遮音材|騒音低減と快適性を支える材料

遮音材

遮音材は、空気伝搬音や固体伝搬音の通過を抑え、音エネルギーの向こう側への到達を低減するための材料である。用途は建築、自動車、産業機械、家電など多岐にわたり、快適性向上や法規適合、作業環境の保全に寄与する。一般に面密度の確保、剛性・損失特性の最適化、継ぎ目や貫通部の封止といった総合設計により性能が決まるため、単一材料の選択だけでなく構成全体の最適化が重要である。

定義と目的

遮音材は、音の透過損失(Transmission Loss, TL)を高めることを主目的とする材料群である。吸音材が音を内部で散逸させるのに対し、遮音材は音の通り道を物理的・動的に遮る点が本質である。評価は周波数ごとの透過損失や音響レーティング(例:建築でのSTC相当の評価概念)を用い、対象騒音のスペクトルと使用条件に合わせて選定する。

遮音の物理原理

遮音材の基本は「質量則」に従い、同一条件では面密度が大きいほどTLが増加する。また板の曲げ波が空気音と一致する「コインシデンス限界周波数」付近では遮音が低下しやすく、材質のヤング率、内部損失、サンドイッチ構造の有無が効く。さらに、わずかな隙間やジョイントの未封止は大きなリークを招くため、連続気密と周縁シールがきわめて重要である。

材料の種類と特徴

代表的な遮音材には、重質ビニルやブチル系シートなどの高面密度シート、鋼板やアルミ板などの金属板、ゴム・樹脂の高比重コンパウンドがある。これらは単層で質量を稼ぐほか、粘弾性層と組み合わせて曲げ振動の損失を高める複合化が行われる。吸音材(ガラスウールやポリエステル不織布等)と併用し、全帯域の快適化を図るのが一般的である。

  • 高面密度シート:薄く柔軟で取り回しが容易、低中音に有効
  • 金属板:高いTLと剛性、ただし重量増とコインシデンス対策が課題
  • 粘弾性制振材:振動エネルギーを熱に変換し、共振ピークを緩和
  • 複合材:遮音層+制振層+吸音層の三層で広帯域対策

多層構造とサンドイッチ設計

実務では、遮音層(高面密度)に制振層(粘弾性)と吸音層(多孔質)を組み合わせる三層構造が多用される。遮音層が音圧差を受け、制振層が曲げ振動を減衰し、背後の吸音層が残留音を散逸させる。空気層(キャビティ)を確保するとヘルムホルツ・板ばね効果が絡み、周波数選択的に有利に働く場合がある。

設計指針(リーク・継ぎ目・貫通部)

小さな開口やケーブル貫通部、重ね継ぎの段差は透過経路となり性能を大きく損なう。したがって、遮音材は単体性能だけでなく、エッジの重ね幅、テープ・ガスケットの選定、シーラントによる目地処理、ファスナー周りの座屈・浮き対策まで含めて設計する。ドアやアクセスパネルには周方向の連続シールと適正な圧縮量が不可欠である。

評価指標と試験の考え方

周波数別TL曲線を基本に、対象騒音の1/3オクターブスペクトルと照合して評価する。低音域が支配的なら面密度の増加や二重壁化、中高音域ならコインシデンス回避や制振強化、リーク低減を優先する。実機では取り付け剛性や境界条件が試験体と異なるため、リグ測定と実機車室・室内での追試を併用し、パスバイ/インテンシティ計測で寄与度を特定する。

自動車における適用例

車両ではフロア、トンネル、ダッシュ、ホイールハウス、ルーフ、トランク等に遮音材を配置する。エンジンや路面からの低周波は面密度と二重化、タイヤスプレー等の中高周波は制振と吸音の併用が効く。ハーネス貫通やサービスホールはゴムグロメット・ブチルシートで封止し、ドア開口はシール連続性を重視する。量産では型抜き精度や圧着条件がNVH品質を左右する。

建築・設備での留意点

界壁やスラブでは、質量増と浮き床・二重壁の採用で伝搬経路を分断する。ボックスインボックス構造や弾性支持で固体伝搬を抑え、配管・ダクトの貫通部は防音スリーブとシール材で処理する。室の換気・耐火要求と遮音材の難燃性・耐熱性、施工性のバランスを取り、保守アクセスを考慮したディテールとする。

環境・法規・安全性

リサイクル容易性、VOC・臭気、難燃規格適合、耐候・耐湿・耐薬品性は選定時の重要要素である。特に輸送機器では重量増が燃費や航続に直結するため、機能当たりの比重量を抑えた高比重フィラー樹脂や中空構造との両立が検討される。生産では成形性・打ち抜き性・ラミネート接着性、現場では粉じん・皮膚感作性への配慮が必要である。

最適化の進め方

対象騒音のスペクトル把握→経路同定→概念設計(質量・制振・吸音の配分)→試作と実機検証→量産条件最適化、という流れで進める。CAEや試験で寄与度を定量化し、限界周波数の回避、リークゼロ化、局所補強と制振の併用でピークを均し、遮音材の重量・コスト・施工性と性能のトレードオフを体系的に解くことが、安定した静粛性の鍵である。

よくある課題と対策の要点

(1)重量過多:配置最適化と局所二重化で効率化。(2)帯域抜け:限界周波数を避ける材料・厚み選定、制振でピーク平坦化。(3)性能ばらつき:シール連続性と貼付圧・温度の管理。(4)後戻り工数:初期段階での経路同定とリーク設計を徹底する。これらを押さえることで、遮音材は狙い通りの効果を安定的に発揮する。