賦役黄冊|明代の賦役を記録管理する台帳制度

賦役黄冊

賦役黄冊は、明代の基層編制である里甲の運用を支える戸籍・賦課台帳であり、家ごとの成員・年齢・等級、田地・家産、課せられた田税と雑役(里甲差役・軍需・駅伝など)を一体で把握するために作成された記録である。洪武期に整備が進み、郷里での作成・検認を経て県衙に集約され、中央の戸部へ逐次報告された。田地の把握は土地図籍と照合され、虚報や逃散を防ぐため相互監督と連帯責任の原理が組み込まれた点に特色がある。

成立と制度的位置づけ

賦役黄冊は、里・甲・戸を階梯的に束ねる里甲の枠内で作成され、賦課・徭役・労役動員の基準原簿として機能した。郷里の名望家や実務層は里甲の長として名簿整備と割当の実務を担い、県は戸帖・地券・勘合状と突き合わせて再検し、上級へ報告する。こうした運用は、先行する相互監督の編戸制度(什伍の制)や北朝期の住民統制(三長制)の系譜を継ぎ、宋の地域編制(保甲法)で洗練された情報・責任の集約法を、明代の農村支配に最適化したものである。

記載内容と改造(更新)

  • 戸籍情報:戸主・続柄・年齢層(丁・壮・老少)と身分区分。官人家などの特例は免役・減免扱いが付記され、一般戸(官戸と対比される民戸の区分)との境界が明確化された。

  • 資産・田地:田畝面積、等級、灌漑・肥墾の状態、家産(家屋・家畜・手工器具)など、賦課基礎に直結する項目。

  • 賦課・役配当:里甲差役や軍需・工役の割当、納期・納所、過不足の記録、欠納・補納・代納の履歴。

  • 改造と異動:定期の改造(造冊)で年齢層・増減を更新し、婚姻・死亡・流移は臨時に付記した。帳簿は複数部を作成して保存・照合し、異筆・訂正痕を厳格に管理した。

運用と社会的影響

賦役黄冊は、納税と徭役を家ごと・里ごとに見える化し、割当の恣意を抑制した一方、郷里の名望層(郷紳)が名簿作成・配当の裁量を握ることで、地域の不均衡や便宜供与が生まれる余地もあった。国家は県の再検や巡按・弾劾の制度で抑止を図り、監察の伝統(唐宋の御史台に連なる系譜)を活用して帳簿管理の廉潔を維持しようとした。帳簿の整備は徴発の迅速化、里甲輪番の効率化、逃散抑止に資したが、過度の割当は逆に隠田や戸籍逃れを誘発し、再度の改造・検地・照合を要した。

他制度との関係と意義

賦役黄冊は、家産・人口・賦役を同一台帳で統合し、基層の責任連帯と中央の情報集約を結び付けた点で、中国的国家運営の核心装置である。上からの規格化と下からの相互監督を噛み合わせた構造は、戦国秦以来の編戸理念(什伍の制)から北朝・宋の住民統制(三長制保甲法)を経て洗練された到達点であり、明代の徴税・役使・軍需動員を支える情報インフラをなした。こうして里甲という地域統治の骨格と、中央の財政・軍政をつなぐ「可視化の技術」として、帝国統治の持続性を担保したのである。

語義と用例の注意

史料上の「黄冊」は広く戸籍簿を指す場合があるが、明代の賦役黄冊は賦課・役配当の基準原簿という機能に重心があり、単なる戸口統計と区別される。里甲差役や県の再検、監察機関の関与と不可分である点を踏まえ、用語の射程を読み分けることが重要である。