過電流|機器を守る回路保護と設計の要点

過電流

過電流とは、電路や機器の設計上の許容電流を超えて流れる電流であり、導体の温度上昇、絶縁劣化、アーク発生、機械的電磁力による損傷などを招く現象である。原因は短絡や地絡のような故障から、過負荷や起動・突入電流のような運用上の要因まで多岐にわたる。電気設備の安全設計では、電源系統の短絡容量、配線の許容電流、保護装置の定格・遮断能力・時間電流特性を総合的に整合させ、選択協調を満たすことが重要である。

定義と発生要因

過電流は、定常負荷電流より大きい電流が流れる状態の総称である。故障系では相間短絡や地絡によって一挙に大電流が流入する。非故障系では、負荷の増大、モータ起動時の突入、コンデンサ充電、変圧器励磁などにより一時的に設計値を上回る。系統インピーダンスが小さい受電点ほど故障電流は大きく、機器・遮断器の遮断能力選定に直結する。

種類

  • 短絡過電流:相間・三相・単相短絡により最大級の故障電流が流れる。
  • 地絡過電流:対地故障であり、接地方式により電流値が大きく変わる。
  • 過負荷電流:定格超過の負荷が継続して導体温度を上げる。
  • 突入電流:モータ・変圧器・コンデンサ投入時に瞬時的に発生する。
  • サージ的過電流:落雷・開閉での過電圧に伴う流入成分を含む。

影響とリスク

過電流はI^2tに比例して発熱し、被覆や絶縁紙、樹脂の耐熱限界を超えると劣化・炭化が進む。短絡時には電磁力で母線・端子・締結部に衝撃荷重が加わり、ゆるみや変形の原因となる。アークは金属蒸発と絶縁破壊を促し、再点弧すれば被害が拡大する。

評価指標と物理量

熱的影響はI^2t(通電エネルギー)で捉え、機械的影響は電磁力と遮断時間で評価する。故障電流Ikは系統電圧とループインピーダンスZsから算出し、受電点・幹線・分岐点での値を区別する。遮断器の遮断容量(kA)や限流特性、導体の許容温度上昇が設計の基準となる。

保護デバイス

  • ヒューズ:限流動作でI^2tを低減し、下流の熱・機械ストレスを抑える。
  • MCCB/配線用遮断器:長時間・短時間・瞬時の各要素で広帯域に保護する。
  • ELCB/RCBO:地絡保護に過電流機能を組み合わせた保護を行う。
  • 過電流継電器(OCR/OC-GR):配電用遮断器を指令し、逆時限特性で選択協調を実現する。
  • PTCリセッタブルヒューズ:電子回路での自復式電流制限に用いられる。

時間電流特性と整定

遮断器・継電器は時間電流曲線で表され、長時間(過負荷)、短時間(遅延短絡)、瞬時(短絡即時)の要素を持つ。逆時限特性は電流が大きいほど速く動作し、上位・下位機器の曲線を重ねて不感帯と重複帯を調整する。突入電流やインランシュを考慮し、不要動作を避けつつ保護を確保する整定が要点である。

選択協調

選択協調は故障点に最も近い下位保護だけを動作させ系統全体の停電を防ぐ設計思想である。限流ヒューズのI^2tと遮断器の短時間要素を調和させ、遮断容量・残留I^2t・クリアリングタイムが階層的に小さくなるよう配列する。これにより重要負荷の継続性が高まる。

設計手順の概略

  • 負荷一覧から定格電流と需要率を見積もる。
  • 配線方式と温度条件から許容電流・サイズを決める。
  • 各点の短絡電流を計算し遮断容量を確保する。
  • 保護装置の定格・特性を選定し曲線で協調確認する。
  • 始動・突入時の不要動作を評価し整定を微調整する。
  • 据付後に試験・熱画像等で実装健全性を検証する。

配線と機器の許容電流

許容電流は導体断面、絶縁材の耐熱クラス、布設方法(ダクト・多条布設)、周囲温度、冷却条件で決まる。端子部の接触抵抗悪化は局所発熱を増やすため、トルク管理や締結材(例:ボルト)の選定・点検が重要である。

モータ回路の過電流

モータは起動時に定格の数倍の電流を要するため、サーマルリレーや長時間要素で過負荷を監視しつつ、瞬時要素は始動波形を許容する整定とする。インバータやソフトスタートを用いれば始動電流を抑制でき、上位保護の不要動作リスクを下げられる。

電子回路の過電流保護

電源ICのOCP、シャント抵抗+オペアンプ、電流制限回路、MOSFETのフォールドバック、PTCの自復特性などで細やかな過電流制御を行う。I^2tに加え、熱抵抗・放熱、トランジェント耐量(SOA)を合わせて評価することが重要である。

DC系統・蓄電池での留意点

DCはゼロクロスが無いためアークが持続しやすく、直流遮断器やDCヒューズの適合が不可欠である。EV・PV・ESSの大電流回路では母線の電磁力、アーク遮断媒体、クリアランス・沿面距離、逆流保護を含めて総合的に過電流対策を講じる。

計算例の一端

例として三相200V配電で、受電点短絡容量と幹線のインピーダンスからIkを算出し、下流分岐のZsを考慮して各盤の故障電流を求める。得られたIkに対して遮断容量とI^2tを照合し、導体の許容温度上昇内に収まるか、時間電流曲線上で上位・下位の整定が選択協調を満たすかを確認する。

関連規格・用語

  • IEC 60947-2(低圧遮断器の要求事項)
  • IEC 60364(電気設備の設計原則)
  • JIS各規格(配線・機器の定格と試験)
  • 逆時限特性、瞬時トリップ、限流、遮断容量、ループインピーダンス

よくある誤解

遮断器定格電流は連続許容の目安であり、動作電流は整定と時間特性で決まる。ELCBは感電保護が主目的で、サージ対策のSPDとは用途が異なる。また過電流対策は単独では完結せず、接地方式・絶縁協調・温度設計・締結管理と一体で遂行すべきである。