アトマイズ法
アトマイズ法は、溶かした金属を細い流れにして落とし、そこへ高圧の水やガスを吹き付けて細かな液滴に分け、そのまま固めて金属粉末をつくる製造方法である。日本語では「噴霧法」とも呼ばれ、JIS Z 2500(粉末冶金用語)では粉末の製造法のひとつとされている。できあがる粉末の粒径はおおむね数μmから数百μmで、粉末冶金用の鉄粉から積層造形用の合金粉末まで、さまざまな用途に使われている。溶解の段階で合金成分を決められるため、粉砕法や還元法ではつくりにくい高合金の粉末を大量に生産できる。
工業化までの歩み
液体金属を吹き飛ばして粒にする方法は古くからあり、20世紀前半にはスズや鉛、アルミニウムといった融点の低い金属で実用化されていた。鉄系の粉末に広がったのは1960年代である。この時期に欧米で水アトマイズ鉄粉の量産が始まり、日本の鉄鋼メーカーも1960年代後半から設備を導入した。1970年代には、ジェットエンジン用のニッケル基超合金を熱間等方圧加圧(HIP)で固める工程が登場し、酸素の少ない粉末をつくれる不活性ガスアトマイズの技術が大きく進んだ。2010年代以降は金属積層造形が普及し、球形で細かい粉末への需要が急に増えている。
液滴ができる仕組み
タンディッシュの底には内径3〜10mm程度のノズルがあり、溶けた金属はそこから流れ落ちる。周りのノズルから噴き出した水やガスがこの流れにぶつかると、金属はまず帯状や糸状に引きちぎられる(一次分裂)。続いて表面張力の働きで細かな液滴に分かれ(二次分裂)、飛びながら冷えて固まる。水アトマイズの冷却速度は104K/sを超えることもあり、合金成分の偏りが小さい急冷凝固組織ができやすい。平均粒径を見積もる経験式としては、次の関係がよく知られている。
d50 = C / (v・sinα)
d50:質量中位径、v:噴射媒体の速度、α:溶湯流と噴射流がなす角度、C:材料と装置で決まる定数
この式が示すとおり、噴射速度を上げて衝突角度を大きくするほど粉末は細かくなる。実際の操業では、噴射圧力のほかに、溶湯の過熱度(融点より100〜200℃高く保つことが多い)や金属とガスの流量比も調整して粒度を合わせ込む。
水アトマイズとガスアトマイズの比較
工業的に使われている方式の大半は、水を使うものとガスを使うものの2つである。両者は粒子の形、酸素量、コストが大きく違うため、用途に応じて使い分けられている。
| 項目 | 水アトマイズ | ガスアトマイズ |
|---|---|---|
| 噴射媒体 | 高圧水 | 窒素、アルゴン、空気 |
| 噴射圧力の目安 | 10〜150MPa | 1〜5MPa |
| 粒子の形 | 不規則形状 | ほぼ球形 |
| 酸素含有量の目安 | 0.1〜0.5mass%程度 | 0.01〜0.03mass%程度 |
| 主な用途 | プレス成形用鉄粉、軟磁性粉 | 積層造形、HIP、溶射 |
| 製造コスト | 低い | 高い |
粒子の形が成形性に与える影響
水アトマイズ粉はでこぼこした形をしているため、金型で押し固めると粒子どうしがかみ合い、成形体の強度(グリーン強度)が高くなる。自動車用の焼結部品にこの粉が多く使われているのは、この性質のためである。逆に球形のガスアトマイズ粉は流れやすく、薄く均一に敷き詰める必要のあるレーザー粉末床溶融結合(LPBF)に向いている。
その他のアトマイズ方式
活性な金属や、とくに高い純度が求められる材料には、るつぼを使わない方式や真空中で溶かす方式がとられる。代表的なものは次の4つである。
- 真空誘導溶解ガスアトマイズ(VIGA):真空中で溶かして酸化を抑える。ニッケル基合金やステンレス鋼で広く使われる
- 電極誘導溶解ガスアトマイズ(EIGA):棒状の電極を誘導加熱で溶かし、セラミックるつぼを使わない。チタン合金向け
- プラズマアトマイズ:ワイヤをプラズマトーチで溶かして噴霧する。真球に近く、サテライト(小粒子の付着)が少ない
- 遠心アトマイズ:回転する円板や電極から溶湯を飛ばす。粒度分布が狭く、ガスの消費量が少ない
品質を左右する評価項目
粒度分布は、JIS Z 8801のふるいによる分級と、ISO 13320に準拠したレーザー回折法で測るのが一般的である。流動度はJIS Z 2502のホールフローメータで50gの粉末が流れ落ちるまでの秒数を測り、見掛密度はJIS Z 2504で評価する。積層造形向けの粉末では、これらに加えて、粒子の中にガスが閉じ込められてできる空孔や、サテライトの付き方を電子顕微鏡で確認することが多い。ガスアトマイズ粉の内部空孔は、造形品の疲労強度を下げる原因になるからである。
製造現場での使い分けとコスト感
調達の現場で最も効いてくるのは歩留まりである。LPBF用の15〜45μmの範囲だけを取り出すと、ガスアトマイズで得られた粉末全体のうち製品になるのは3〜5割程度にとどまることが多い。残りの細かい粉は金属射出成形(MIM)用に、粗い粉は溶射用や肉盛用に回し、全体の採算を合わせるのが一般的な方法である。価格の目安を挙げると、プレス用の水アトマイズ鉄粉は1kgあたり数百円の水準であり、積層造形用のステンレス粉では1kgあたり数千円、Ti-6Al-4V粉になると1kgあたり数万円に達する。MIMでは、平均粒径10μm前後まで細かくした高圧水アトマイズ粉をガスアトマイズ粉の代わりに使い、材料費を下げることもある。ただし酸素量が多い分、焼結時の脱酸や炭素量の管理には気をつけなければならない。
操業上の安全と設備の注意点
細かい金属粉は表面積が大きいため、粉塵爆発の危険がつきまとう。とくにアルミニウムやマグネシウム、チタンは水と反応して水素を発生するおそれがあるため、水アトマイズでは製造せず、不活性ガス中で処理する。ガスアトマイズでも、捕集用のサイクロンやフィルタの中で粉末が空気に触れて急に酸化しないよう、少しずつ酸素を含ませて表面を安定させる処理(徐酸化)を行う。設備面では、ノズルの先で溶湯が固まって詰まる「ノズル閉塞」がよく起こるトラブルである。そのため、タンディッシュとノズルを1000℃前後まで予熱してから注湯を始めるのが基本となっている。
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