マグネシウム|Mg,軽くて豊富な構造材

マグネシウム(Mg)

マグネシウム(Mg)は原子番号12のアルカリ土類金属であり、常温で銀白色の金属光沢を示す。比重は約1.74で実用金属中でも特に軽量(鉄の約4分の1、アルミニウムの約3分の2)である一方、比強度に優れ、ダイカストや押出で薄肉・軽量部材を得やすい。天然資源が豊富で、リサイクル性にも優れている。空気中で薄い酸化被膜を形成して一時的に不動態化するが、塩化物環境では腐食しやすい。強い還元力(標準電極電位約-2.37 V)を持ち、化学・冶金・防食分野で広く利用される。燃焼時には強い白色光を発し、粉末や切り屑は可燃性が高いため安全管理が重要である。

基本性質

原子量は24.305、結晶構造は室温で六方最密充填(hcp)である。融点は約650℃、沸点は約1090℃と低融点に属する。空気中では表面にMgOや水酸化物の被膜が形成される。水との反応は室温では遅いが、酸性条件や高温では水素を発生して反応が進む(例:Mg + 2H2O → Mg(OH)2 + H2)。また2Mg + O2 → 2MgOの反応は強発熱で、燃焼光は紫外域を含む。熱・電気伝導率は中程度で、熱膨張はアルミニウム合金に近い。

基本性質の一覧

比強度:比強度(比重に対する材料の強度)が鉄鋼やアルミニウム合金よりも高く、強度を保ったまま機体の軽量化が可能となる。
熱伝導性:アルミニウム合金には劣るものの、熱伝導が高いため、放熱特性に優れている。放熱が必要なIT機器や液晶プロジェクタの部品に使用されている。。
耐震性:振動や衝撃によるエネルギーの吸収特性に優れるため、タブレットPCや車のステアリング部品などにも用いられる。
電磁波シールド性電磁波シールド性が高い特徴を持つ。IT機器のケーシング(筐体)やシールド材としての用途も増えている。

結晶学と塑性変形

hcp構造のため、室温では主に底面すべりが支配的で、変形能は立方晶金属に比べて低い。双晶変形が重要な役割を果たし、延性や集合組織に影響を与える。温度上昇により稼働すべり系が増え、加工性が向上する。このため展伸材の熱間押出・圧延では加工温度の管理が重要である。

化学反応と腐食

酸素・水と反応してMgOやMg(OH)2を形成するが、塩化物イオン存在下では被膜が破壊され孔食やすきま腐食が生じやすい。標準電極電位が卑であるため、鉄鋼・アルミニウムとの接触では電食が起こりうる。犠牲陽極としての用途ではこの卑な電位が利点となり、海水中で配管・船体・貯湯槽などの防食に用いられる。有機合成ではグリニャール試薬(RMgX)がカルボニル化合物への付加反応などで重要である。

火災・安全性

切粉・粉末は着火しやすく、燃焼時に強い白色光と高熱を発する。消火には乾燥砂や金属火災用粉末が適し、水や泡、CO2は不適である(発熱反応や水素発生、再着火の危険)。機械加工では鋭利な工具で切れ味を保ち、切粉を短く管理し、発火源(火花・高温)を避ける。研磨粉やダストは集塵と防爆対策を施す。

製造法

主な製造は電解法と熱還元法である。電解法は海水・かん水由来のMgCl2を脱水・精製し、融解塩電解で金属MgとCl2を得る。熱還元法(ピジョン法)は焼成ドロマイト由来のMgOをフェロシリコンで還元し、Mg蒸気を凝縮回収するプロセスで、装置が簡素でスケールしやすい一方、熱エネルギー負荷が大きい。いずれも乾燥・酸素遮断など雰囲気管理が歩留まりと品質の鍵となる。

リサイクルと環境

マグネシウム合金は溶解・再鋳造で高いリサイクル性を示すが、溶湯酸化や燃焼を抑えるための被覆ガス・フラックス管理が必要である。温室効果の大きい被覆ガスの使用低減や不活性雰囲気化、LCAによる軽量化効果の定量評価が環境面で重視される。

合金系と機械的性質

代表的合金系はMg-Al-Zn(AZ系)、Mg-Al-Mn(AM系)、Mg-Zn-Zr(ZK系)、希土類添加系などである。AZ91はダイカスト性・耐食性のバランスに優れ、薄肉鋳造品に広く用いられる。室温延性は限定的だが、時効析出や微細化、希土類添加で強度・耐熱性・クリープ特性が向上する。比強度・比剛性の高さは軽量化設計に有利で、NVHや座屈・疲労設計では薄肉化と補剛の最適化がポイントとなる。

成形・表面処理

ダイカストは高い生産性でスマートフォン筐体・自動車部品などに適用される。展伸材は押出・圧延・鍛造で用いられ、加工割れ防止に温度・ひずみ速度の制御が重要である。表面処理は化成処理、陽極酸化、プラズマ電解酸化(MAO)、めっき・塗装などが用いられ、耐食性・密着性・外観の向上を図る。

用途

  • 輸送機器:ステアリングホイール、インパネ骨格、ケース類などの軽量化部品。
  • 電気・電子:筐体・ヒートシンク。電磁遮蔽性と成形自由度を活かす。
  • 防食:配管・船体・温水器用の犠牲陽極。
  • 冶金:球状黒鉛鋳鉄の球状化剤、脱硫・脱酸剤。
  • 化学・発光:グリニャール反応、発光・火工品(白色光源)。
  • 医療:生体吸収性材料の研究・実用化(Mg系インプラント)。

設計・評価上の留意点

電食リスクを抑えるため異種金属接触と電解質の管理、シール性と排水性の確保、表面処理と塗装系の選定が重要である。薄肉化に伴う座屈・ねじり剛性の確保、熱膨張差によるはめ合い管理、ボルト締結部の座面設計、ねじ山座屈・埋め込み(インサート)活用、疲労・クリープの評価を総合的に行う。可燃性に配慮し、加工・保管・輸送まで一貫した安全対策を講じる。

データ例(目安)

純Mgの密度約1.74 g/cm3、熱伝導率約156 W/m·K、ヤング率約45 GPa、引張強さ(鋳造材)100~200 MPa程度、AZ91ダイカストの引張強さ200~300 MPa程度。数値は材質・組織・処理条件により変動するため、設計時は最新の材料規格・メーカー資料に基づき確認する。