電気亜鉛めっき
電気亜鉛めっきは、鉄鋼製品の表面に電解作用で亜鉛皮膜を析出させ、犠牲防食と塗装下地性を付与する代表的な表面処理である。皮膜は薄く均一に形成でき、外観は明るく寸法公差への影響が小さいため、自動車部品、家電、電子機器、締結部品など幅広い分野に採用される。皮膜厚さは一般に5〜25µm程度で、ISO 2081は記号体系と後処理を規定する。ホットディップに比べ微細で平滑な外観を得やすく、バレルやラックなど多様な治具・装置に適用できる点も特徴である。
作用原理
電気亜鉛めっきでは、被処理材(カソード)表面でZn²⁺が還元され金属亜鉛として析出する。亜鉛は鉄より卑な電位であるため、皮膜が局部的に破れても犠牲防食が働き、基材鉄の腐食進行を抑える。皮膜表面は微細結晶で緻密化しやすく、化成処理による不働態化(クロメート代替の三価クロム処理など)で白錆の発生をさらに遅延できる。電流分布はエッジや角部に集中しやすく、設計段階で形状・電極配置・治具の最適化が重要となる。
めっき浴の種類と特徴
- 酸性塩化亜鉛浴:電流効率が高く光沢外観を得やすい。高速生産に適し、装飾性部品に広く用いられる。
- アルカリ非シアン浴:スローイングパワーに優れ、複雑形状の凹部にも膜厚が乗りやすい。ねじ部品などで有利である。
- 添加剤(光沢剤、レベラー、潤滑性付与):粒径や内部応力、摩擦係数を制御し、トルク‐テンション安定化に寄与する。
工程と装置
- 前処理:脱脂(溶剤・アルカリ)、酸洗い、電解脱脂で表面汚れと酸化皮膜を除去。
- めっき:ラック(大型・外観重視)/バレル(小物量産)を選択し、1〜5A/dm²程度の電流密度、20〜35℃の浴温、攪拌・ろ過で安定運転。
- 水洗:引き抜きやすい配置・ドレン孔設計でキャリーオーバーを低減。
- 後処理:三価クロム化成、封孔、必要に応じて塗装プライマーで耐食と密着を強化。
- 検査:外観、膜厚、付着性、耐食性を規格に基づき評価する。
皮膜厚さ・記号・測定
電気亜鉛めっきの皮膜厚さは用途で最適化する。屋内機構部品や塗装下地では5〜10µm、屋外・耐食重視では10〜25µmが目安である。ISO 2081では基材/皮膜(例:Fe/Zn)と最小膜厚、後処理種別(透明・黒色・厚膜化成など)を組み合わせて指定する。膜厚測定は磁気式膜厚計や蛍光X線法が実務で多用され、部位ごとの分布確認が重要となる。
耐食性と後処理
電気亜鉛めっきの腐食進行はまず白錆(亜鉛の腐食生成物)、ついで赤錆(基材鉄の露出)として現れる。三価クロム系化成処理はCr⁶⁺規制に適合しつつ不働態皮膜で白錆発生を遅らせる。封孔剤(シーラー)や塗装の併用で塩水噴霧試験(NSS, ISO 9227)における耐久を向上できる。電解条件や結晶方位、皮膜欠陥の低減は耐食性のばらつき抑制に直結する。
水素脆化とベーキング
電気亜鉛めっきの前処理・酸洗・電解過程では水素が金属内に侵入しうる。高強度鋼の締結部品では遅れ破壊のリスクがあるため、めっき後速やかにベーキング(例:200℃×2〜4hの熱処理)を実施する設計・工程管理が求められる。前処理の最適化、アルカリ浴の採用、陰極電解条件の適正化も有効である。
設計・製造上の注意点
- 形状:鋭角・エッジは膜厚が過大になりやすく、凹部は不足しやすい。面取り・R付与、陰極補助電極の活用が有効である。
- ドレン孔:箱形・中空品は液溜まりを避けるため十分な開口を設ける。
- ねじ部:めっき増肉により嵌合が変化するため、許容差やゲージ管理を行う。締結要素の代表例としてボルト設計と公差の整合が重要である。
- 異種金属接触:アルミ・銅との電位差腐食に留意し、絶縁や塗装で対策する。
適用分野と要求機能
- 自動車:ブラケット、クリップ、シャーシ小物。外観・耐食・塗装密着のバランスが要求される。
- 家電・電子機器:筐体小物、端子部材。均一性と微細外観が有利に働く。
- 建築・機械要素:締結部品(ボルト・小ねじ)、金物。トルク‐テンションの安定化が品質要件となる。
品質評価・試験
- 外観・光沢・変色:規格見本と目視比較、分光で管理。
- 膜厚分布:代表部位と最薄部の両方を管理点に設定。
- 付着性:クロスカット、曲げ試験、テープ試験などを組み合わせる。
- 耐食性:NSS(ISO 9227)で白錆・赤錆の発生時間を指標化。実機環境との相関評価を並行する。
環境・安全・コンプライアンス
電気亜鉛めっきは、六価クロムを用いない三価クロム化成へ移行が進む。シアン化物を使用しない浴の普及、キレート剤管理、排水の中和・凝集沈殿・重金属回収など環境対策は不可欠である。REACHやRoHSに適合させるため、材料構成と後処理仕様を図面・購買仕様で明確化することが望ましい。
プロセス最適化の要点
電気亜鉛めっきの安定化には、(1)浴組成・pH・温度・導電率の維持、(2)ろ過・活性炭処理による不純物管理、(3)電流密度と治具接触の再現性、(4)自動分析とフィードバック補給、(5)部位別膜厚の工程能力(Cp/Cpk)監視が有効である。ラインバランスと前後工程(機械加工・洗浄・塗装)との連携も歩留まりを大きく左右する。
関連技術との位置づけ
電気亜鉛めっきは、溶融亜鉛めっきに比べ薄膜・高外観・寸法安定性で利点があり、塗装下地としても扱いやすい。一方で厚膜・極限耐食が必要な場面では別手法を選ぶこともある。亜鉛‐ニッケル合金めっきやリン酸塩皮膜との併用は耐食・摩擦制御の高度化に有効で、用途ごとの目標仕様に応じて最適化する。