ピボットヒンジ
ピボットヒンジ(pivot hinge)とは、扉の上端と下端に回転軸(ピボット)を設け、上下2点で扉を吊り込む建築金物である。軸吊りヒンジとも呼ばれ、扉の側面に取り付ける一般的なドアヒンジ(丁番)と異なり、回転中心が扉の上下小口に位置する。金物が小型で外観に露出しにくいため意匠性に優れ、扉の自重を下軸で垂直に受ける構造から、丁番吊りでは垂れ下がりが生じやすい重量扉にも対応できる。住宅の室内ドアから店舗の框ドア、公共施設のトイレブース、家具の扉に至るまで採用範囲は広く、扉質量90kg程度・扉幅900mm×高さ2100mm程度まで対応する製品が市販されている。
構造と荷重の受け方
ピボットヒンジは、扉下端の軸受け金物(ボトムピボット)と、上枠側のトップピボットの2点で構成される。丁番が扉側面のリーフとナックルで荷重を曲げモーメントとして受けるのに対し、ピボットヒンジは扉の自重を下軸がスラスト方向(垂直方向)にそのまま支持する。この違いが耐荷重性能の差につながる。下軸の摺動部には樹脂ブッシュや鋼球を組み込んだものが多く、高級品ではボールベアリングを内蔵して回転抵抗を減らしている。開閉時に扉へ作用する回転力はトルクとして軸部に伝わるため、軸径は扉質量と重心距離から決まる曲げ・ねじりを考慮して設定される。軸径の算定には軸の強さと軸の直径の考え方がそのまま応用できる。
吊り方式による分類
ピボットヒンジは回転軸の位置によって大きく3方式に分かれる。どの方式を選ぶかで扉の納まり、開き角度、召し合わせの意匠が変わるため、設計初期に決めておく必要がある。
- 中心吊り:回転軸を扉厚の中心線上に置く方式。内外どちらにも開く自由開きが可能で、開き角度は最大180°程度まで確保できる。
- 持出吊り:回転軸を扉の端部から外側へ持ち出す方式。枠と扉のチリを小さくでき、一方開きの框ドアや木製ドアで多用される。左右勝手がある点に注意を要する。
- 偏芯持出吊り:軸位置を扉面からずらして持ち出す方式。壁面との干渉を避けたい納まりや、扉を壁面とほぼ平行に開きたい場合に用いられる。
材質と表面処理
本体には亜鉛合金やアルミニウム合金の鋳造品(ダイカスト)、鋼板プレス品が使われ、屋外や水回りでは耐食性の高いステンレス鋼(SUS304相当)製が選ばれる。軸ピンは焼入れ鋼やステンレスの削り出しが一般的で、摺動面には含油ブッシュを介在させて摩耗を抑える。トイレブース用のグラビティヒンジ型では、傾斜カムとばねの作用で扉が自閉または自開するよう設計されたものもある。
フロアヒンジとの違い
扉の上下軸で吊り込む金物としてはフロアヒンジもあり、外観が似ているため混同されやすい。両者の本質的な違いは閉扉制御機構の有無にある。フロアヒンジは床に埋め込んだ本体内部のばねと油圧ダンパで閉扉速度を制御するのに対し、ピボットヒンジは単純な回転支持のみを担い、自閉機能が必要な場合はドアクローザを併用する。実務上の使い分けとコスト感を下表に示す。
| 項目 | ピボットヒンジ | フロアヒンジ |
|---|---|---|
| 閉扉制御 | なし(クローザ併用) | 油圧ダンパで速度調整 |
| 対応扉 | 比較的軽量な木製・框ドア | 重量ドア・強化ガラスドア |
| 床工事 | 不要または小規模 | ボックス埋め込みが必要 |
| 交換費用の目安 | 3万〜8万円程度 | 6万〜20万円程度 |
選定のポイント
選定ではまず扉質量と扉寸法を確認する。カタログには適用範囲が「扉質量90kg以下・DW900×DH2100mm以下」のように明記されているので、風圧や利用頻度が大きい出入口では1ランク上の型番を選ぶと安全側になる。次に開き勝手である。持出吊りには右勝手・左勝手の区別があり、発注間違いは施工現場で頻発するトラブルの一つに数えられる。防火戸に組み込む場合は建築基準法上の防火設備としての適合が求められるため、メーカーの適合証明を確認しておく。取付ねじの締付トルク管理も軽視できず、過大な締め付けは亜鉛ダイカスト本体の割れを招く。
施工と保守
施工では上下軸の芯出し精度が扉の建付けを決定づける。上下の軸芯が一致していないと開閉が重くなり、偏摩耗によって寿命が大幅に縮む。吊り込み後は扉と枠のチリが上下・左右とも均一かを確認し、調整機構付きの製品ではトップピボットで扉幅方向を微調整する。保守面では、ピボットヒンジは構造が単純なぶん耐久性が高く、使用環境にもよるが15年以上使われている事例が珍しくない。不具合の兆候は開閉時の異音、扉の下がり、軸部のガタとして現れる。摺動部への注油で改善しない場合はブッシュや軸の摩耗が進んでいるため、扉を吊り直す前提で金物一式を交換するのが確実である。廃番品の場合でも、主要メーカーは取付穴位置に互換性を持たせた後継機種を用意していることが多く、扉の加工を最小限に抑えた更新が可能である。
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