酸素(O)
酸素(O)は原子番号8の非金属元素で、周期表第2周期・16族に属する。常温常圧では二原子分子O2として存在し、地球大気の約21%を占める。無色・無臭の気体だが、液体は淡青色で常磁性を示す。燃焼や腐食などの酸化反応を駆動し、生体・地球循環の要である。同素体オゾンO3は成層圏で紫外線を吸収する。一方で高濃度は可燃物の発火リスクを高めるため、厳格な取扱いが必要である。
基礎データと電子配置
原子量は約15.999、電子配置は1s2 2s2 2p4で不対電子を2個もつ。電気陰性度は3.44(Pauling)と高く、多くの元素と酸化物をつくる。単体の標準状態はO2、標準沸点−182.96℃、標準融点−218.79℃である。
狭い空間+可燃物+チタンの切り粉+酸素の供給+火種=?
※特性を理解した上で量を調整し、炉内に火を起こす前提でやってます。
絶対に真似しないでください pic.twitter.com/IAWylSvrc8— 京都ナイフショー実行委員会 (@kFG5MfQpjdQwuXC) May 5, 2024
発見の歴史
酸素の正体が科学的に解明されたのは18世紀後半のことであり、ジョセフ・プリーストリーやカール・シェーレ、アントワーヌ・ラヴォアジエなど複数の化学者が貢献している。プリーストリーとシェーレはほぼ同時期に酸素を発生させたが、ラヴォアジエが燃焼理論の観点から名称と性質を体系化したことで、その重要性が広く理解されるようになった。燃焼に不可欠な「活火気」として注目され、従来のフロギストン説を覆すきっかけとなった点は、化学史における画期的な出来事として知られている。
物理的性質
O2は直線分子で、基底状態が三重項のため常磁性を示す。水への溶解度は大きくないが低温で増加し、水処理や生物反応では溶存酸素(DO)が重要指標となる。液体酸素(LOX)は極低温と酸化性の両リスクをもち、貯蔵・輸送では断熱と清浄管理が要点である。
化学的性質と酸化
典型的酸化数は−2で、金属酸化物、非金属酸化物、過酸化物(O22−)など多彩な化合物を形成する。燃焼は可燃物がO2と反応する急速発熱反応で、「燃焼の三要素」の一つとして酸素が関与する。生体ではミトコンドリアがO2を最終電子受容体として用い、水を生成しつつATP合成を駆動する。
同位体
酸素には3種類の安定同位体が存在し、質量数16、17、18が知られている。なかでも質量数16のものが最も多く、地球上の酸素の約99.76%を占めている。これら同位体比の違いは気候変動の研究などに応用され、氷床コアやサンゴの化石分析を通じて過去の大気組成や気温を推定する際の指標となっている。考古学や地球科学の分野では同位体比測定技術が発展し、古環境の復元や水循環の解明など多彩な研究が進展している。
南極の氷の各物質含有値。特に酸素同位体の存在比は過去年代の気温や水温を推定することができる資料となります。これで氷河期などの存在が明らかになったりするのね。 pic.twitter.com/pAqbdjGPPi
— 元素学たん@月刊『化学』連載中! (@gensogaku) March 4, 2
製造法
- 深冷分離:空気を圧縮・精製して液化し、窒素・アルゴンと蒸留分離する。高純度供給に適する。
- PSA(Pressure Swing Adsorption):ゼオライトの選択吸着で窒素を除去しO2を得る。オンサイト供給に広い。
- 電気分解:水の電解でH2とO2を発生。再エネ電力と組み合わせ、グリーン水素と同時生産が可能。
用途
- 鉄鋼:転炉の酸素吹込みで脱炭・温度制御を行う。
- 溶断・溶接:可燃ガス炎やプラズマと組み合わせて切断・加熱効率を高める。
- 化学工業:エチレン酸化(エチレンオキシド)、プロピレン酸化(アクロレイン)などの合成。
- 医療:低酸素血症への医療用酸素、ICU・麻酔・高圧酸素治療での支持療法。
- 水処理・養殖:曝気でDOを維持し、生物処理の反応速度を確保する。
環境と生体循環
大気中のO2は光合成で供給される。オゾン層はO3の光化学平衡で維持され、紫外域(特にUV-B)を吸収する。水圏では温度・気圧・塩分で溶存酸素が変動し、貧酸素水塊や赤潮の指標となる。人体では動脈血酸素分圧PaO2、飽和度SpO2が重視される。
生物の歴史で一番面白いと思ったのは、初めて光合成を始めたシアノバクテリアが出す酸素は当時は猛毒であり多くの種が死滅、しかしその酸素を逆手にとり利用する生物がその後繁栄し、私たちに繋がっているという所。
善悪の判断が意味の無いものに思えるような衝撃。生命とは寄る辺ないもの。— Makoto Iijima (@makokujira) January 20, 2025
酸素の分析と計測
各種産業や研究分野で酸素濃度の測定は重要視されている。たとえば、大気中の酸素濃度をモニタリングして環境状態を評価したり、工場排気や燃焼装置での燃焼効率を管理したりする場合などに、ガルバニ電池式やジルコニア式の酸素センサーが用いられる。また、溶解酸素計(DOメーター)を使って水質汚染の監視や水産養殖の管理を行うこともあり、水中の生物が十分な呼吸環境を得られているかを判断するうえで欠かせない指標となっている。
安全性と取扱い
高圧・高濃度の酸素環境では、油脂・有機物・金属粉が低エネルギーで着火し暴燃する。配管・バルブは脱脂清浄を徹底し、酸素専用材料・シールを用いる。LOXは凍傷・脆性破壊の危険があるため断熱・通風を確保する。断熱圧縮点火を避けるべく、開閉速度と設計を管理する。長時間の高分圧は酸素中毒(中枢・肺)を誘発する。
分析・規格
O2濃度計測には常磁性式、ジルコニア式、ガルバニ電池式(Clark電極)などが用いられる。用途別に純度・水分・一酸化炭素・二酸化炭素などの不純物限度が規格化され、医療用は薬局方、工業用はISO・JISに基づくラベリングとトレーサビリティ管理が求められる。