線路保護|故障検出・区間特定・選択遮断

線路保護

線路保護とは、送電線に生じる短絡・地絡・高抵抗故障・機器誤操作などの異常を、選択的かつ高速に検出し、遮断器を適切に動作させて系統の健全部分を維持するための保護リレーシステムである。保護の基本原理は「選択性」「高速性」「感度」「信頼性(セキュリティ)」の両立であり、区間(ゾーン)を明確化し、隣接設備の保護との協調を取ることで、停電範囲と電力品質への影響を最小化する。近年はデジタルリレー化により、故障判定アルゴリズムの高度化、時刻同期によるエンドツーエンド協調、イベント解析の高度化が進む。

保護の目的と設計指標

線路保護の目的は、事故除去時間を短縮し系統安定度と設備健全性を守ることである。設計指標として、(1)選択性:対象区間のみを確実に遮断、(2)高速性:初期過渡中に断を入れ機械・電磁的損傷を抑制、(3)感度:高インピーダンス故障や単相地絡にも確実に応答、(4)信頼性・セキュリティ:負荷電流・潮流反転・電力動揺・CVT過渡に対する誤動作抑制、(5)冗長性:通信二重化・二重系リレーによる可用性確保、が重要である。さらに系統構成変化(ループ/放射)や再閉路の要否、保守性・設定管理性も評価する。

代表的な保護方式

  • 方向過電流保護(67):位相比較により故障電流の向きを判定し、放射状配電や単純な送電線のバックアップに有効である。整定は段階協調と時限選択が中心である。

  • 距離継電器(21):母線側から見た見掛インピーダンスを用いて故障点距離を推定する。Zone1(即時、約80–85%及びマージン)、Zone2(遅延、隣接線路へオーバーリーチ)、Zone3(広域バックアップ)の多段整定を行う。特性はMhoやQuadrilateralが一般的で、負荷侵入・電力動揺対策が要点である。距離継電器

  • 電流差動保護(87L):両端電流のベクトル和を用い、区間内故障のみ動作する主保護である。光ファイバ等の通信で同期を取り高速・高選択的に遮断できる。高インピーダンス地絡にも強い。差動保護

  • パイロット保護:距離継電器と通信を組み合わせ、POTT(Permissive Overreaching Transfer Trip)、DUTT(Direct Underreaching Transfer Trip)、ブロッキング方式などでエンドツーエンドの選択性を高める。

  • 地絡検出:零相電流3I0・零相電圧3V0や方向要素で単相地絡を選択検出する。高抵抗接地系や高インピーダンス故障(HIF)では感度強化や高調波成分利用が検討される。地絡

  • 補助要素:過電圧・不足電圧、周波数・不足周波、逆電力、同期判定などを系統条件に応じて併用する。周波数リレー逆電力リレー

ゾーン設定と協調

距離保護ではZone1を即時動作(典型的に線路長の80–85%)に設定し、Zone2は隣接線路へ120–150%程度オーバーリーチさせて時限(例0.3–0.5 s)で動作させる。Zone3は広域バックアップとしてさらなる時限を付与する。ループ系統では送電端・受電端の相互影響や源インピーダンスの変動を考慮し、負荷侵入(Load Encroachment)判定、電力動揺検出・PSB(Power Swing Blocking)、必要に応じてOST(Out-of-Step Tripping)を採用する。保護協調は母線・遮断器・変圧器・隣接線路との動作順位を整理し、再閉路の時定数と同調させる。

通信方式と時刻同期

エンドツーエンド系ではPLC(電力線搬送)、無線・マイクロ波、光ファイバ(OPGW含む)を用いる。プロトコルはIEC 60834、IEC 61850、MPLS-TPなどが使われ、遅延・ジッタ・可用性を監視する。87Lやパイロット方式ではGPS・IEEE 1588(PTP)等で時刻同期を行い、フレーム整合とバイアス補正で誤差を管理する。通信は二重経路・自動切替で冗長化し、リンク断時のフェイルセーフ動作を設計に織り込む。

計測・アルゴリズムと実装注意

デジタルリレーはサンプリング・A/D・アンチエイリアシング・DFT/PLLで基本量を推定し、保護要素へ供給する。CT飽和やCVT過渡、直流分減衰、非整数倍高調波の影響を受けるため、プリフィルタや適応アルゴリズムでロバスト性を確保する。見掛インピーダンス推定では相電圧・相電流の位相精度が重要で、PT比・CT比・極性設定ミスは致命的である。高抵抗故障検出や単相再閉路判定には零相成分・高調波指標・過渡特性(Traveling Wave)を補助的に利用する。

試験・保守・記録

保護は設置後の検証が極めて重要である。二次注入試験で要素・論理を検証し、エンドツーエンド試験で通信連動と全体時限を確認する。系統停止を要する一次注入は計画的に実施し、再閉路・同期条件を含めたシーケンス試験を行う。運用中はイベントレコーダ・故障波形(COMTRADE)解析で事後検証を実施し、設定管理・変更管理を厳格化する。保護誤動作や不必要遮断は系統全体の信頼度を損なうため、レビュー会議・リレー設定台帳の維持が欠かせない。

関連設備・系統との関係

線路保護は発電端・受電端・中間の機器と密接に結び付く。発電機の動揺特性やAVR/ガバナ動作、発電機保護との連携、母線差動や母線遮断器の選択遮断、逆潮流や系統連系規程への適合など、網羅的な整合が必要である。短絡容量や等価インピーダンス、保護協調表の維持は、平常時の潮流計画と同様に運用上の基盤となる。