に乗ったまま繊維に接触することで捕集される。粒径に比較的依存しない機構である。
  • 拡散:0.1μm以下の極微粒子はブラウン運動によってランダムに動き、繊維と接触する確率が高まる。粒径が小さいほど効果が増す。
  • 重力沈降:空気抵抗で運動エネルギーを失った粒子が重力で落下し繊維に捕捉される。比較的大きな粒子で寄与する。
  • 静電気:粒子と繊維の間の静電引力によって捕集される。ろ材の帯電量によって寄与の大きさが変わる。

慣性衝突・さえぎり・重力の効果は粒径が大きいほど強く、拡散は粒径が小さいほど強くなるため、これらの総和であるフィルタ全体の捕集効率は粒径によって異なる極小値をとる。HEPAフィルタの場合、捕集効率が最も低くなるのは0.1〜0.2μm付近であり、これを最大透過粒径(MPPS: Most Penetrating Particle Size)と呼ぶ。規格値が0.3μmで定められているのはMPPSより大きい粒径では効率が十分に回復するためである。

規格と性能クラス

国内ではJIS規格Z 8122にHEPAフィルタの定義が規定されており、捕集効率99.97%以上・初期圧力損失245Pa以下が最低要件である。欧州規格EN 1822ではH10〜H14のクラス区分が定められ、H14クラスは0.3μmに対して99.995%以上の捕集効率を要求する。HEPAフィルタよりもさらに高性能なULPAフィルタ(Ultra Low Penetration Air Filter)も存在し、JIS規格では「定格風量で粒径0.15μmの粒子に対して99.9995%以上の捕集率をもち、かつ初期圧力損失が245Pa以下」と規定されている。用途の清浄度要求に応じてHEPAとULPAを使い分けることが一般的である。

HEPAフィルタとULPAフィルタの比較

以下に両者の主な性能指標を示す。

項目 HEPAフィルタ ULPAフィルタ
規定粒径 0.3μm 0.15μm
最低捕集効率 99.97%以上 99.9995%以上
初期圧力損失 245Pa以下 245Pa以下
主な用途 クリーンルーム、空気清浄機、医療施設 半導体先端プロセス、バイオセーフティ施設

主な用途

HEPAフィルタは清浄空気が必要とされる多様な現場で活用されている。クリーンルームでは天井面にFFU(ファン・フィルタ・ユニット)として組み込まれ、垂直一方向流を形成して空間全体の清浄度を維持する。半導体製造の前工程ではHEPAフィルタやULPAフィルタで空気を循環させることでクラス1〜クラス10の超清浄環境が実現され、パーティクル起因の素子不良を極小化している。医療機関の手術室や無菌室でも院内感染防止の観点から広く採用されており、原子力施設では排気中の放射性微粒子を除去する気体廃棄物処理設備にも用いられる。家庭・業務用空気清浄機では花粉・黄砂・PM2.5など身近な有害粒子の除去手段として普及しており、掃除機の排気フィルタにも搭載されている。

寿命と交換管理

HEPAフィルタは消耗品であり、捕集した粒子の蓄積によって経時的に圧力損失が上昇する。一般社団法人日本電気工業会は交換の目安を「初期性能から50%ダウンしたタイミング」と示しており、微差圧計を用いて初期値から+80Paを超えた時点を目安とする方法も現場では広く採用されている。産業用途では使用開始から概ね3〜5年での交換が推奨されるが、空気中の汚染濃度が高い環境ではこれより短くなる場合もある。交換の際はフィルタ内に捕集された粒子が飛散しないよう、専門的な手順に従った取り外し・廃棄が求められる。なお、フィルタエレメント全般に共通する原則として、捕集効率と圧力損失のバランスを定期的にモニタリングすることが長期的な設備信頼性の維持につながる。

エアフィルタの性能帯域はプレフィルタ(粗塵除去)・中性能フィルタ・HEPAフィルタ・ULPAフィルタという段階で構成される。HEPAフィルタの前段にプレフィルタを設置して粗大粒子を事前に除去することで、HEPAフィルタの目詰まりを抑制して寿命を延ばす多段構成が標準的である。また、粒子状汚染物質の除去を担うHEPAフィルタに対し、揮発性有機化合物(VOC)やアンモニアなどのガス状汚染物質の除去には活性炭フィルタや化学吸着フィルタが用いられるため、用途によってこれらを組み合わせる設計が採られる。SMIFのような密閉搬送技術と組み合わせることで、クリーンルームの高コストな設備投資を抑えながら局所清浄度を保つアプローチも製造現場では一般化している。

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