拡散係数|物質が拡がる速さを表す物性定数

拡散係数

拡散係数とは、物質が濃度勾配にしたがって移動する速さを表す物理量である。冶金工学や材料科学、化学工学で扱われる基礎的なパラメータであり、原子や分子が固体・液体・気体中をどの程度の速さで移動するかを示す指標となる。単位時間あたりに単位濃度勾配のもとで移動する物質量として定義され、単位には平方メートル毎秒(m2/s)が用いられる。金属材料の熱処理や表面改質、半導体材料への不純物添加など、原子レベルの物質移動が関わる現象の理解に欠かせない概念である。

拡散係数の定義

拡散係数は、物質の移動量と濃度勾配との比例関係を示す係数として定義される。断面を単位時間あたりに通過する物質の流束は濃度勾配に比例し、その比例定数が拡散係数にあたる。この関係はフィックの第一法則と呼ばれ、次式のように負号のついた比例式で表される。

J = −D(dC/dx

Jは物質流束、D拡散係数、dC/dxは濃度勾配を意味する。負号は物質が濃度の高い側から低い側へ移動することを示す。拡散係数が大きいほど、物質は短時間で移動する。

フィックの法則と拡散係数

フィックの法則には時間変化を伴う第二法則もあり、濃度分布の時間変化を拡散係数を含む偏微分方程式として記述する。式は次のように表される。

C/∂t = D(∂2C/∂x2

鋼の表面から炭素や窒素を浸透させる浸炭窒化といった表面硬化処理は、この第二法則にもとづき処理時間や温度が設計され、狙った深さまで硬化層が形成される。

拡散係数の温度依存性

拡散係数は温度の上昇とともに指数関数的に増大する。この関係はアレニウスの式で表され、次のように与えられる。

D = D0 exp(−Q/RT

D0は頻度因子、Qは活性化エネルギー、Rは気体定数、Tは絶対温度を表す。活性化エネルギーが小さいほど、また温度が高いほど拡散係数は大きくなる。焼きなまし焼き入れ焼き戻しといった熱処理工程では、この温度依存性を踏まえて条件が決定される。

自己拡散係数と相互拡散係数

拡散には同種の結晶格子内をある元素が移動する自己拡散係数と、異なる元素同士が移動しあう相互拡散係数の区別がある。合金や金属間化合物のように複数元素が関わる系では、相互拡散係数が組織形成や鉄炭素状態図における相変態挙動を左右する。拡散は結晶粒の粒界に沿っても進行し、粒界拡散は粒内拡散より拡散係数がはるかに大きい。

拡散係数の測定方法

拡散係数の測定には放射性同位体を用いたトレーサー法や、試験片を加熱後に断面を切り出し非破壊検査によって深さ方向の濃度分布を追跡する方法が用いられる。

拡散係数の応用

拡散係数は浸炭・窒化による表面硬化、析出硬化における成長速度制御、半導体への不純物拡散など応用範囲が広い基礎量であり、冶金工学における合金設計や熱処理条件の最適化に欠かせない指標となっている。

拡散の種類 拡散係数の目安(m2/s) 具体例
固体内拡散 10-20〜10-10 鋼中の炭素拡散、合金の相互拡散
粒界拡散 10-14〜10-8 結晶粒界に沿った原子移動
液体内拡散 10-9前後 溶融金属中の元素移動
気体内拡散 10-5前後 雰囲気ガス中の分子移動

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