エンジンマウント|振動吸収で静粛性と操縦安定性向上

エンジンマウント

エンジンマウントは内燃機関や電動パワーユニットを車体やサブフレームに支持し、重量を受け持ちながら振動・騒音を遮断し、駆動反力を制御する機械要素である。支持剛性を確保しつつ、アイドル域や巡航域での不快振動を車室側へ伝えないことが主目的であり、同時に衝突時や急加速・急減速時の大変位を機械的ストッパで制限する機能も備える。一般にゴム系の弾性体を用いたラバーマウント、内部に作動液とオリフィスを備えた液封マウント、アクチュエータで能動的に励振を打ち消すアクティブマウントなどが使われ、車両特性や搭載レイアウトに応じて3点支持または4点支持で設計される。

構造と材料

基本構成は、エンジン側ブラケット、車体側ブラケット、弾性体(ゴムやエラストマー)、場合により液室・オリフィス・ストッパ・ヒートシールドから成る。金具と弾性体は加硫接着で一体化され、軸方向・横方向で異なるコンプライアンスを与えるために空洞(ボイド)やリブ形状が工夫される。高温・オイル環境に耐えるため、材料はNR、EPDM、HNBR等が選定され、電動化車両では高周波騒音に配慮した動的剛性の整形が重視される。締結は高力ボルトとナットで行い、規定トルクでの締結により初期荷重(プリロード)を安定させる。

機能と要求特性

  • 振動絶縁:一次不釣合い、燃焼起因の回転次数、モータ高周波までの伝達率を低減する。
  • 位置決め:パワートレインのロール・ピッチ・ヨーの固有モードを適切に配置し、変速機や排気系の干渉を避ける。
  • 耐久・環境:温度、油、塩害、オゾン、長期クリープに耐える。
  • 衝撃安全:大入力時のストッパ当接で過大変位を抑え、周辺部品損傷を防ぐ。

主な種類

ラバーマウント

弾性体の周波数依存剛性とヒステリシス損失により受動的に振動を遮断する最も一般的な形式である。空洞形状や二段ストッパで低周波のロール剛性と高周波の遮断性を両立させる。

液封マウント

主室・副室とオリフィスを持ち、低周波では液体の往復流による流体抵抗で減衰を発生させ、高周波ではダイアフラムが追従して遮断性を高める。アイドル振動やこもり音対策に有効である。

アクティブマウント

電磁・油圧アクチュエータとセンサ、制御ユニットで逆位相力を発生させる。広帯域での騒音低減に優れるが、コスト・重量・電力を要するため高級車や高性能車に採用されることが多い。

トルクロッド/ペンデュラムダンパ

駆動反力を主に受け持つリンク(トルクロッド)や、特定次数を狙ってチューニングした振り子式ダンパを併用し、伝達力とキャビン快適性を最適化する。

設計パラメータと評価

設計の要は静的ばね定数、動的ばね定数、減衰、固有振動数、姿勢モード配置である。固有振動数はおおよそfn ≈ (1/2π)√(k/m)で表され、アイドル次数より十分低く設定して伝達率を抑えるのが定石である。3点支持では左右差剛性によりロール・ピッチの結合を調整する。評価はシャシダイ上での加速度応答、車内音圧、オーダートラッキング、TPAで行い、設計初期からCAEでモードと応力を予測する。

NVHチューニングの考え方

アイドルシェイクやこもり音は低周波域のモード整形と減衰付与が鍵である。液封ではオリフィス長・断面・副室体積で共振周波数を合わせ、ラバーではボイド位置と体積で方向別剛性を作る。電動化ではモータ高周波のトーナル成分に配慮し、高周波遮断性とケース剛性のバランス、取り付け点の局所剛性確保が重要となる。

故障モードと診断

  • ラバー劣化:亀裂、永久ひずみ、剥離によりアイドル振動増大や打音が発生する。
  • 液封漏れ:作動液の滲み・漏れで減衰が低下し、こもり音や共振が顕著となる。
  • ストッパ損耗:大入力時の異音、金属接触の衝撃感が現れる。
  • 診断:目視、レバーでの撓み確認、加速度・音圧の比較、熱画像での温度ムラ観察など。

取付・保守の要点

搭載姿勢と初期ひずみが性能に直結するため、基準面の清掃と規定トルクでの締付、無荷重・有荷重状態の指示に従うことが重要である。交換時は左右対称性と部品仕様(硬度、液封仕様、アクティブ有無)を確認し、試走でアイドル・発進・巡航・加減速の各シーンを点検する。締結部は規定のボルトグレードと再使用可否を遵守する。

設計と生産の実務

量産では金具プレス・機械加工・加硫成形・組立・機能検査までを一貫管理する。特性ばらつきを抑えるため材料ロット管理、加硫温度・時間の最適化、動特性の100%検査または抜取検査を行う。車種改良ではパワートレイン質量や支持点変更に合わせ、治具と評価条件を再定義し、過去データの再現性確認と回帰試験で妥当性を担保する。

産業機械・船舶・鉄道での応用

エンジンマウントの原理は発電機、コンプレッサ、船舶主機、鉄道車両の主変換装置などにも適用される。固定基礎の剛性が高い場合は弾性支持により基礎の振動伝播を抑え、建屋側の騒音を低減する。周波数帯や荷重条件が自動車と異なるため、ばね・減衰の設定、ストッパのクリアランス、耐環境性を用途ごとに最適化することが求められる。