絶縁ブッシュ
絶縁ブッシュは、筐体やパネルの貫通孔に電線・ボルト・導体などを通す際、鋭縁による損傷を防ぎつつ電気的絶縁と沿面距離の確保を行う部品である。一般にナイロン、PBT、ポリカーボネートなどの熱可塑性樹脂、エポキシ系熱硬化樹脂、ゴム(EPDM)やセラミックスが用いられ、機械的保護(摩耗・振動・引張緩和)と電気的保護(耐電圧・トラッキング耐性)を兼ねる。難燃性(UL94 V-0 等級)、環境耐性(耐熱・耐薬品・耐候)、防塵防水(IP 等級)などの要求に応じ、形状はスナップイン、ねじ込み、圧入、割裂(スリット入り)など多様化している。
構造と材料特性
絶縁ブッシュは、内径(貫通物の外径に適合)、外径(孔・パネル厚みと嵌合)、フランジ形状(抜け止め・沿面距離拡張)を基本要素とする。材料特性としては、体積抵抗率、誘電正接、絶縁耐力、熱変形温度(HDT)、吸水率、クリープ抵抗(CTI)といった電気・熱・吸湿特性が重要である。ナイロンは機械強度と成形性に優れるが吸水に留意し、PBTは寸法安定性と耐薬品性に強い。エポキシやセラミックは高温・高電圧での耐トラッキング性に優れる一方、脆性を考慮した応力設計が必要である。
電気設計上の留意点
定格電圧に対して十分な空間距離・沿面距離を確保することが要件であり、污染度・過電圧カテゴリを考慮して選定する(例:IEC 60664-1 の指針)。フランジや傘形状の採用は沿面距離を増し、湿潤環境でのトラッキングを抑制する。エッジは面取り(R 付け)して電界集中と被覆損傷を回避し、絶縁破壊の起点となるバリや鋭角を残さない。電磁ノイズやサージの観点では、金属筐体との不要な接触を避けるとともに、ケーブルシールドの終端位置とブッシュの絶縁機能の両立を図る。
機械設計と取付方法
スナップイン型は工具レスで組付けが速い反面、パネル厚公差の影響を受けやすい。ねじ込み型は座面圧とトルク管理により確実な固定が可能で、振動環境や引張荷重が加わる用途に適する。圧入型は孔精度と干渉量が品質を左右する。割裂型は後付け配線に有利であるが、切り欠き部からのトラッキング経路に配慮し、必要に応じてシール材や防水ワッシャと組み合わせる。配線の最小曲げ半径を確保し、ケーブル外被がフランジ縁で擦過しないよう導入方向と逃げを設計する。
規格・認証と信頼性試験
絶縁ブッシュに求められる代表的要件には、難燃性(UL94 V-0/V-2)、防塵防水(IEC 60529 に基づく IP 等級)、有害物質規制(RoHS)、化学物質管理(REACH)がある。信頼性評価では、耐電圧・絶縁抵抗、温度サイクル、耐湿熱、紫外線曝露、振動・衝撃、塩水噴霧などを採用し、劣化によるクラック・変色・トラッキングの兆候を確認する。屋外用途では、樹脂の耐候グレード選定や黒色カーボンブラック系の耐 UV 化が有効である。
代表的な用途
制御盤・配電盤・計測器筐体・モータ端子箱・産業用ロボットの可動配線導入部などに広く使われる。低圧配線の保護が主用途だが、送配電分野には高電圧用の「ブッシング(磁器・エポキシ・コンデンサブッシング)」があり、外装の傘形状で沿面距離を稼ぎ部分放電を抑制する。低圧用の絶縁ブッシュと高圧用ブッシングは設計思想や材料が大きく異なるため、用途境界を明確に区分して選定することが重要である。
選定手順
- 貫通対象(ケーブル・ボルト等)の外径を測定し、適正な内径と挿入余裕を決定する。
- パネル孔径・厚さ・材質の公差域を確認し、スナップイン/ねじ/圧入など適切な固定方式を選ぶ。
- 定格電圧・環境(温湿度、粉塵、油ミスト、薬品、屋外/屋内)を定義し、必要な空間/沿面距離と IP 等級を設定する。
- 材料の難燃性(UL94)、CTI、HDT、吸水率を比較し、長期寸法安定性と耐トラッキング性を確保する。
- 組立工法(前挿し・後挿し)、保守性、量産時の供給性(代替型番の確保)を考慮する。
グロメットとの違い
グロメットは軟質ゴムでエッジ保護・振動吸収を主目的とするのに対し、絶縁ブッシュは剛性のある樹脂やセラミックで機械的ガイドと沿面距離の確保を重視する。防水性や引張固定を求める場合はケーブルグランドを併用し、役割分担(絶縁・シール・ストレインリリーフ)を明確にすることが好ましい。
よくある不具合と対策
- クラック:過大締付けや低温脆化が要因。トルク管理と材料温度範囲の遵守で予防する。
- トラッキング:湿潤・粉塵環境で沿面距離不足が誘因。フランジ形状の見直しとCTIの高い材への変更が有効。
- ケーブル擦傷:孔エッジやバリ、曲げ半径不足が原因。R 付け、面取り、配線取り回し改善で対処する。
- 緩み:振動による座面摩耗。座金・ねじロックやねじ込み型への変更で対策する。
設計チェックリスト
絶縁ブッシュの最終承認前に、図面の寸法鎖(内径・外径・フランジ厚・嵌合長)、公差クラス、パネル級差、想定ケーブル外径のばらつき、組立順序、保全アクセス、使用温度範囲、IP 等級、UL/IEC 表示、リサイクル性やRoHS適合証跡(CoC)を点検する。評価サンプルでは、耐電圧試験、ねじれ・引張試験、温度サイクル後の再測定を実施し、量産ばらつきに対する余裕度を確認することが望ましい。