過渡振動|初期条件と減衰で決まる非定常応答

過渡振動

過渡振動とは、機械・構造・電気回路などの動的系において、初期条件の付与や外力の急変(衝撃・ステップ入力・起動・停止など)により一時的に生じる時間依存の振る舞いである。定常的に一定振幅・一定周波数で続く定常振動と異なり、過渡振動は減衰やエネルギー散逸によって時間とともに消滅するのが特徴である。設計・保全の観点では最大応答、整定時間、疲労への影響が重要で、共振域をまたぐ起動や停止時の安全率や、衝撃荷重下での耐性評価に直結する。

原理と特徴

過渡振動は、系の自由応答(初期条件に起因)と強制応答(外力に起因)が重ね合わさって現れる。一般に自由応答は系固有のモードで構成され、粘性減衰などにより指数関数的に減衰する。励振直後に大振幅となることがあり、定常状態だけを基準にすると危険側評価となる場合があるため、立ち上げ・切り替え・衝撃イベントの評価で過渡振動は不可欠である。

数学的定式化(1自由度系)

代表的な1自由度系は m x” + c x’ + k x = f(t) で表される。固有角周波数 ωn=√(k/m)、減衰比 ζ=c/(2√(km)) とすると、f(t)=0 の自由応答は不足減衰なら x(t)=e^{-ζωn t}(A cos(ωd t)+B sin(ωd t))、ここで ωd=ωn√(1-ζ^2) である。ステップやインパルス入力に対しては、伝達関数 H(s)=1/(m s^2 + c s + k) を用いると解析が容易で、初期値や外力の時間関数をラプラス変換で扱える。

入力と応答の類型

  • インパルス応答:打撃試験などの短時間入力への過渡振動。モード形状と減衰を推定するのに適する。

  • ステップ応答:アクチュエータのオン/オフで生じる過渡。オーバーシュート、立ち上がり時間、整定時間が設計指標となる。

  • ランプ/スルー入力:回転数や流量の漸増で発生。加速区間で共振帯を通過する際に一時的に大振幅となりうる。

  • 調和外力の過渡成分:起動直後は定常ハーモニックに至るまで過渡振動が上乗せされる。

減衰と時間スケール

減衰比 ζ は過渡振動の収束速度を決める。設計目安として整定時間 Ts≈4/(ζωn)、最大オーバーシュート Mp≈exp(-ζπ/√(1-ζ^2))(ζ<1)などが用いられる。過減衰(ζ>1)は応答が遅く、臨界減衰(ζ=1)は最速無振動、不足減衰(0<ζ<1)は振動しながら収束する。

多自由度系とモーダル解析

多自由度系では固有値解析によりモードベクトルと固有周波数を得て、初期条件や外力をモードに射影して過渡振動を合成する(モード重ね合わせ)。比例減衰(Rayleigh 減衰)を仮定すれば各モードは独立な1自由度に分離でき、数値積分負荷を低減できる。モード減衰比は材料・接合・制振材の影響を反映する。

周波数領域との関係

過渡振動は時間領域の現象だが、H(s) の極(ポール)位置が減衰と固有振動数を規定し、時間応答の包絡と振動数を決める。インパルス応答は系のグリーン関数であり、任意入力は畳み込みで得られる。起動・停止の波形整形(入力整形)により高次モードを励振しにくい波形を設計できる。

評価指標と許容値設定

  • 立ち上がり時間・整定時間:操作性・スループットに直結。

  • 最大応答(変位・速度・加速度):クリアランスや耐衝撃強度に対する最重要値。

  • 応答倍率:定常倍率だけでなく過渡振動時のピーク係数を考慮。

  • 疲労・微小損傷:短時間でも繰返し起動が多い設備では累積損傷を無視できない。

抑制・制御手法

  • 受動対策:制振材、粘弾性層、オイル/粘性ダンパ、動吸振器(TMD)でモードエネルギを散逸・分散する。

  • 能動対策:フィードバック制御で過渡振動のオーバーシュートを抑制。前置補償や入力整形で高次モード励振を低減。

  • 運用対策:加減速プロファイル最適化、共振帯の急通過、ソフトスタート/ストップの採用。

測定と解析の実務

加速度計・レーザ変位計・ひずみゲージで時間波形を取得し、インパルスハンマ試験やランダム励振から FRF を同定する。時間領域では包絡抽出、短時間FFTやウェーブレットで周波数成分の時間変化を評価する。ウィンドウ処理やサンプリング同期を誤ると過渡振動のピークや減衰率を過小評価しうるため注意する。

数値シミュレーション

数値積分法(Newmark-β、Wilson-θ、Runge–Kutta など)で過渡振動を解く際は、時間刻みを固有周期の十分小さな分割に設定し、数値減衰や分散誤差の特性を理解して用いる。非線形ばねやすきま、摩擦を含むとモード結合や高調波が生じ、線形理論の単純な重ね合わせが破れるため、同定やパラメータスタディで挙動を把握する。

初期条件の取り扱い

初期変位・初期速度は自由応答の大きさを直接決める。多自由度系では初期条件をモード直交性に基づき各モードへ投影してから時間応答を合成すると、過渡振動のピーク予測が安定する。

安全設計上の留意点

定常点検だけでは見逃される締結部の微ゆるみ、配線・配管の共振、装置据付の境界条件変動が過渡振動で顕在化する。試運転やライン再起動のログを取得・比較し、ピーク値と整定時間を管理指標として傾向監視に用いることが有効である。