電動コンプレッサー|低騒音・高効率のHVAC心臓部

電動コンプレッサー

電動コンプレッサーとは、自動車の空調や熱マネジメントに用いられる圧縮機で、エンジンの補機ベルトではなく内蔵モーターとインバータで駆動する方式である。エンジン停止中でも作動でき、ハイブリッド車や電気自動車の冷房・除湿・熱ポンプ加熱を担う。筐体内に永久磁石同期モーター、インバータ、スクロールまたはロータリ式の圧縮機構を一体封入し、高電圧直流(おおむね200〜800V)を受けて回転数を可変制御する。高い省エネ性と応答性、車室内快適性、駆動用バッテリーの温度管理に寄与するのが特長である。

仕組みと構成要素

電動コンプレッサーは、モーターで圧縮機構を直結駆動する。インバータが直流を三相交流へ変換し、ベクトル制御でトルクと回転数を精密に指令する。一般に気密ハウジング内へモーター・圧縮機・インバータを集約し、冷媒や油による冷却・潤滑を行う。潤滑油は電気絶縁性と冷媒溶解性のバランスが重要で、絶縁抵抗を保ちながら摩耗や焼付き、漏電を防止する設計が求められる。

冷媒回路との関係

電動コンプレッサーは、吸入側のエバポレーターや膨張制御を担うエキスパンションバルブ、放熱側のコンデンサーと一体で冷媒循環を形成する。熱交換器・配管の圧力損失、油回収性、冷媒質量流量を総合最適化するとともに、熱マネジメント系のチラーやヒートエクスチェンジャと結合して駆動用バッテリー、インバータ、車室の需要に配分する。

制御と保護機能

制御は車両側ECUとCAN通信で連携し、冷房能力指令、回転数上限、電流制限、吐出圧・吸入圧・巻線温度・筐体温度の監視を行う。インバータは過電流・過電圧・過熱・漏電を自己診断し、異常時はソフト停止または遮断する。起動時の突入電流や液圧縮防止、霜付・氷結回避のための除霜制御、低温時の油性状補償などのロジックも実装される。

性能指標と設計パラメータ

電動コンプレッサーの評価には、冷房能力(kW)、消費電力(kW)、COP(能力/電力)、体積・重量、回転数レンジ、騒音・振動(NVH)、等温・断熱効率、漏れ量、油分離効率が用いられる。マップは吸入・吐出圧力と回転数の三次元で表し、車両の運転条件(アイドルストップ、渋滞、登坂、猛暑)に対して能力維持と省エネを両立させる。

絶縁・安全設計

高電圧系部品として、クリアランス・沿面距離、絶縁抵抗、耐電圧、接地、コネクタの二重絶縁、HVインターロックの監視が必須である。冷媒と油は巻線・ステータを洗うため、油の誘電率や水分含有が絶縁寿命に直結する。リングターミナル・バスバーの温度上昇、結露対策、IP等級、ガスケットの耐冷媒性も重要になる。

NVHと取付け

電動コンプレッサーは高回転で広帯域音を放射するため、フローティング支持、ゴム系インシュレーター、配管の固有振動数ずらし、筐体リブ追加などで放射・伝達を低減する。車室内への透過はバルクヘッドやフロアを経由するため、遮音パスに対し遮音材やダンピング材を適用する。回転体のアンバランスや電磁励振、脈動圧の抑制も要点である。

製造と品質保証

製造では清浄度管理(粒子・水分・酸価)、真空乾燥、ろう付・ろう材のぬれ性、圧縮機構のクリアランス管理、ヘリウムリーク試験、EOLでの能力・電流・効率・騒音測定を実施する。封入油量・冷媒適合性、センサー較正、固有値解析に基づく取り付け剛性の確認までを工程内品質で担保する。

よくある故障モード

  • 巻線の絶縁劣化や水分混入による漏電・トリップ
  • 軸受の潤滑不良・焼付き、スクロール摩耗
  • 液冷媒の吸入(液圧縮)や過熱による能力低下
  • 異物混入(FOD)や酸生成による腐食
  • 制御系のセンサー異常、CAN通信断、インバータ過電流

設計の勘所

  • 能力ピークと騒音・電力のバランスを取る回転数計画
  • 油回収性と熱交換器内のオイルリテンション低減
  • 熱抵抗ネットワークの最小化(巻線→筐体→外気)
  • メンテ性・整備性(サービスバルブ配置、配管着脱)

熱マネジメント統合

熱ポンプ車では、配管の切替弁で冷媒流路を反転し、暖房能力を得る。車室側ではヒーターユニット内の熱交換器やヒーターコアとの切替制御を行い、除湿・曇り取りを両立する。気流はダクトを通して各アウトレットへ配分し、乗員快適と霜取性能を確保する。駆動用バッテリーやパワーエレクトロニクス向けのチラーを介し、冷媒—冷却水の熱移送も行う。

冷媒・油と法規の留意点

電動コンプレッサーはR1234yfなど低GWP冷媒への適合が主流である。可燃性区分、サービス機器、保守手順、リサイクル、表示要件に配慮し、油はPOE系などの電気絶縁・潤滑・冷媒溶解性に適合したグレードを選定する。保守では真空引き・乾燥・規定量充填を厳守し、能力・電流・絶縁の確認を行うことが望ましい。