カムシャフト|バルブタイミングを司る中枢軸

カムシャフト

カムシャフト内燃機関の吸排気バルブを機械的に制御する回転軸であり、ローブと呼ばれる凸形状によりバルブの開閉タイミング、リフト量、作用角を規定する要素である。SOHCやDOHCなどの配置方式、チェーンベルトによる駆動方式、油圧式フェイザに代表される可変機構の有無によって、出力特性、燃費、排出ガス性能が大きく左右される。材質はチルド鋳鉄や低合金鋼(SCM系)を用い、浸炭窒化・超仕上げにより高硬度と低粗さを両立させるのが通例である。ローブの形状最適化は加速度やジャークを抑えつつ高い充填効率を狙う設計課題であり、量産車からモータースポーツに至るまで重要部品である。

基本構造と機能

カムシャフトはベースサークル、フランク、ノーズから成るローブを複数配置し、回転に応じてタペットやロッカーアームを押し上げてバルブを開弁する。ローブとフォロワの接触条件は境界潤滑になりやすく、面圧や滑り速度の管理が必須である。ベースサークル径は剛性と加工性に影響し、ノーズ半径は最大リフト付近の接触応力を左右する。

カムプロフィールと動弁機構

プロフィールはハーモニック、3-4-5多項式、スプラインなどが用いられ、目標リフト曲線から速度・加速度・ジャークを制御する。フォロワはフラットタペット、ローラーフォロワ、バケット式などがあり、それぞれ摩耗様式と許容面圧が異なる。DOHCでは吸排気独立設計が可能で、オーバーラップとリフトを柔軟に最適化できる。

タイミングと性能指標

バルブ開閉時期はクランク角で表し、進角・遅角の設定によりアイドル安定性、ポンピングロス、過給応答などが変化する。ローブセンター角(LSA)やセンターライン、作用角、リフト量は代表的指標である。吸気進角は低速トルクを、遅角は高回転の充填効率を狙う傾向があるが、過度なオーバーラップは希薄燃焼やHC増加を招くため全体最適が要る。

可変バルブ機構(VVT/VVL)

油圧式カムフェイザによる位相可変(VVT)は開閉時期のみを連続可変し、電磁制御により運転点に応じた最適化を行う。ロブ切替や中間機構を伴う可変リフト(VVL)は実効リフト・作用角を変化させ、ポンピングロス低減と高出力の両立を図る。これらを統合した連続可変はトルク曲線を平坦化し、過給との協調で応答性も高める。

製造材料と表面処理

材質はチルド鋳鉄の一体鋳造、あるいは中空軸に粉末冶金ローブを圧入する方式などがある。SCM420/440などの合金鋼では浸炭焼入れや窒化処理で表面硬度HRC60級、残留圧縮応力の付与でピッティングやフレーキングを抑制する。最終工程は研削・超仕上げで表面粗さRaを低減し、油膜形成を安定させる。

潤滑と摩耗

カムシャフトとフォロワ接触は潤滑条件が厳しく、ZDDPなどの極圧添加剤により境界膜を形成する。初期馴染み不足や油圧低下はスコアリングやローブ先端の異常摩耗を引き起こす。オイルギャラリ設計、噴射向き、粘度選定、フィルタ捕捉性などの総合設計が信頼性を左右する。

駆動方式とNVH

クランクからの駆動はタイミングベルト、チェーン、ギヤドライブが用いられる。ベルトは軽量・低騒音だが温度と経年劣化管理が必要である。チェーンは耐久性に優れるがテンショナやスプロケット摩耗が課題となる。ギヤは高剛性だが歯打ち音や潤滑供給を考慮する。締結部にはボルトやキー、スプラインを適用し、位相ずれを防止する。

設計・解析・計測

プロフィール設計は充填効率モデル、ガスダイナミクス、バルブスプリングの固有振動解析を組み合わせ、フローティング回避と機械損失低減を両立させる。計測はダイヤルゲージやレーザ変位計でリフト曲線を取得し、度盤で位相を検証する。CNCカム研削盤では熱変位補正やドレス制御により形状精度を確保する。

故障モードと対策

代表的な不具合はローブ摩耗、ジャーナル焼付き、位相ずれ、ねじり振動起因のピン破断などである。対策としては表面強化、油圧供給の安定化、トーションダンパやチェーンガイドの最適化、適正な組付けトルク管理が挙げられる。初期慣らしにはモリブデングリースを用い、金属接触の発生を抑制する。

モータースポーツとチューニング

高リフト・長作用角の競技用カムシャフトは高回転域の充填を改善する一方、アイドル悪化や中低速のトルク低下を伴う。バルブスプリングはビー ハイブ形状やチタンリテーナを導入し、サージングを抑えて安全限界回転数を引き上げる。ECUの点火・燃料制御と協調した総合セットアップが不可欠である。

内燃機関以外への応用

カム機構は自動機や工作機械のインデックス装置、ポンプ、包装機の間欠駆動にも利用される。ドウェル区間を設けた等速度・等加速度運動を合成し、繰返し精度と耐久性を両立する。産業機械では潤滑管理と表面改質により長期のメンテナンス周期を実現し、省エネルギー化に寄与する。