歯車比|歯数で決まる速度とトルク

歯車比

歯車比とは、噛み合う歯車の入力軸と出力軸の回転速度の比を表す無次元量である。一般に i=ω_in/ω_out=z_out/z_in と定義し(ωは角速度、zは歯数)、速度変換だけでなくトルク増幅や回転方向の判定にも用いる。歯車比は時計からロボット、車両用変速機、産業用減速機まで、動力伝達の設計・評価の中心概念である。設計では数式上の比だけでなく、損失、剛性、歯面強度、組立誤差を含めた総合最適化が必要となる。

定義と基本関係

本稿では歯車比 i を「入力の角速度を出力の角速度で割った値」とする。よって i=ω_in/ω_out=z_out/z_in、同様に回転数 n を用いれば i=n_in/n_out となる。外歯車同士の噛み合いでは角速度の符号が反転し、内歯車との噛み合いでは同方向となる。実務では大きさのみを扱うことが多いが、運動学の厳密化や遊星機構では符号の扱いが重要である。

速度とトルクの換算

速度は n_out=n_in/i。理想的には動力 P=T·ω が保存されるため T_out·ω_out=η·T_in·ω_in(η は効率)であり、T_out=η·i·T_in となる。すなわち歯車比が大きいほど速度は下がりトルクは増える。段数が増えると η_total=∏η_k により総合効率が低下するため、必要最小段数で目的の i を満たす構成が望ましい。

歯数とモジュール

歯車比は歯数比 z_out/z_in のみで決まり、モジュール m(歯の大きさ)は比には影響しない。ただし m は中心距離や強度に影響するため、同一段内で m と圧力角は統一する。磨耗の偏在を避けるため、相対的に互いに素に近い歯数の組合せ(ハンティング効果)が望ましい。

回転方向と符号

外歯車×外歯車では出力は入力と反転方向、外歯車×内歯車では同方向となる。符号付きで扱えば、外歯車噛み合いは ω_out=−(z_in/z_out)·ω_in、内歯車噛み合いは ω_out=+(z_in/z_out)·ω_in である。ウォームギヤは直交軸で方向の取り扱いが異なるため、座標系の取り方を明確にする。

複合歯車列の算出

複数段の歯車比は積で求まる。例えば 1 段目 20→80(i₁=80/20=4)、2 段目 16→60(i₂=60/16=3.75)なら i_total=i₁·i₂=15。入力 1500 rpm は出力 100 rpm となる。符号付与や内歯段の混在時は各段の符号を掛け合わせ、最終方向を決定する。

遊星歯車の計算(Willis式)

単純遊星機構では (ω_s−ω_c)/(ω_r−ω_c)=−z_r/z_s(Willis)を用いる(s:サン、r:リング、c:キャリア)。代表例:①リング固定(ω_r=0)でサン入力・キャリア出力なら i=ω_s/ω_c=1+z_r/z_s。②サン固定でリング入力・キャリア出力なら ω_c/ω_r=z_r/(z_s+z_r)。③キャリア固定なら ω_s/ω_r=−z_r/z_s。符号と基準軸を一貫させれば誤りが防げる。

記号・表記と読み方

  • i:歯車比(例:i=3 は「3:1 の減速」)
  • z:歯数、n:回転数、ω:角速度、T:トルク、η:効率
  • 表記例「80/20=4」は「20→80 で i=4」を意味する

効率の目安

  1. 平歯車(良好潤滑):η≃0.98〜0.99/段
  2. はすば歯車:η≃0.97〜0.99/段(軸力と攪拌損失に留意)
  3. ウォームギヤ:η≃0.70〜0.90(リード角と潤滑で大きく変動)

歯先干渉と最小歯数

20°フルデプス基準で、無修正の小歯車は z≈17 未満でアンダーカットが生じやすい。大きな歯車比で小歯車側が極端に小さくなる設計では、転位(プロファイルシフト)や多段化で干渉回避と強度確保を両立する。

ハンティング効果

相対的に互いに素の歯数組合せ(例:19 と 80)では噛み合い相手が周期的に変わり、歯面接触が分散される。これはピッチ誤差や面粗さに起因する模様摩耗を抑え、静粛性や寿命の面で有利に働くため、単段で固定荷重の用途ほど有効である。

設計例(2段減速)

目標 1500 rpm→100 rpm(i=15)。選定:段1 20→80(i₁=4)、段2 16→60(i₂=3.75)。総比 15、出力は 100 rpm。各段 η=0.97 とすれば η_total≈0.94、トルク増倍率は η_total·i≈14.1。両段で同一 m・圧力角・歯幅とし、中心距離整合と強度計算(曲げ・面圧)を確認する。

測定・同定

既設装置の歯車比は、入力と出力の回転数をタコメータやエンコーダで同時測定し i=n_in/n_out から求める。遊星機構は固定要素や出力要素を特定した上で Willlis 式を適用する。歯数が見える場合は z を数え、理論比と実測比を突き合わせて誤差や滑りを推定する。

関連規格

用語や幾何要素は JIS(例:JIS B 1701 系)および ISO(例:ISO 21771、ISO 6336 系)で整備される。公差・精度等級により実効歯車比の微小偏差や振動特性が左右されるため、設計段階で要求精度と加工・検査手段を合わせ込むことが重要である。