超硬ドリル
超硬ドリルは、WC-Co系の超硬合金を母材とするソリッドまたはロウ付け構造の切削工具であり、高硬度・高弾性率・高温硬さにより高速・高能率の穴あけ加工を可能にする工具である。高剛性によって振れと撓みを抑制し、切れ刃の鈍化が遅く、HSSに比べて高い切削速度と送りを許容する。鋼、鋳鉄、ステンレス、アルミニウム、CFRPやグラファイトなど広範な被削材に適用でき、内部給油孔(オイルホール)や高性能コーティングの採用により、深穴や難削材でも安定した切りくず排出と寿命の延長が図れる。
材料と構造
母材は微粒超硬(サブミクロン粒径)が一般的で、耐摩耗性と靭性のバランスに優れる。構造はソリッドタイプが主流であるが、大径域や特殊用途ではチップロウ付けタイプも用いられる。内部給油孔を備えたタイプは切削点にクーラントを直接供給でき、切りくず排出と熱抑制に有効である。
形状要素と切りくず排出
先端角(118°~140°)、シンニング(S字・X字など)、ねじれ角(おおむね30°~40°)、マージン、溝形状(パラボリック等)が基本要素である。先端角が大きいほど自己センタリング性と側面荷重の低減に寄与し、深穴では広い溝容積と滑らかな溝面が切りくず噛み込みを防ぐ。難削材ではシンニングによりチゼルエッジ荷重を軽減し、推力と発熱を抑制する。
自己センタリング性の確保
下穴不要の高精度な位置決めには、スポットドリルまたは自己センタリング性の高い先端形状を用いる。機上での振れ(TIR)低減と適正なシンニングが、入口面のバリ・歩みの抑制に有効である。
表面処理・コーティング
- TiAlN/AlTiN:高温酸化に強く、鋼・鋳鉄の高速加工で安定。
- DLC:低摩擦でアルミ合金の溶着(BUE)抑制に有効。
- ダイヤモンド:CFRPやグラファイトで長寿命。
エッジプレパレーション(微小ホーニングやK-land)は刃先の欠けを抑え、欠損と初期摩耗の立ち上がりを緩和する。ただし過大なホーニングは切削抵抗と発熱を増やすため、被削材と条件に合わせて最適化する。
加工条件と基本計算
- 主軸回転数:n = (1000×Vc)/(π×D) [n: min⁻¹, Vc: m/min, D: mm]
- 送り速度:vf = fn×n [vf: mm/min, fn: mm/rev]
- 除去率(参考):MRR = (π×D²/4)×vf [mm³/min]
実加工では被削材の強度・熱伝導率、機械剛性、クランプ条件、冷却方式で最適値が変わる。初期は推奨表から安全側で立ち上げ、切りくず形態・刃先温度の兆候・主軸負荷を観察して微調整する。
被削材別の留意点
- 炭素鋼・合金鋼:過大発熱を避けるため適正Vcと十分なクーラントを確保。高硬度材では送りを保って刃先の擦りを防ぐ。
- ステンレス鋼:加工硬化が強いため、低~中速・高めのfnでBUEを抑える。鋭利な刃先と安定給油が重要。
- 鋳鉄:砥粒性が高く摩耗主導。耐摩耗コーティングと適正ろ過のクーラントで溝面損傷を抑える。
- アルミ合金:研磨溝・広いチップポケット・DLCが有効。切りくず溶着の兆候があれば早期に条件を見直す。
- CFRP/積層材:層間剥離・ささくれ対策としてダイヤコートと裏当て、送り一定の安定切削が有効。
精度・ホールクオリティ
穴径精度・真円度・円筒度は工具振れ、剛性、治具、切りくず排出性の影響を強く受ける。一般に超硬ドリルはHSSより位置精度と直進性に優れるが、仕上げ公差が厳しい場合はリーマやボーリングとの組み合わせで品質を確保する。端面の面取りや裏面バリ対策も工程内で計画する。
保持具と振れ管理
シュリンクフィットや油圧チャックは把持剛性と振れ精度に優れる。ERコレット使用時はコレットの摩耗・締付手順・突き出し長を最小化し、TIR≦0.01 mm程度を目標に測定・補正する。工具長の最短化は曲げとびを抑える基本である。
寿命・摩耗様式と対策
- フランク摩耗(VB):Vc低減、クーラント強化、より耐摩耗コート。
- クレータ摩耗(KT):熱負荷低減、送り最適化、被膜選定。
- 刃先チッピング:fn過小の擦り回避、エッジプレパレ、剛性向上。
- マージン摩耗・溶着:潤滑改善、切りくず滞留解消、溝研磨仕上げの選定。
工具交換基準は寸法変化、粗さ悪化、負荷電流、振動のトレンドで管理し、予防交換により欠損起点の突発停止を避ける。
深穴加工とサイクル
深穴(L/D>3~5)ではピック(G73/G83)や段付き送りで切りくず排出を確実化する。内部給油の圧送と濾過管理は必須で、切りくず再切削を避けるためチップブレーカ形状と送りの整合を図る。入口・出口の面取りや当て板、貫通時の送り低減でバリと引っ張り欠けを抑制する。
工程設計と品質管理
加工順序は位置決め→下穴(必要時)→本穴→面取り・去バリ→仕上げ(必要時)の流れを基本とし、測定はピンゲージやエアマイクロ、3Dでの幾何公差確認を併用する。実ラインでは超硬ドリルの在庫番手、突き出し長、把持種別、推奨条件、寿命しきい値を標準書に明記し、段取り替え時間と不良率の低減を図る。