二手操作装置|同時押しで誤操作と予期始動防止

二手操作装置

二手操作装置は、機械の危険運動を起動・保持するために、作業者が両手で同時に押圧し続けることを要求する安全機器である。日本語では「両手操作装置」とも呼ばれ、プレス機やせん断機など、危険源への接近を両手拘束により本質的に防止する目的で用いられる。国際規格では機能要求と設計原則が厳密に定義され、反復防止(anti-repeat)、片手抑止(anti-tie-down)、故障監視(monitoring)などの要件を満たすことが求められる。

定義と目的

二手操作装置は、「二つの独立したアクチュエータ(通常はパームボタン)を、所定の短い同期時間内に同時作動させ、保持中のみ危険運動を許可する」制御方式である。目的は、片手が危険領域に入った状態での起動を物理的に困難にし、予測不能な起動や意図しない再起動を抑止する点にある。リスクアセスメントに基づき、残留リスクが受容可能水準まで低減されるよう、他の保護方策(固定ガード、インタロック、ライトカーテン等)と秩序立てて組み合わせる。

構成要素

  • パームボタン:大径の瞬時作動型押しボタン。誤接触を防ぐガードリングを備え、機械的耐久と電気的寿命が確保される。
  • 制御ユニット:二手の同時性判断、反復防止、片手抑止、自己診断を実装する。
  • 出力要素:安全リレーまたは安全PLCからの冗長出力でパワーエレメント(例:安全接触器、セーフティドライブ)を切替する。

関連規格と主要要求事項

  • ISO 13851:二手操作装置の機能側面と設計原則。Type分類、同期時間、間隔、監視の要求を規定。
  • ISO 13849-1/-2:安全関連制御のPL(Performance Level)設計・検証枠組み。
  • EN 60204-1:機械の電気装置の一般安全要求。非常停止との整合、配線、EMC等。
  • ISO 13855:安全距離の計算原則(到達速度に基づく配置指針)。
  • JIS(例:両手操作式制御装置関連):国内同等規格として参照される。

典型要求は次のとおりである。(1)同期時間:両ボタンは最大0.5 s以内に作動、(2)間隔:左右ボタン中心間は少なくとも約260 mm以上とし肘・手の付け替え誤動作を抑止、(3)片手抑止:一方を押しっぱなしでは起動不可、(4)反復防止:サイクル毎に両手の完全解放→再押下を要求、(5)監視:チャネル短絡・断線・固着の自己診断、(6)保持動作:危険運動は押下保持中のみ許可し、離すと停止へ遷移する。

型式(Type I/II/IIIA/IIIB/IIIC)

Type Iは基本的な同時性のみ、Type IIは限定的な自己診断、Type IIIA/IIIBは2チャネル冗長と高度な監視を備える。IIICは最も厳格で、冗長・多様性(diversity)・連続監視を通じて高い耐故障性を実現する。リスクが高い用途ではPL d〜e相当(ISO 13849)を狙い、Type IIICと安全接触器の二重遮断などを組み合わせる設計が一般的である。

安全距離と配置設計

配置は、作業者がボタンから手を離し危険部へ到達するまでの時間より、機械の停止時間の方が短いことを保証する必要がある。ISO 13855に基づく代表式は S = K×T + C(S:安全距離、K:到達速度、T:総停止時間、C:補正項)であり、停止時間測定と組で決定する。また、両ボタン間隔、台座高さ、ガードリング形状、想定姿勢(座位/立位)を考慮し、誤起動防止と人間工学を両立させる。

実装例

  • メカプレス・油圧プレス:クラッチ/ブレーキ制御と連携し、打下し中は保持を要求。
  • シャーリング・せん断機:刃物動作の開始許可を二手同時に限定。
  • スポット溶接:電極閉圧力の発生中のみ許可し、解放で遮断。
  • 試験治具:危険駆動の単発サイクルを二手でトリガ。

これらでは非常停止やインタロックガードと体系化し、保護戦略を階層的に構築する。多人数作業や対向側からの接近があるときは、二手のみでは不十分となるため、領域防護(例:光線式保護)を併用する。

設計・回路のポイント

  • 冗長構成:2チャネル入力、異種接点(機械接点+半導体等)や多様性の導入。
  • 故障検出:クロスフォルト、短絡、接点溶着、断線を自己診断し安全側へ。
  • 反復防止/片手抑止:ラッチ・タイムウィンドウ・立下り検出を厳密化。
  • 出力遮断:安全接触器のガイド接点でフィードバック監視、二重遮断を基本とする。
  • 環境適合:IP保護等級、温湿度、EMC耐性、手袋着用時の操作性。
  • 信頼性評価:MTTFd、DCavg、CCF対策を計画し、PL目標を満たす。

同期時間と反復防止の実装

同時性は独立チャネルの立上り時刻差を評価し、許容内(例:≤0.5 s)でのみ許可する。片手押しっぱなしの無効化には、両ボタンの完全解放を検出してから次サイクルを許可するロジックを用いる。チャタリングやノイズ対策は入力フィルタと診断時間の整合を図り、誤却下や誤許可を避ける。

保守・点検

日常点検では、両手同時押下以外の操作で起動しないこと、片手押しっぱなしで不許可となること、離すと直ちに停止することを確認する。定期点検では停止時間測定、フィードバック回路、故障注記の履歴レビューを実施し、検証記録を保全する。

評価・検証

設計段階でPL達成度を計算し、検証(ISO 13849-2)で回路・ソフトの故障検出とフェールセーフ遷移を試験する。停止時間と安全距離の妥当性は現場測定により裏づけ、作業姿勢や治具変更時の影響も再評価する。変更管理とバリデーション手順を文書化し、運用中の逸脱を抑止する。

適用限界と補完策

二手操作は単独作業者の手先接近に有効だが、複数人作業、背面・側面からの到達、ワークの跳ね出し等には直接対応しない。危険源分析に基づき、固定ガード、インタロック、存在検知型保護装置、非常停止などを適切に重畳し、残留リスクを体系的に低減することが重要である。