有機溶剤中毒予防規則|溶剤取扱作業の中毒防止を定めた省令

有機溶剤中毒予防規則

有機溶剤中毒予防規則は、労働安全衛生法に基づき、屋内作業場などで有機溶剤を取り扱う労働者の中毒を防ぐために定められた厚生労働省令である。1972年(昭和47年)に労働省令第36号として公布され、現場では「有機則」と略して呼ばれることが多い。設備の設置、作業主任者の選任、作業環境測定、健康診断、保護具の使用など、事業者が講じるべき措置を具体的に規定している。

制定の背景と改正の流れ

1960年代、ヘップサンダルの製造現場で使われたベンゼン入りの接着剤による中毒が相次ぎ、社会問題となった。これを受けて1960年に旧労働基準法のもとで旧規則が制定され、1972年の労働安全衛生法施行にあわせて現行の有機溶剤中毒予防規則へと引き継がれた。2014年(平成26年)にはクロロホルムやジクロロメタンなど10物質が発がん性を理由に特定化学物質障害予防規則へ移され、「特別有機溶剤」として管理されるようになった。近年は化学物質の自律的管理への転換が進み、2023年(令和5年)公布の改正省令で掲示事項の見直しや第三管理区分事業場への措置強化が盛り込まれている。

対象となる有機溶剤の区分

規制対象は労働安全衛生法施行令別表第6の2に掲げる44物質で、有害性や揮発性に応じて3種類に区分される。混合物の場合、有機溶剤を重量の5%を超えて含むものが対象になる。区分ごとに作業場へ掲示する色も決められており、第1種は赤、第2種は黄、第3種は青で表示する。

区分 物質数 代表的な物質 掲示色
第1種有機溶剤 2 1,2-ジクロロエチレン、二硫化炭素 赤
第2種有機溶剤 35 トルエン、キシレン、アセトン、メタノール、酢酸エチル 黄
第3種有機溶剤 7 ガソリン、石油ナフサ、ミネラルスピリット 青

第3種は主に石油系の混合溶剤で、タンク内などの通風が悪い場所での作業に限って設備規制がかかる。購入した塗料やシンナーがどの区分に該当するかは、SDSの組成欄で含有率を確認して判断するのが基本である。

発散源対策として求められる設備

第1種・第2種有機溶剤を屋内で取り扱う業務では、発散源を密閉する設備、局所排気装置、プッシュプル型換気装置のいずれかを設けなければならない。局所排気装置には性能要件があり、フードの型式ごとに制御風速が定められている。

  • 囲い式フード:0.4 m/s
  • 外付け式フード(側方吸引型):0.5 m/s
  • 外付け式フード(下方吸引型):0.5 m/s
  • 外付け式フード(上方吸引型):1.0 m/s

設置後は1年以内ごとに1回の定期自主検査が必要で、記録は3年間保存する。

許容消費量による適用除外

少量しか使わない作業場では、1時間あたりの消費量が許容消費量を超えなければ、所轄労働基準監督署長の認定を受けて設備規定の適用が除外される。許容消費量W(g)は作業場の気積A(m3、150を超える場合は150とする)を使い、次のように求める。

第1種有機溶剤:W = 1⁄15 × A
第2種有機溶剤:W = 2⁄5 × A
第3種有機溶剤:W = 3⁄2 × A

たとえば気積150 m3の部屋で第2種有機溶剤を使う場合、上限は1時間あたり60 gになる。

作業主任者と作業管理

屋内作業場で有機溶剤業務を行う場合、事業者は有機溶剤作業主任者技能講習の修了者から作業主任者を選任する。作業主任者は作業方法の決定と指揮、局所排気装置の点検、保護具の使用状況の監視を担う。講習は通常2日間で、受講料は1万円台前半が目安となる。小規模な工場では、塗装班長や品質担当者が兼務しているケースがよく見られる。

タンクの内部など通風が不十分な場所での作業には、送気マスクの着用が求められる。短時間の作業や臨時の作業では防毒マスクで代替できる場合もあるが、吸収缶の破過時間を考慮した交換管理を怠ると、マスクを着けていても中毒が起こりうる。

作業環境測定と健康診断

第1種・第2種有機溶剤を扱う屋内作業場では、6月以内ごとに1回、作業環境測定を実施し、記録を3年間保存する。測定結果は管理濃度と比較して第一から第三までの管理区分に評価される。主な物質の管理濃度は次のとおりである。

物質名 管理濃度 主な用途
トルエン 20 ppm 塗料用シンナー、接着剤
キシレン 50 ppm 塗料、インキ
メタノール 200 ppm 洗浄、反応溶媒
酢酸エチル 200 ppm 接着剤、印刷
アセトン 500 ppm 脱脂洗浄、樹脂溶解

健康診断は雇入れ時、配置替え時、その後6月以内ごとに1回行い、結果は5年間保存する。キシレンを扱う労働者であれば尿中メチル馬尿酸の測定といったように、物質ごとに生物学的モニタリングの項目が指定されている。

第三管理区分への措置強化と個人ばく露測定

2024年(令和6年)4月以降、作業環境測定で第三管理区分と評価された作業場では、外部の作業環境管理専門家から改善の可否について意見を聴くことが義務となった。改善が困難と判断された場合は、個人サンプリング測定などでばく露濃度を把握し、有効な呼吸用保護具を選んで装着状態を確認する必要がある。この流れの中で、個人ばく露測定の精度を担保するための測定者要件も定められ、2026年(令和8年)10月1日から施行されている。2023年の改正では、化学物質管理専門家の確認を受けて管理状況が良好と認められた事業場について、個別規制の一部を適用除外とする特例も設けられた。

製造現場での実務上の対応

中小の塗装工場や金属部品の洗浄工程では、局所排気装置の新設に数百万円規模の費用がかかることも珍しくない。そのため、有機則の対象外となる低VOC溶剤や水系塗料への切替によって、設備投資と測定・健診のランニングコストを同時に抑える企業が増えている。ただし、代替溶剤が特化則やリスクアセスメント対象物に該当するケースもあり、切替前にSDSで規制の重複を確認しておかないと、かえって管理項目が増える場合がある。

見落としやすいのは、ウエスに染み込ませた溶剤の放置や、使用後の容器のふたの開けっ放しである。有機溶剤中毒予防規則は有機溶剤等を入れた容器を屋内に置く際、密閉するか屋外に排気する設備を備えた場所に保管するよう定めており、監督署の臨検でも指摘の多い項目となっている。

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