膜厚測定器
膜厚測定器は、塗膜・めっき・酸化皮膜・PVD/CVD薄膜などの厚さを非破壊で測定する計測機器である。代表的な方式は、磁気誘導法、渦電流法、超音波パルスエコー法、XRF(蛍光X線)法であり、基材(鉄・非鉄・樹脂・複合材)と被膜の電磁気的性質・音響特性に応じて使い分ける。現場では品質管理(受入・出荷検査)、工程管理(ライン内検査)、設備保全(腐食管理)に広く用いられ、ISO/JISに整合した校正によりトレーサビリティを確保することが重要である。
測定原理
方式ごとに感度の支配要因が異なる。適切な原理選定は測定の信頼性を左右する。
- 磁気誘導法:強磁性体基材(鋼など)上の非磁性被膜(塗装、Zn、Crなど)の厚みを、プローブ先端の磁束の減衰から推定する(ISO 2178)。
- 渦電流法:非磁性金属基材(Al、Cuなど)上の電気的に非導電の被膜(塗装、酸化皮膜)の厚みを、渦電流のインピーダンス変化から求める(ISO 2360)。
- 超音波法:樹脂・ガラス・金属など多様な基材で、被膜内の音速と反射エコーの往復伝播時間から厚さを算出する。多層膜や非金属基材にも適用しやすい。
- XRF法:蛍光X線の強度と元素特性から金属めっきの厚さ・多層膜の個別厚さを求める。微小部や多層金属系に強い。
対象材料と方式選定
基材と被膜の組合せで第一候補は概ね決まる。誤った方式選定は系統誤差を生むため、以下の指針を出発点とする。
- 鋼上の塗装・非磁性めっき → 磁気誘導法(高い再現性、現場向け)。
- Al/Cu上の塗装・酸化皮膜 → 渦電流法(非接触・高速)。
- 樹脂・ガラス・複合材上の塗膜 → 超音波法(音速設定と界面反射の確認が鍵)。
- 微小パッドや多層金属めっき → XRF法(元素選択性と多層解析)。
校正とトレーサビリティ
膜厚測定器の指示値を信頼するために、ゼロ板(無被覆基材)と校正箔(シムフォイル)を用いた一・二点校正を実施する。校正箔は公称厚さの不確かさが明示された標準器を用い、国家計量標準(JCSSなど)にトレーサブルであることが望ましい。方式別には、磁気・渦電流法でゼロ調整とスパン調整、超音波法で音速の最適化とゲイン調整、XRF法で標準試料による感度係数の更新を行う。日常点検は作業前後の確認、定期校正は外部校正機関で年1回程度を目安に計画する。
測定不確かさと誤差要因
単一測定値に依存せず、繰返し測定と統計処理でばらつきを把握する。不確かさの主要因は次の通りである。
- 表面粗さ:粗い面では空隙の影響で過大・過小が生じやすい。
- 曲率・エッジ:小径円柱や端部は磁束・電流線が乱れ指示が偏る。
- 基材特性:透磁率・導電率のばらつき、熱処理・組成差が影響。
- 温度・ドリフト:プローブ温度と電子回路のゼロドリフト。
- プローブ姿勢・圧力:接触角度や押し当て力の再現性。
- 音速設定(超音波):材料ごとの音速テーブルの妥当性。
粗さと曲率の影響
Raの大きい面では複数点の平均化と粗さ等級に合わせた校正箔の選択が有効である。小径シャフトはV字スリット付きプローブや小スポットプローブを選ぶ。エッジは原理的に誤差が大きいため、端部から一定距離を離して測定点を設定する。
機器構成と仕様
携帯型はプローブ(着脱式/内蔵式)、計測本体、表示・記録部から成る。プローブは単磁極・二磁極、渦電流用の高周波コイル、超音波用の接触/非接触探触子などを備える。性能指標には、測定範囲(例:0~2 mm)、分解能(例:0.1 μm)、基本精度(±1~3%rdg)、繰返し精度、最小測定面積、最小曲率半径、使用温度範囲がある。データはBluetoothやUSBで収集し、SPCに接続して傾向管理(X̄-R管理図など)に用いる。
測定手順とデータ管理
現場での標準的フローは以下の通りである。
- 試料準備:油分・粉塵を除去し、測定点をマーキングする。
- 日常点検:ゼロ板・校正箔で指示の確認と簡易校正。
- 測定:各点で3~5回接触し、最大外れ値を除いた平均を採用。
- 統計処理:n点の平均値、標準偏差、Cp/Cpkを計算し合否判定。
- 記録:ロット・ライン・条件・オペレータを紐付けて保存。
応用分野と事例
自動車では鋼板上の塗装膜厚均一性をライン内で確認し、過塗り・ムラを低減する。めっきラインではZn、Ni、Cr、Snなどの膜厚を工程ごとに管理し、防錆寿命とコストの最適化を図る。アルミのアルマイト皮膜や樹脂コーティングは渦電流・超音波が有効である。プリント配線板では銅・Ni/Auめっきの微小パッドをXRFで面内マッピングし、半導体製造装置や医療機器では多層薄膜の各層厚みを追跡する。
規格と用語
塗膜厚さはISO 2808(試験方法)を中心に整理され、鋼上の非磁性被覆はISO 2178(磁気)、非磁性金属上の非導電被覆はISO 2360(渦電流)が代表的である。JISではJIS K 5600(塗料一般試験)、めっき関連のJIS H系規格に測定法が示されることが多い。実務では「ゼロ板」「校正箔」「二点校正」「最小曲率半径」「最小測定面積」「測定不確かさ」などの用語を正しく運用し、仕様書・検査成績書に測定原理と校正条件を明記することが望ましい。
以上のように、対象系に適合した原理選定、規格に沿った校正、ばらつき要因の管理、そしてデータの統計的評価を一体化することで、膜厚測定器は設計品質と工程能力を結び付ける信頼性の高い計測基盤となる。