圧縮空気|工場を支える第4のユーティリティ

圧縮空気

圧縮空気とは、大気中の空気をコンプレッサーで加圧し、大気圧より高い圧力にした空気である。工場では電力・水・燃料ガスに続く「第4のユーティリティ」と呼ばれ、アクチュエータの駆動、エアブロー、塗装、計装用空気など用途は広い。国内工場の主配管はゲージ圧0.5〜0.7MPa程度で運用されることが多い。品質は国際規格ISO 8573-1と、これに対応するJIS B 8392-1で等級分けされている。

扱いやすい反面、高くつくエネルギー

現場で重宝される理由ははっきりしている。火花を出さないので防爆エリアでも使え、負荷がかかりすぎても止まるだけで、モーターのように焼損しない。配管さえ引けば建屋の端まで動力を届けられる。ただし、エネルギー効率はかなり低い。コンプレッサーに入れた電力のうち末端で仕事に変わるのは10〜20%程度とされ、残りの大半は圧縮熱として捨てられる。工場全体の消費電力の20〜25%前後をコンプレッサーが占める事業所も珍しくない。「空気はタダ」という感覚が残る職場では、漏れや必要以上に高い供給圧力が放置されがちである。

圧縮すると何が起きるか

温度を一定とみなせば、気体の圧力と体積はボイルの法則 P1V1 = P2V2 に従う。絶対圧約0.1MPaの大気1m³を絶対圧0.8MPa(ゲージ圧0.7MPa)まで圧縮すると、体積は約1/8になる。実際の圧縮は断熱変化に近く、温度も大きく上がる。給油を行わないオイルフリースクリュー式では、吐出温度が200℃前後に達する機種もある。そのためアフタークーラーで40℃前後まで冷却するが、冷やせば空気中の水蒸気が凝縮し、ドレンと呼ばれる凝縮水が発生する。

ドレン発生量の目安

30℃の空気の飽和水蒸気量は約30.4g/m³で、相対湿度80%なら1m³あたり約24gの水分を含む。これを1/8の体積に圧縮して40℃まで冷やすと、その体積で保持できる水分は約6.4gしかない。差し引き約18gが液体になる計算である。吐出量10m³/minクラスのコンプレッサーなら1時間で10kgを超え、8時間稼働で80L以上のドレンが出る。夏場にドレントラップが詰まると、この水が末端の機器まで流れ込む。

品質等級と除湿方式の選び方

ISO 8573-1は、汚染物質を固形粒子・水分・油分の3種類に分け、[1:4:1]のように等級を並べて表す。水分の等級は圧力下での露点(圧力露点)で決まり、等級4は+3℃以下、等級2は−40℃以下である。除湿にはエアドライヤーを使い、方式によって到達露点とランニングコストがかなり異なる。

方式 圧力露点の目安 エネルギー面の特徴 主な用途
冷凍式 +3〜+10℃ 冷凍機の電力のみで、空気損失はほぼない 一般工場の主配管
吸着式(ヒートレス) −40〜−70℃ 再生用パージで処理空気の15〜20%程度を消費 計装用空気、屋外配管、電子部品
膜式(中空糸膜) −20℃前後 電源不要だが、パージ空気が必要 小流量の末端処理

実務では、工場全体の空気をすべて吸着式で処理することは少ない。主配管は冷凍式で処理し、塗装ブースや計装ラインなど乾燥度の要求が厳しい箇所だけに吸着式を置く「ポイント処理」が、設備費と電力のバランスがよく一般的である。食品や医薬品の工場では油分が等級1(0.01mg/m³以下)以上に指定されることが多く、オイルフリー機の採用やフィルタの多段設置で対応する。

製造現場での主な用途

用途は大きく「動力」「清掃・吹付け」「制御」に分かれる。代表的なものを挙げる。

  • 空気圧シリンダーや電磁弁を組み合わせたクランプ、搬送、プレス機構
  • 切粉や切削油、洗浄後の水滴を吹き飛ばすエアブロー
  • スプレーガンによる塗装、粉体の空気輸送
  • 空気式の調節弁を動かす計装用空気
  • インパクトレンチやグラインダなどのエアツール
  • 窒素ガス発生装置(PSA式・膜式)の原料空気

このうちエアブローは消費量が見えにくい。内径の大きなノズルを開けっ放しにする使い方は、1本で数百L/minを消費することもある。省エネノズルへの交換や間欠吹き付けへの変更は、投資額が小さいわりに効果が出やすい改善項目である。

配管設計と漏れ対策

一般的な工場では、発生量の10〜30%が継手やホース、劣化したシール部から漏れているといわれる。0.7MPaの配管にφ1mmの穴が1つあるだけで、おおむね70L/min程度が失われる。休日に生産を止めた状態でもコンプレッサーが負荷運転しているなら、漏れを疑ってよい。配管は末端の圧力降下を抑えるためにループ状に組み、ドレンが溜まらないよう1/100程度の下り勾配をつける。分岐は主管の上部から取り出すのが基本である。供給圧力を0.1MPa下げると、消費電力は7〜8%程度下がるとされる。圧力損失を減らして設定圧を下げることは、省エネルギー対策として最も効果の大きい手段の一つになる。

取り扱い上の安全

ゲージ圧0.2MPa以上の空気を貯める内容積0.04m³以上のエアタンクは、労働安全衛生法上の第二種圧力容器に該当し、1年以内ごとに1回の定期自主検査が義務付けられている。圧縮空気を人体に向けて吹き付ける行為は、皮膚から空気が入り込むおそれがあり非常に危険である。作業服のほこり払いにエアガンを使う習慣は、多くの事業所で禁止されている。

空気圧技術の歩み

産業利用が本格化したのは19世紀後半である。アルプスを貫くフレジュストンネル(1857〜1871年)の掘削では、1861年ごろから空気圧式の削岩機が導入され、工期の大幅な短縮につながった。1869年にはジョージ・ウェスティングハウスが鉄道用空気ブレーキの特許を取得し、パリでは1880年代に、街中へ動力用の空気を配管で送る公共ネットワークも運用された。日本では高度経済成長期以降、空気圧機器が自動化ラインの標準部品として普及し、ファクトリーオートメーションの進展を支えてきた。近年は電動アクチュエータへの置き換えも進んでいるが、軽さ、安さ、扱いやすさから、空気圧駆動は今も多くの生産設備で使われている。

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