被覆剥離
被覆剥離とは、金属・樹脂・コンクリートなどの基材表面に形成した塗膜、めっき、陽極酸化皮膜、接着層などの被覆が、界面または近傍から分離して機能を失う現象である。外観劣化だけでなく、防食・電気絶縁・気密・機械的保護・電磁遮蔽などの性能低下を招くため、設計・製造・運用の各段階で制御対象となる。界面の付着力は、化学結合、物理吸着、機械的アンカー、分子間力の総和で規定され、膨潤や残留応力、電気化学反応により低下すると剥離に至る。
発生メカニズム
被覆剥離は、(1)界面破壊(接着界面での分離)、(2)凝集破壊(被覆内部の破断)、(3)基材破壊(基材側の欠損)に大別できる。水分・塩分の浸入は界面の低分子可塑化やイオン移動を促進し、付着力を低下させる。熱サイクルでは熱膨張係数差(CTEミスマッチ)により剪断応力が繰返し付与され、微小欠陥からクラック進展→界面剥離が起こる。電気化学的には、欠陥部でのアノード反応とアルカリ化により陰極側に「カソード剥離」が進行する。
主な原因
- 表面処理不良:脱脂不十分、酸洗・ブラスト不足、アンカープロファイル不適切、油分残渣
- 設計不整合:CTE差過大、厚膜化による内部応力、コーナーR不足、応力集中
- 環境要因:湿熱、塩霧、紫外線、温度サイクル、薬品(溶剤・酸・アルカリ)
- 電気化学:微小損傷部での腐食セル形成、陰極保護過多によるアルカリ化
- 製造変動:硬化不完全、混合比誤差、硬化収縮、プライマー選定不適
微視的欠陥の役割
ピンホール、気泡、界面汚染、残留溶剤は拡散経路となり、水分・イオンの透過を加速する。初期欠陥密度の低減が長期信頼性に直結する。
材料別の挙動
有機塗膜(エポキシ、ウレタン、フッ素)は耐薬品性と柔軟性のバランスが鍵で、吸水によるガラス転移温度低下と可塑化が剥離の起点となる。無機皮膜(陽極酸化、セラミックコート)は高硬度である一方、脆性クラックから界面破壊につながりやすい。めっき(Zn、Ni、Cr)は下地粗化と中間層管理が重要で、析出応力や水素脆化も考慮する。接着接合では表面エネルギー整合とカップリング剤(シラン)の選定が有効である。
コンクリート基材への塗膜
アルカリ環境と含水率の変動が大きく、界面含水が付着力を支配する。含水率の管理、プライマーの浸透性、下地処理(研磨・ショットブラスト)が剥離抑制に寄与する。
評価・試験法
- クロスカット試験:格子状切込み後のテープ剥離による付着等級評価(JIS、ISOに準拠)
- プルオフ試験:ダリーを接着し直引張で付着強さを定量化
- 塩水噴霧・複合サイクル:欠陥部からのアンダーカット長で剥離進展を評価
- EIS:交流インピーダンスで水分浸入と界面劣化を非破壊評価
- 熱衝撃・湿熱サイクル:CTEミスマッチと可塑化影響の加速確認
界面破壊様式の観察
破面観察(SEM、EDX)により、界面汚染(Si、油分由来C)、腐食生成物(FeO_x、Zn塩)を特定し、破壊起点と経路を推定する。
設計・対策
- 表面前処理:脱脂→粗化(Sa2.5相当)→清浄→プライマーの順守
- 材料選定:環境に応じた樹脂系・プライマー・中塗・上塗の系設計(例:海浜は厚膜エポキシ+フッ素)
- 応力低減:角部R付与、膜厚最適化、多層化で段階的弾性率配分
- 拡散遮断:低透過性樹脂、薄層金属化、封孔処理、界面シーリング
- 電気化学管理:犠牲陽極や外部電源法の電位制御、過防食の回避
メンテナンス
定期点検で白錆・膨れ・カットバック長を記録し、部分補修は端部テーパー研磨と健全部の足付けを徹底する。下地露出がある場合は防錆処理後に系統再構築を行う。
解析・モデル化
水分の拡散はFick則で近似でき、界面エネルギー低下と応力集中を考慮したハイブリッドモデルで剥離進展速度を評価する。電位勾配とpH上昇が支配的なカソード剥離では、電位−距離プロファイルとイオン拡散係数が指標となる。
関連する境界条件
屋外暴露、海水しぶき、結露、薬品飛散、高温配管、低温サイクル、直流迷走電流など、運用環境の境界条件設定が寿命予測の前提である。製造では硬化条件(温度・湿度・時間)と混合比、施工では塗付量とインターバル管理が品質を左右する。
規格・指針
付着性・耐食性評価はJIS、ISOの各規格群が参照基準となる。産業分野別には建築・土木、プラント、車両、配管・圧力容器で要求事項が異なるため、対象の要求品質(設計寿命、許容欠陥、検査頻度)を明確化し、試験方法と合否基準を運用仕様に落とし込むことが重要である。
実務上のチェックリスト
- 前処理トレーサビリティ(脱脂剤、粗化媒体、清浄度)
- 環境条件(露点差、湿度、基材温度)の記録
- 塗膜各層の膜厚・硬化・付着強さのロット管理
- エッジ・溶接止端・切欠き部の追加処理
- 運用中のポテンシャル管理と定期再評価