すべりねじ
すべりねじとは、おねじとめねじがねじ面で直接接触し、すべり摩擦を介して回転運動を直線運動に変換する送りねじの総称である。台形ねじや角ねじがその代表であり、構造が単純で安価、かつ静粛性に優れることから、ジャッキ、バルブ開閉装置、昇降機構、簡易的な位置決め装置など幅広い機械に採用されている。ボールを転動させるボールねじと対比される呼び名であり、伝達効率は30〜50%程度と低いものの、リード角の設定によってはセルフロック(自立性)を持たせられる点が大きな特長である。
ボールねじとの比較から見た位置づけ
送りねじを選定する際、設計者が最初に検討するのがすべりねじとボールねじの使い分けである。ボールねじは鋼球の転がり接触により効率90%以上を実現するが、循環部品を含む構造が複雑で高価になりやすい。対してすべりねじは、ねじ軸とナットの2部品で完結するため、部品コストはボールねじの数分の1に収まることが多い。摩擦が大きいことは効率面では欠点となる反面、外力による逆駆動が起こりにくく、垂直軸で電源遮断時にワークが落下しにくいという安全上の利点に転じる。騒音についても、鋼球の循環音が発生しないため静粛性で優位に立つ。
| 項目 | すべりねじ | ボールねじ |
|---|---|---|
| 伝達効率 | 30〜50%程度 | 90%以上 |
| セルフロック | 条件により有り | 無し(ブレーキ必要) |
| バックラッシ | 比較的大きい | 予圧でほぼゼロ化可能 |
| コスト | 安価 | 高価 |
| 騒音 | 小さい | 循環音が発生 |
作動原理と自立条件
すべりねじの効率は、リード角βと摩擦角ρの関係で決まる。摩擦角はtanρ=μ(μは摩擦係数)で定義され、効率ηは概ねη=tanβ/tan(β+ρ)で表される。鋼同士の組み合わせでは摩擦係数が0.1〜0.3程度となるため効率は低く、リード角が摩擦角より小さい(β<ρ)場合には軸方向荷重を加えてもねじが回転しない自立状態となる。この性質はジャッキや万力のように荷重を保持する機構で積極的に利用される。逆に、多条ねじとしてリードを大きく取れば逆駆動可能な設計もできるが、その場合は保持ブレーキの検討が必要になる。詳細なねじ形状の分類はねじ山の種類を参照されたい。
ねじ山形状とナット材質の種類
ねじ山の断面形状では、JIS B 0216に規定されるメートル台形ねじ(Tr、山角度30°)が最も広く使われる。インチ系ピッチの29度台形ねじ(TW)は1996年にJISから廃止されたが、既存設備の補修用として現在も製作されている。角ねじは摩擦面での効率に優れる一方、市販タップが存在せず旋盤によるめねじ加工が必要となり、コストが上がりやすい。ナット材質の選択も性能を左右する。青銅や黄銅(例:CAC406)のナットは耐摩耗性となじみ性のバランスが良く、産業機械の定番である。近年はPOMやPTFE配合樹脂のナットが普及しており、摩擦係数を0.05〜0.15程度まで下げられるうえ、無給油運転が可能になる。ねじ軸には炭素鋼のほか、食品機械や医療機器ではステンレス鋼のSUS304が選ばれる。
主な用途
用途は動力伝達と位置調整の2系統に大別できる。動力伝達系ではねじジャッキ、プレスの加圧機構、水門・バルブの開閉装置などがあり、いずれもねじの機能のうち押し出し・送りを利用したものである。位置調整系では、顕微鏡のステージ、3Dプリンタ(特にZ軸)、光学機器の焦点調整機構などが挙げられる。3Dプリンタでは、Z軸が1層ごとに微小送りしかしないうえ自重保持が求められるため、Tr8×8などの多条台形ねじと樹脂ナットの組み合わせが事実上の標準となっている。ねじという機械要素の中でも、締結ではなく運動変換に特化したグループといえる。
実務上の選定と保守の注意点
実務では許容PV値(面圧×すべり速度)の確認が欠かせない。樹脂ナットはPV値の上限が金属ナットより低く、連続高速送りでは摩擦熱で溶損する事例がある。目安として送り速度が毎分数m以上、デューティ比50%を超える用途ではボールねじへの切り替えを検討したほうが結果的に安くつくことが多い。金属ナットの場合は潤滑管理が寿命を決め、二硫化モリブデン入りグリースの定期補給によりバックラッシ増大を遅らせられる。摩耗が進んだナットは軸ではなくナット側のみ交換するのが通例であり、青銅ナットを消耗品として設計しておくと保全コストを抑えられる。なお、めねじの内製時はタッピングが使えない台形・角ねじ形状も多く、ねじ切りバイトによる加工工数を見込んでおく必要がある。
バックラッシ対策
すべりねじは構造上0.05〜0.2mm程度の軸方向すきまを持つため、往復位置決めでは誤差要因となる。対策としては、ばねで2つのナットを軸方向に押し広げるスプリング式アンチバックラッシナットや、割りナットを締め込む方式が用いられる。ただし予圧を強めるほど摩擦トルクと摩耗が増えるため、必要精度に対して過剰な予圧を避けることが長寿命化の実際的なコツである。
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