STA|IC設計工程で用いられるタイミング解析技術

STA

IC設計工程におけるタイミングの正当性を検証するための手法として、STAは欠かせない存在となっている。近年の集積回路は微細化と動作周波数の向上に伴い、少しの遅延ミスも大きな誤動作につながる可能性が高まっている。そこで、シミュレーションに頼るだけでなく、設計段階から厳密なタイミングマージンを解析・確保するプロセスが必要とされる。ソフトウェア的な検証だけでは見落としがちな配線やゲートの遅延を考慮して、製造変動や温度条件など多岐にわたるパラメータを総合的に評価する技術が、STAである。

概要

STA(Static Timing Analysis)は、回路を動的にシミュレーションするのではなく、ゲートや配線の遅延値を静的に合算することでタイミング検証を行う手法である。回路の各経路について、入力から出力までの遅延時間やセットアップ時間、ホールド時間などの余裕を調べることで、実際のクロック動作において論理値が正しく同期されるかを判断する。動的シミュレーションと異なり、すべての経路を統括的に網羅可能であるため、最悪条件の検出やタイミング違反の早期発見に適している。

目的と役割

ICの設計が高度化すると、ゲート数が増えるだけでなくクロック速度や信号の立ち上がり時間も極端に短くなる。動的シミュレーションだけでは不十分な複雑性を抱える現代の設計において、STAの目的はタイミング上のボトルネックを抽出し、製品として正常動作する範囲を確立することにある。具体的には、配線遅延が大きいパスや、クロックドメインをまたぐ部分でのデータ競合などを想定し、メトリクスを満たせるように回路やレイアウトを調整する指針を提供する。

解析フロー

STAを実施するフローは、まずライブラリファイル(Standard Cell Library)が示すセルの遅延モデルや、配線抵抗・キャパシタンスなどのパラメータを用意することから始まる。次に、設計データ(Netlistやレイアウト情報)を読み込み、ツールがすべてのコンビネーショナルパスを抽出して解析を行う。高周波で動作する設計ほどパス数が膨大になるため、適切な階層分割や抽象化によって解析を効率化する仕組みがとられる。解析結果から最遅経路やホールド違反の候補がリストアップされ、エンジニアはそれをもとに対策を施す。

主なツール

STAを行うための市販EDAツールには、SynopsysのPrimeTimeやCadenceのTempusなどが代表例として挙げられる。これらのツールは、セルライブラリや配線モデルを基に高精度な遅延解析を実行し、結果を視覚的に可視化する機能を備えている。また、スクリプトベースでカスタマイズ可能なため、大規模設計においてはバッチ処理を組み合わせ、複数のコーナー(温度や電源電圧の変動条件)を自動的に解析することも一般的である。さらに、クロックツリーの合成やパワー検証などの工程と連携して、最適化ループを回しながらタイミング収束を図ることが可能となっている。

設計制約

強力な解析ツールを用いたとしても、STAの前提となる設計制約ファイル(SDC: Synopsys Design Constraintsなど)が適切でなければ、正確な検証結果は得られにくい。クロック領域や入出力ポートのアサイン、マルチクロック環境における同期手法など、設計者がどのような使い方を想定しているかを制約ファイルに明確化して定義する必要がある。また、マルチドメイン設計の場合は各ドメイン間でアサーションを設定し、メタステーブルリスクや位相ずれなどの問題を未然に防ぐことが望まれる。制約が漏れていると、ツールが誤った前提で解析を行う可能性がある。

よくある課題

高速動作を狙うあまり、ゲートサイズを小さくしたり配線を最短化すると、寄生容量やクロストークによる影響が無視できなくなる場合がある。STAではこれらをすべて考慮した上で解析を進めるが、実際のシリコンでは温度上昇や電源ノイズなどで想定を上回る遅延が発生することも考えられる。また、ホールドマージンの確保が十分でないとクロックの揺らぎにより実機でデータ破損を引き起こす可能性がある。従って、余裕を持った設計マージンの設定と、実装後のポストレイアウト解析が重要となる。

産業界での位置づけ

今日の半導体産業では、微細プロセスノードでの設計や厳しいスケジュール管理が常態化している。そこにおけるSTAは、量産前にリスクを削減し、製品立ち上げ時の不具合発生を大幅に減らす手段として強く求められている。特にCPUやGPUなどの大規模チップは膨大なゲート群を抱えるため、統合的なタイミング分析による確実な検証が不可欠である。事前にすべての経路を洗い出し、量産後に致命的なタイミング欠陥が顕在化しないよう、開発段階で綿密な解析が行われている状況が一般的である。

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