雑徭|戸籍に基づく無償の賦役制度

雑徭

雑徭とは、古代日本の律令国家において丁男を中心に課された公的労役の総称である。賦役令に基づく年限枠のもと、道路・橋梁・堤防・治水・宮城や官衙の造営・修理、駅伝馬の運搬・警備など、中央・地方の公共事業を支える基幹的な労務動員であった。租・庸・調と並ぶ負担体系の一角を占め、特に地方国衙の行政運営と密接に連動したため、地域差や国司の運用によって実負担は大きく揺れ動いた。雑徭の過重化は逃亡・浮浪の増大を誘発し、律令体制の動揺を映す指標としてもしばしば言及される。

制度的位置づけ

雑徭は、租(稲)・庸(絹・布)・調(特産物)とともに編成された賦課体系のうち、人的奉仕に属する。対象は原則として21歳から60歳までの丁男で、戸籍・計帳に基づく把握のもとに動員された。労役は国家直轄の都城・宮城造営から、国衙主導の郡里単位の土木作業に及び、いわば律令行政の「現場」を支える原動力であった。なお、戸数配当で支えられる田制や課税台帳の精度が、雑徭の動員実績を左右する構造にあった点は重要である(例:口分田や班田の把握)。

法定日数と運用

賦役令は年間動員の上限を定め、原則は60日以内とされることが通説的に指摘される。もっとも、実務では国司の裁量や事業の緊急度によって超過や分割動員、季節的集中が生じ、村落経済の繁閑と衝突した。結果として、雑徭は「法と現実」の乖離が露呈しやすい領域となり、朝廷は勅や格で臨時の軽減・停止・免除を指示することもあった。

具体的な作業と分担

  • 交通・運輸:駅家の維持、伝馬・運脚、官物の輸送、関・津の管理
  • 土木・治水:道路・橋梁・堤の築造・修理、溝渠整備、氾濫対策
  • 造営・修補:宮城・寺社・官衙・倉庫の造営と営繕
  • 警固・雑務:官衙の雑用補助、非常時の動員

対象者と免除

雑徭の基本対象は丁男である(丁男)。一方で老幼・病障・寡婦などに対しては免除・減免規定が置かれ、僧尼や一部の官人身分には恒常的免除が適用された。こうした免除は、労働力構成や村落の役負担の再配分を招き、残余人口への集中を通じて地域差を拡大した。

経済への影響

雑徭は、農繁期との競合によって生産力を圧迫しうる一方、道路・治水・架橋などの公共投資は物流の効率化を促し、市場圏の拡張や地域間分業の深化に資した。結果として、短期には家計負担、長期には公共基盤の整備という相反的側面を併せ持つ。とりわけ都城期(奈良時代)には宮都維持の恒常費用が大きく、雑徭の重要性が高かった。

租庸調・田制との連関

戸籍・班田の更新(六年一班など)が滞ると、賦課対象の把握が崩れ、雑徭の動員も歪む。口分配分の遅延や荒廃田の増大は、庸・調の納入不振と連動し、国衙は不足分を人的労役で補填しがちとなる。よって、班田・検田の実施状況は労役動員の健全性と裏腹である(参照可:口分田)。

法典と詔勅

雑徭の根拠は律令の賦役令条であり、運用は格・式・官符・太政官符などで累積的に調整された。大規模工事や水害復旧、飢饉対策では、臨時勅により動員・免除・停止が頻出する。法の定立(大宝律令・養老律令)と、現場通達による運用補正の二層が、雑徭制度の実像を形づくった。

過重化と社会的反応

度重なる臨時動員や賦課の重複は、逃亡・浮浪・私出挙依存を誘発し、村落共同体の規律を揺るがせた。国司交替時の「苛政」批判や再検断の訴えは、しばしば雑徭負担を焦点とする。これは受領期の「国衙機構の収奪化」とも通じ、律令国家の再編・弛緩の過程を読み解く鍵である。

中世への継承

10世紀以降、荘園制と受領支配が進展するなかで、名称や根拠を変えつつ労役は存続した。夫役・夫助など、中世的な公役・私役の多層化は、古代雑徭の機能分解と再結晶である。畿内・近国の流通圏においては道路・関津維持の労務が継続し、寺社・荘園領主による動員も制度化された。

語義と用法の幅

史料上の「徭役」は広義で人的奉仕一般を指し、「雑役」「雑徭」は狭義において公共的・臨時的性格の強い労務を指す場合が多い。ただし用例は時代・史料で揺れがあり、詔勅・格・式の文言、国衙文書の実務語、縁起・社寺文書の表現を丁寧に読み分ける必要がある。

関連と参照