トライボロジー|摩擦・摩耗・潤滑の科学と技術

トライボロジー

トライボロジーは、接触する固体表面の間で生じる摩擦、摩耗、潤滑の法則と応用を扱う工学横断領域である。語源はギリシャ語のtribos(擦る)に由来し、19世紀の潤滑理論と20世紀の材料・表面科学の発展を背景に体系化された。対象は機械要素からバイオインプラントまで広く、エネルギー損失低減と寿命向上に直結する。実務では設計、材料選定、油剤管理、状態監視を統合し、経済合理性と環境適合性を同時に満たす最適化を図る学問である。

定義と範囲

トライボロジーは摩擦(friction)、摩耗(wear)、潤滑(lubrication)の相互作用を系として捉える。対象スケールは原子レベルの吸着・化学反応から、実機の接触圧・温度・流体挙動に及ぶ。構成要素は相手材、表面粗さとトポグラフィ、媒質(油・気体・固体潤滑剤)、荷重と速度、温湿度、外部電場などで、その組合せで挙動が決まる。

摩擦の基礎

古典的にはAmontons-Coulomb則が知られ、乾燥接触では摩擦力は法線荷重に比例し、接触面積に依存しないとされる。実際には真実接触面積と凝着、塑性変形、掘り起こし(ploughing)が寄与し、速度や温度にも依存する。静止摩擦と動摩擦の差、スティック・スリップ、境界膜のせん断が論点である。

摩耗の形態

摩耗は接触表面の物質損失であり、凝着摩耗、研磨摩耗、表面疲労(ピッチング・スポーリング)、フレッティング、腐食摩耗に大別される。設計計算ではArchardの摩耗則V=kWL/Hが経験式として用いられる。ここでWは荷重、Lはすべり距離、Hは硬さである。

潤滑の原理

潤滑は表面間に媒質を介在させ、接触応力とせん断抵抗を低減する技術である。流体潤滑は粘性圧で膜厚を形成し、EHL(elastohydrodynamic lubrication)は弾性変形と圧力粘度効果で高荷重に対応。境界潤滑は分子膜の化学吸着や反応膜で保護し、混合潤滑は両者の遷移領域に相当する。

Stribeck curve

Stribeck curveは摩擦係数μを粘度η×速度V÷単位荷重P(Hersey数)で整理し、境界→混合→流体潤滑への遷移を示す。低Hersey数では固体接触が支配しμが高いが、増加に伴い膜形成で低下し、さらに高くなると内部粘性損失で上昇する。設計では運転点を低μ域に置くよう諸元を調整する。

表面粗さと表面改質

表面粗さ(Ra、Rz)とテクスチャは潤滑膜形成と摩耗の初期条件を規定する。DLCやTiNなどのPVD、窒化・浸炭、ショットピーニング、ホーニング溝、レーザーテクスチャは凝着低減や油保持性の向上に有効である。微細突起を統計的に扱うGWモデルも用いられる。

材料・潤滑剤・添加剤

材料は硬さ・靱性・熱伝導率・化学安定性で選定する。潤滑剤は鉱物油、PAO・エステル等の合成油、グリース、水系からなる。添加剤はZDDP等のAW/EP剤、摩擦調整剤、酸化防止剤、清浄剤が代表で、境界膜を形成して摩耗を抑える。固体潤滑剤はMoS2、グラファイト、PTFEが多用される。

計測・評価法

  • pin-on-disk:一定荷重下で摩擦係数と摩耗量を評価
  • four-ball:極圧性能や焼付き限界を評価
  • SRV/往復試験:境界潤滑やフレッティング特性を測定
  • プロフィロメータ・AFM:表面粗さ、摩耗痕形状の定量
  • 油分析:摩耗粉、酸化度、粘度変化による状態監視

設計指針と計算

滑り軸受ではHamrock-Dowson近似で最小膜厚を見積もり、λ=膜厚/複合粗さで接触様式を判定する。歯車や制動材ではPV値、発熱・放熱、熱弾性不安定の抑制が鍵となる。安全率は油劣化や荷重変動、汚染粒子を考慮して設定する。

産業応用

自動車のエンジン・駆動系、航空機のベアリング、工作機械のガイド、医療用摺動まで、トライボロジーは広範に適用される。低粘度油と高精度加工の併用、デジタルツインでの運転点最適化、油剤のライフサイクル管理は燃費と信頼性の両立に資する。

標準化と学術基盤

JISやISOは試験法・用語・潤滑剤規格を整備し、相互比較性を担保する。学会はSTLE、JASTが代表で、Bowden & Taborの凝着理論、Reynolds方程式、Stribeckの実験、近年のin situ観察が理解を深化させた。材料・流体・化学・制御が結節する学際領域である。