自動車産業|部品から完成車まで連なる巨大産業

自動車産業

自動車産業とは、乗用車・トラック・バスなどの四輪車や二輪車を開発・製造・販売する産業の総称である。完成車メーカーを頂点に、数千社規模の部品メーカーや素材メーカー、設備メーカーが連なる裾野の広い構造を持つ。1台の乗用車は約3万点の自動車部品で構成されており、鉄鋼、樹脂、ガラス、ゴム、半導体といった多様な素材産業の需要を支えている。日本では製造品出荷額の約2割をこの分野が占め、雇用や輸出の面でも国内経済の柱となっている。

流れ作業の誕生と日本メーカーの台頭

産業としての出発点は、1908年に米フォード社が発売したT型フォードにある。同社は1913年、ハイランドパーク工場に移動式組立ラインを導入し、1台あたりの組立時間を約12時間から約1時間半へ縮めた。こうした大量生産の仕組みは「フォーディズム」と呼ばれ、20世紀の製造業全体の手本となる。日本では戦後に乗用車生産が本格化し、1960年代の高度経済成長期にモータリゼーションが進んだ。1980年には国内生産台数が約1,104万台に達し、米国を抜いて世界一の生産国となる。その背景には、燃費性能に優れた小型車が石油危機後の北米市場で受け入れられたことがあった。

完成車メーカーを頂点とする階層構造

業界はピラミッド型の取引構造で成り立っている。完成車メーカーはOEMと呼ばれ、その下に一次サプライヤー(Tier1)、二次サプライヤー(Tier2)、さらに下位の加工業者が続く。上位ほどシステム単位の設計責任を負い、下位ほどプレス・切削・めっきなど単工程の加工を受け持つ傾向がある。

階層 主な担当領域 代表的な製品例
OEM(完成車メーカー) 車両企画、車体製造、最終組立、販売 完成車、ボディ
Tier1 モジュール・システムの設計と量産 シート、ブレーキ、エアバッグ、ECU
Tier2 Tier1向け構成部品の製造 モーター、樹脂成形品、ばね
Tier3以下 単工程加工、素材の一次加工 ねじ、切削部品、熱処理・めっき

取引の現場では、量産開始後も年率1〜3%程度の原価低減を求められることが珍しくない。部品メーカーにとって、受注時の見積段階で将来の値下げ分を織り込んでおけるかどうかが、利益を左右する分かれ目になる。

車体づくりの4大工程

完成車工場の工程は、大きく次の4つに分けられる。

  • プレス:鋼板をプレス加工し、ドアやルーフなどの外板パネルを成形する。加圧能力1,000トンを超える大型プレスが並ぶ。
  • 溶接:パネル同士を接合して車体骨格(ホワイトボディ)を組み上げる。スポット溶接の打点は1台あたり3,000〜5,000点にのぼる。
  • 塗装:脱脂・化成処理の後、電着塗装で防錆下地をつくり、約170℃で焼き付けてから中塗り・上塗りを重ねる。
  • 組立:エンジンや足回り、内装部品を取り付け、検査を経て出荷する。

近年は、大型アルミダイカストで車体後部を一体成形する「ギガキャスト」も注目されている。米テスラが2020年に型締力6,000トン級の設備で量産を始め、国内メーカーも導入計画を公表した。

金型投資が車種戦略を縛る

外板用の金型は1型で数千万円に達することがあり、1車種の新規立ち上げでは金型だけで数十億円規模の投資になる。そのため、モデルチェンジの周期やプラットフォーム共通化の方針は、金型償却の計画と切り離して考えることができない。

ムダを省く生産方式

日本の自動車産業が国際競争力を得た要因として、しばしばトヨタ生産方式が挙げられる。必要なものを必要なときに必要な量だけつくるジャストインタイムと、異常が起きたら機械を止める「自働化」の2本柱で構成される。部品の引き取りにはかんばん方式が用いられ、在庫の圧縮と問題の顕在化を同時に狙う。ただし在庫を極限まで減らす方式は、災害や半導体不足のような供給途絶に弱い。2021年前後の半導体不足では世界で1,000万台規模の減産が生じたとされ、各社は重要部品に限って安全在庫を持つ方向へ見直しを進めた。

動力源の多様化

長く内燃機関が主役だった動力源は、いま大きく枝分かれしている。日本では1997年に量産型のハイブリッド車が登場し、エンジンとモーターを組み合わせる技術が普及した。欧州や中国では電気自動車(BEV)の販売が伸びており、中国の新エネルギー車販売は2023年に約950万台に達している。BEVではリチウムイオン電池が車両原価の3〜4割を占めるともいわれ、部品構成も変わる。エンジン関連の切削部品や燃料系部品の需要は縮み、代わってモーター、インバーター、電池パックの比重が高まる。エンジン部品を主力とするTier2・Tier3企業にとっては、事業転換の判断を迫られる局面といえる。

統計で見る国内の規模

OICA(国際自動車工業連合会)の集計では、2023年の世界生産は約9,355万台で、首位の中国が約3,016万台を占めた。日本の国内生産は同年に約900万台で、そのうち半数近くが輸出に回る。日本自動車工業会によれば、関連産業を含めた就業人口は約550万人とされ、国内の就業者全体の約8%に相当する。製造品出荷額等は約60兆円規模に上る。地域的には愛知県を中心とする中京圏への集積が著しく、同県の製造品出荷額は40年以上にわたり全国1位を維持している。

品質と安全を支える規格

サプライヤーが取引を始めるうえで、品質マネジメント規格への適合はほぼ前提条件になっている。代表例がIATF 16949で、ISO 9001を土台に自動車業界固有の要求事項を加えた規格として2016年に発行された。電子制御の安全性については、機能安全規格のISO 26262(2011年初版、2018年第2版)が設計プロセスを規定する。国内ではJISの部門記号「D」が自動車分野に割り当てられており、用語や試験方法が体系的に定められている。認証の取得と維持には内部監査や工程FMEAの整備が欠かせず、中小規模の加工業者では専任担当者を置けるかどうかが受注拡大の壁になる場合も多い。

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