ループ量子重力
ループ量子重力は、時空そのものを量子化しようとする重力理論であり、背景となる連続的時空を仮定せず、微視的には離散的幾何が現れるとする立場である。一般相対性理論と量子力学の両立を目標とし、支配的長さはプランク長ℓₚ≈1.6×10^-35 mである。カノニカル定式化ではAshtekar変数を用い、接続とフラックスの位相空間を基礎に、ループに沿うholonomyと面積に対応するfluxを基本量とする。これにより紫外発散が抑制され、面積・体積演算子の固有値が離散になる。
基本的枠組み
LQGの基底状態はグラフ上のスピンネットワークである。辺にはSU(2)表現j、節点にはintertwinerが対応する。ガウス・微分同変・ハミルトニアンの3制約を満たす物理状態の構成が中心課題であり、Thiemannの処方やmaster constraintが用いられる。面積固有値はℓₚ^2に比例して√{j(j+1)}の形で現れ、連続極限ではリーマン幾何の回復が期待される。
幾何の離散化と観測量
- 面積・体積の離散スペクトル:最小単位はℓₚで定まり、短距離の発散を回避する。
- 黒洞地平面の量子:状態数え上げによりBekenstein–HawkingのエントロピーS=A/4ℓₚ^2を再現(Barbero–Immirziパラメータγ)。
- ループ量子宇宙論:一様等方モデルではビッグバン特異点がビッグバウンスへ置換され、改変フリードマン方程式が得られる。
ダイナミクスとスピンフォーム
共変的定式化では、離散化した2複体の履歴に重みを与えるスピンフォーム(EPRL–FKなど)を用いる。これはBF理論に拘束を課す道積分的手法で、半古典極限でRegge計量重力を与えることが示唆される。粗視化と再正規化により連続極限と有効場理論への接続を探る。
背景独立性と他理論との比較
LQGは背景計量を固定しない。これは一般相対性理論の微分同変性に整合的であり、摂動展開に依存しない量子化を志向する。一方、統一を目指す超ひも理論とは動機が異なり、標準模型の取り込みは未完である。低エネルギー極限、Lorentz対称性、連続幾何の再現など、接続原理の明確化が課題である。
観測可能性と検証
LQGは極高エネルギー領域の理論だが、間接的痕跡として、LQCに由来する初期宇宙ゆらぎの修正、黒洞蒸発末期、ガンマ線の分散関係の微小改変などが議論される。確定的シグナルは未確認である。素粒子側ではヒッグス粒子やゲージボソン、物質側ではレプトンやハドロンとの結合、宇宙論ではダークマターとの整合を評価する。
歴史とコミュニティ
1986年のAshtekar変数導入を起点に、1990年代にRovelliとSmolinがループ表示を確立し、面積・体積演算子の離散性が見出された。2000年代にはスピンフォームが発展し、EPRL–FK模型が提示された。現在は粗視化、群場理論、LQCの精緻化、ブラックホール情報問題への応用が進む。
用語と関連概念
- Ashtekar–Barbero変数、SU(2)接続、holonomy/flux
- スピンネットワーク、intertwiner、EPRL–FK、Regge計算
- BF理論、Chern–Simons理論、Barbero–Immirziパラメータγ