位封
位封とは、古代日本の律令制下において、一定以上の位階(ランク)を持つ官人に対して、その位階に応じて支給された食封(じきふ)のことを指す。これは、当時の官職に就く貴族や官僚たちの経済的基盤を支えるための重要な給与制度の一つであった。位封として与えられた特定の農家(封戸)から徴収される税のうち、租の半分、および庸・調の全額が封主(受給者)の収入となった。原則として三位以上の公卿を対象としたが、時代や規定の変更によって、四位や五位の者に支給されるケースも存在した。位封は、単なる給付金ではなく、土地と人民を介した複雑な再分配システムの一部として機能していたのである。本記事では、この制度の構造、歴史的推移、および社会的な影響について詳しく解説する。
位封の構造と支給の仕組み
位封は、律令法における「禄制」の中核をなすものであった。具体的には、大宝律令や養老律令の規定に基づき、個人の官位に従って一定数の封戸(ふこ)が割り当てられる。例えば、正一位には800戸、従一位には600戸、正二位には500戸、従二位には400戸、正三位には300戸、従三位には200戸といった基準が設けられていた。この封戸から得られる収益は、封主が直接徴収するのではなく、多くの場合、国司の管理下で集められ、その後封主に送達された。位封によって得られる資財は、受給者の生活費のみならず、配下の従者の雇用や、公的な儀式への参列費用、さらには一族の教育費など、多岐にわたる用途に充てられた。したがって、位封の多寡は、その家系の格付けを決定づける極めて重要な要素となっていた。
税体系と封戸の負担
位封の対象となった封戸(農民)が負担する税の内容は、一般の公民とは異なる配分がなされていた。律令制の基本税制である租・庸・調のうち、租(稲)については半分が国家の倉庫に納められ、残りの半分が封主のものとなった。これに対し、庸(労役の代替品)と調(各地の特産品)については、その全額が封主に支給された。このため、封戸に指定された農民は、実質的に国家と特定の貴族の両方に対して義務を負う形となった。位封の徴収にあたっては、封主が「封家事」と呼ばれる私的な管理組織を組織し、現地に派遣して徴収を監督することもあった。このような徴収体制は、後世の荘園制度における不入の権や私的領有の先駆け的な性格を帯びていたとも解釈される。また、位封はあくまで位階に伴うものであり、受給者が死亡した場合には「還封」として国家に返還されるのが原則であったが、実際には後継者が高い位階を継承することで、実質的な世襲が行われることも少なくなかった。
食封の種類と区分
| 名称 | 主な支給対象 | 支給の根拠 |
|---|---|---|
| 位封 | 三位以上の貴族 | 個人の保有する位階に基づき支給される。 |
| 職封 | 太政官などの主要官職保持者 | 就任している特定の官職に基づき支給される。 |
| 功封 | 国家に対する功績者 | 軍功や政治的功績を称えて支給され、世襲が認められる場合もある。 |
| 贈封 | 物故した高官など | 死後の名誉や遺族の扶助のために追贈される。 |
歴史的変遷と制度の解体
位封の制度は、奈良時代から平安時代初期にかけて、中央集権国家の財政を支える基柱として機能していた。しかし、9世紀に入ると、戸籍の作成が滞り、班田収授法が機能不全に陥るにつれて、封戸からの正確な徴収が困難になっていった。地方の有力農民や土豪が逃亡したり、税の納入を回避したりする中で、位封は名目上の権利へと変質していった。これに対し、政府は特定の国を「封国」として指定し、その国の公領から一括して封租を支払う「加封」や「代封」などの措置を講じたが、根本的な解決には至らなかった。さらに、藤原氏などの有力貴族が自らの経済基盤を、国家から与えられる位封から、自ら開発・集積した寄進地系荘園へと転換させていったことで、律令的な位封制度はその歴史的役割を終えることとなった。平安時代中期以降、形式的には存続したものの、実態としては一部の特権階級に対する恩恵的な給付へと矮小化していったのである。
貴族社会における社会的・文化的意義
位封がもたらした膨大な富は、古代日本の華やかな貴族文化を育む土壌となった。広大な封戸を持つ上位貴族は、その経済力を背景に壮麗な邸宅を構え、多くの文人や芸術家を庇護した。位封の多寡は、単に贅沢ができるかどうかという問題ではなく、政治的な発言力や、一族の中から優秀な人材を官界へ送り出すための教育投資力に直結していた。特に平安貴族にとって、位封を維持し、さらに増額させることは、家政を司る政所(まんどころ)の最重要課題であった。また、位封の配分を巡る争いは、しばしば中央政局の対立を引き起こす要因ともなった。このように、位封は古代日本における政治・経済・文化が密接に絡み合った独自のシステムであり、日本が律令国家から王朝国家、そして中世封建社会へと変容していく過程を如実に反映した制度であったといえる。
補足事項:位封に関連する諸規定
- 位階が上がった場合、新しい位階に応じた位封が翌年から支給される。
- 位階が下がった場合や、官位を剥奪された場合は、直ちに位封の支給が停止される。
- 位封の支給対象となる封戸は、原則として受給者の出身地や縁故地から選ばれることが多かった。
- 皇族に対して支給されるものは、位封ではなく「品封(ほんぷ)」と呼ばれ、区分されていた。