サージ試験
サージ試験は、雷サージやスイッチング動作に起因する高エネルギー過電圧・過電流を模擬し、機器の耐性を評価する電磁両立性(EMC)のイミュニティ試験である。基本規格はIEC 61000-4-5で、開放端で1.2/50 μsの電圧波形、短絡端で8/20 μsの電流波形を発生するコンビネーション波形(Combination Wave Generator, CWG)を用いる。評価対象はAC/DC電源ポート、信号・制御・通信ポート、接地端子などで、想定する結合経路(差動・共通)に応じて印加方法とレベルが定義される。設計者は回路素子の定格と保護協調、レイアウト、接地設計を総合的に最適化し、誤動作・破壊を抑止する必要がある。
規格の要点と波形パラメータ
IEC 61000-4-5は、コンビネーション波形の立上り時間と波尾時間、波高値許容差、出力インピーダンス、反復印加間隔などを規定する。代表的な試験レベルは電源ラインの差動印加で0.5 kV/1 kV/2 kV、ライン-大地間(共通モード)で1 kV/2 kV/4 kVが用いられることが多い。波形は開放端で1.2/50 μs(10%–90%立上り≒1.2 μs、波尾50%時点≒50 μs)、短絡端で8/20 μs(立上り≒8 μs、波尾≒20 μs)を満足する必要がある。製品規格側では性能判定基準A/B/C/Dを参照し、正常動作維持、自己回復、手動回復、機能喪失(破壊)を区分する。
試験構成と接続
試験系はサージ発生器、カップリング・ディカップリング・ネットワーク(CDN)、被試験機器(EUT)、人工電源網または実電源、基準接地面(GNDプレーン)で構成する。ケーブルは規定高さで絶縁支持物に配し、余長を整える。極性(+/−)を変えて各組み合わせ(L-N、L-PE、N-PE、複数線同時など)に所定回数印加する。印加間隔はEUTの回復・熱影響を考慮して数十秒〜1分程度とし、各ポート・各モードで5〜10回/極性を目安にする。
ライン別の印加モード
- 差動モード:電源ライン間(L-N、L1-L2等)に印加し、内部整流・平滑や一次側部品の耐量を検証する。
- 共通モード:各ライン-接地間(L-PE、N-PE)に印加し、筐体・シャーシ・保護接地経路を介したサージ電流の流れと絶縁協調を評価する。
- 信号/通信ポート:CDNや規定のカップリング素子を介し、入出力インタフェースのサージ耐性(トランシーバ、アイソレータ、コモンモードチョーク等)を確認する。
運転状態と合否判定
EUTは代表的な動作モード(最大負荷、アイドル、通信動作中など)で評価し、誤動作、ラッチアップ、再起動、データ破損、絶縁破壊、発煙・発火などを監視する。性能基準A/B/C/Dに基づき、意図した機能の維持・回復性、恒久的な損傷の有無を記録する。試験前後には自己診断やパラメータ測定(消費電流、温度、出力品質など)を実施し、閾値をテストプランに明記する。
設計対策(サージ保護の基本)
- 素子選定:MOV(酸化亜鉛バリスタ)はエネルギ吸収とクランプ、TVSダイオードは低クランプ電圧と高速応答、GDT/スパークギャップは大電流処理を担当する。複合使用で保護協調を図る。
- 直列インピーダンス:サージ電流を絞るための直列抵抗、NTC、共振を抑える小インダクタやコモンモードチョークを適所に入れる。
- 絶縁・クリアランス:一次-二次間の沿面・空間距離、スロットやスリットによる沿面延長、コーティングによる耐トラッキング性向上。
- 接地・帰還経路:シャーシ・PEへの低インピーダンス接続、広い銅面やメッシュ接地、Yコンデンサの配置による共通モード電流のバイパス。
- レイアウト:サージ経路を短く太く、保護素子は侵入点の直近に配置し、保護点より下流に敏感回路を置かない。高dv/dtのループ面積を最小化する。
保護協調と定格の見積り
MOVは定格Vrms/Vdc、クランプ電圧、8/20 μsでのピーク電流Ippとエネルギ(J)を確認し、期待サージ回数に対するマージンを確保する。TVSはVR(スタンドオフ)、VBR(降伏)、Ipp時のVC(クランプ)で選定する。GDTはインパルス放電開始電圧、残留電圧、フォロー電流抑制の観点で選ぶ。一次側ではヒューズ/サーミスタ/サージプロテクタの協調、二次側ではTVS+シリーズ抵抗で敏感ICを守る。部品の熱設計(発熱、劣化)と安全規格の要求(耐トラッキング、可燃性)も考慮する。
評価・校正・再現性の確保
サージ発生器は開放/短絡条件での校正を定期実施し、波形の立上り・波尾・波高値が規格範囲内であることを確認する。テストリードの取り回し、GNDプレーンとの位置関係、EUTの固定方法は試験所間ばらつきの主要因であり、試験報告書に写真・接続図・配線長を明記して再現性を高める。印加順序、極性、回数、間隔、EUTウォームアップ時間、回復観測時間も手順化する。
よくある不具合と対策例
- リセット・フリーズ:マイコンのリセットラインにTVSとRCフィルタ、電源レールに大容量と低ESRの平滑、PMICのUVLO設定最適化。
- ブリッジ整流器の破壊:一次側にL-N間のMOV、L-PE/N-PEにMOVまたはGDT、直後に直列インダクタで突入電流とdv/dtを緩和。
- 通信ポート故障:トランシーバ前段にESD/サージ両対応TVS、コモンモードチョークの飽和対策、磁気結合部のクリーアランス確保。
- 誤動作ログ欠落:ファームにイベントロギングとウォッチドッグ、ブラウンアウト検出・安全停止処理を実装。
試験計画とドキュメンテーション
対象ポート、印加モード、レベル、回数、EUT動作状態、性能判定基準、合否判定ロジック、復帰手順、計測点(電圧・電流・温度)、安全監視を計画段階で定義する。量産反映には部品定格表、BOM、レイアウト・接地ガイド、部品劣化に対する寿命設計(サージ回数寿命)を添付し、設計変更時は再評価と回帰試験を行う。これにより、フィールドにおける雷・開閉サージに対し、機器の信頼性を実機条件で担保できる。