ブラックホール|光すら逃れぬ究極の重力天体

ブラックホール

ブラックホールは、脱出速度が光速を超えるため光すら出られない時空領域である。重力はアインシュタインの一般相対性理論で記述され、質量とスピンと電荷という少数のパラメータで特徴づけられる(無毛定理)。表面に相当する「事象の地平線」を越えると外界への因果的通信は断たれ、内部は古典論的には特異点へ向かう。天文学では、周囲の恒星運動、降着円盤からのX線・γ線、電波ジェット、重力波合体信号などから間接的にブラックホールの存在が確定されている。

定義と基本性質

ブラックホールは、事象の地平線により境界づけられた領域である。非回転・無電荷の場合はシュヴァルツシルト解、回転をもつ場合はカー解が解となる。回転があるとエルゴ領域が現れ、ペンローズ過程によりエネルギー抽出が可能となる。天体として観測される外縁には高温の降着円盤が形成され、ドップラー効果と重力赤方偏移がスペクトルに特徴的な歪みを与える。

形成と分類

形成経路は主に重い恒星の重力崩壊、連星合体、密集環境での段階的成長、原始宇宙での密度ゆらぎに由来すると考えられる。質量帯で分類すると、恒星質量(数M☉〜数十M☉)、中間質量(10³〜10⁵M☉)、超大質量(10⁶〜10¹⁰M☉)に大別される。銀河中心の超大質量体は活動銀河核のエンジンであり、周囲のバルジ質量と相関する。

  1. 恒星崩壊由来:大質量星の超新星爆発後に残るコアが重力的に圧縮されてブラックホールとなる。
  2. 合体増大:連星ブラックホール同士が重力波放射で軌道縮退し、合体して質量を増す。
  3. 降着成長:ガスを長期にわたり取り込み、超大質量へ成長する。
  4. 原始的起源:宇宙初期の高密度ゆらぎが直接崩壊した可能性が議論される。

シュヴァルツシルト半径

非回転・無電荷の場合、地平線半径は r=2GM/c^2 で与えられる。太陽質量1M☉なら約3km、銀河中心級なら天文単位規模となる。半径は質量に比例し、平均密度は質量の二乗に反比例して低下するため、巨大ブラックホールほど平均密度はむしろ小さくなる。

構造:地平線と内部

地平線の外側では強い時空の曲率により時間の遅れと光の湾曲が顕著となる。内部構造は一般相対論の範囲では特異点を含むが、プランクスケールでは量子重力が必要である。候補理論として超ひも理論ループ量子重力が検討され、エントロピーの起源や情報問題の整合的説明が模索されている。

スピンと電荷

現実の天体は回転を持つと考えられ、カーブラックホールが標準的である。電荷は天体物理環境ではほぼ中性化するが、理論的にはカー・ニューマン解が存在する。スピンはジェット生成効率や内縁の安定円軌道半径に影響を与える。

観測:電磁波と重力波

降着円盤は高温プラズマで、シンクロトロン放射や逆コンプトン散乱が支配的である。噴出する相対論的ジェットでは、電子などのレプトンと陽子などのハドロンが加速され、光子というゲージボソンとして広帯域に放射する。Event Horizon Telescope (EHT) はM87*やSgr A*の地平線スケール像を提示し、LIGO/Virgo/KAGRAはブラックホール合体の重力波信号を検出して質量・スピンを測定している。

  • 電磁観測:X線連星の周期変化、鉄Kα線の非対称広がり、連続スペクトルの高エネルギー成分。
  • 重力波観測:合体直前のチャープ波形からパラメータ推定。
  • 力学的手掛かり:銀河中心近傍での恒星のケプラー運動。
  • 重力レンズ:背後天体の像の湾曲・多重化。

時空効果と相対論的現象

地平線近傍では強い重力赤方偏移と時間の遅れが生じる。降着円盤の内縁付近ではフレームドラッギングによる歳差運動が観測されうる。これらは一般相対性理論の具体的検証場となり、古典的テストを超える高曲率領域での検査が可能である。

熱力学と量子効果

ブラックホールには温度とエントロピーが割り当てられる。ベケンシュタイン–ホーキングの式によりエントロピーは地平線面積に比例し、温度は質量に反比例する。Hawking radiation により孤立ブラックホールは極めて長時間かけて蒸発する。素粒子の質量の起源(ヒッグス粒子)とは別の概念である点に注意する。

宇宙進化における役割

超大質量ブラックホールは活動銀河核として強いフィードバックを銀河へ与え、星形成史やガス循環を規定する。銀河ハローを支配するダークマターとは役割が異なり、ダイナミクスやレンズ効果の解析では両者を峻別する必要がある。合体史・降着史の復元は、宇宙再電離以後の構造形成を読み解く鍵である。