経営学|組織運営の理論と実践を探る学問

経営学

経営学は、企業をはじめとする組織が目的を定め、人・モノ・カネ・情報といった資源を配分して成果を上げる仕組みを研究する社会科学の一分野である。英語ではbusiness administrationやmanagementと呼ばれ、戦略、組織、マーケティング、財務、生産などの領域を横断的に扱う。理論の源流は19世紀末から20世紀初頭の工場管理にあり、製造業の発展と深く結びついている。研究対象は営利企業に限らない。病院、行政機関、NPOの運営にも応用されている。

誕生の背景:工場の能率問題から

1880年代のアメリカでは、大規模になった工場で労働者が意図的に作業ペースを落とす「組織的怠業」が深刻な問題となっていた。技師フレデリック・テイラーはミッドベール製鋼所での作業研究をもとに、作業を要素動作に分解してストップウォッチで時間を測り、1日の標準作業量を定める手法を確立した。1911年刊行の『科学的管理法の原理』はその集大成である。この手法は科学的管理法と呼ばれ、各国の工場に広がった。同時代のフォード社は1913年に移動式組立ラインを導入し、T型フォード1台あたりの組立時間を約12.5時間から約1.5時間へ短縮したといわれる。大量生産を可能にしたのは機械そのものより、作業の分割と流れの設計であった。

ヨーロッパにおける二つの流れ

フランスのアンリ・ファヨールは1916年に『産業ならびに一般の管理』を著し、管理活動を計画・組織・命令・調整・統制の5要素に整理した。テイラーが現場の作業に着目したのに対し、ファヨールは経営者層の仕事を体系化した点に違いがある。ドイツでは商科大学を拠点に経営経済学(Betriebswirtschaftslehre)が発達し、簿記や原価計算を土台とする会計中心の学風を築いた。

主要理論の系譜

20世紀を通じて、関心の中心は「作業の能率」から「人間の動機」、そして「組織と戦略の関係」へと移っていった。ウエスタン・エレクトリック社のホーソン工場で行われた一連の実験では、照明の明るさといった物理的条件よりも職場の人間関係が生産性に影響することが示され、それまでの前提を大きく揺さぶった。代表的な理論と著作を年代順に並べると次のようになる。

年代 人物 主な著作・研究 要点
1911年 F・テイラー 『科学的管理法の原理』 作業の標準化、差別出来高給制
1916年 H・ファヨール 『産業ならびに一般の管理』 管理過程論、14の管理原則
1924〜1932年 E・メイヨーら ホーソン実験 人間関係論、非公式組織の発見
1938年 C・バーナード 『経営者の役割』 共通目的・貢献意欲・コミュニケーションの3要素
1962年 A・チャンドラー 『組織は戦略に従う』 事業部制組織の成立過程
1980年 M・ポーター 『競争の戦略』 ファイブフォース分析、3つの基本戦略

経済学・商学との違い

企業を扱う学問は他にもある。経済学では、企業は利潤を最大化する一つの主体として抽象化されることが多い。経営学はその内部に踏み込み、意思決定の手続き、部門間の調整、従業員の動機づけといった具体的な仕組みを研究する。ハーバート・サイモンが1947年の『経営行動』で提示した「限定合理性」は、人間が完全に合理的な判断を下せないことを前提とする概念で、両分野の橋渡し役を果たした。日本の大学では、商学部が流通・取引・会計学を、経営学部が組織と管理を中心に扱う傾向がある。ただし実際の講義科目はかなり重なっており、境界は緩やかである。

主な研究領域

現在の研究領域は細分化が進んでおり、大学のカリキュラムでは概ね以下のような科目群に分けられる。

  • 経営戦略論:事業領域の選択、競争優位の源泉、M&A
  • 経営組織論:組織構造、リーダーシップ、組織文化
  • 人的資源管理論:採用、人事評価、報酬制度、人材育成
  • マーケティング論:市場調査、製品開発、価格設定、流通チャネル
  • 生産管理論:工程計画、在庫管理、品質保証
  • 経営財務論:資金調達、投資評価、企業価値の算定

製造業の現場から見た経営学

教科書の理論が最も直接的に試されるのは工場である。受注生産型の金属加工会社を例にとると、見積の基礎となるチャージ(1時間あたりの加工費)は、設備の減価償却費、人件費、電力費などを積み上げて算出する。このとき年間稼働率を80%と見込むか60%と見込むかで、時間単価はおよそ3割変わってしまう。管理会計の考え方を持たずに「業界の相場」で価格を決めた結果、繁忙期ほど赤字が膨らむケースは中小企業で珍しくない。設備投資の判断でも、正味現在価値(NPV)法や回収期間法といった財務論の手法が使われる。現場では、5,000万円のマシニングセンタを導入する際に「何年で元が取れるか」を社内基準と照らし合わせるのが一般的で、理論より単純な回収期間法が好まれる傾向が強い。

日本発の生産システムと品質経営

戦後の日本は、統計的品質管理の導入を通じて独自の貢献を果たした。1950年にW・エドワーズ・デミングが来日して講演を行い、翌1951年にはデミング賞が創設されている。現場の小集団活動を軸とするTQCや、ジャスト・イン・タイムと自働化を柱とするトヨタ生産方式は、1990年にMITの研究グループが出版した書籍によって「リーン生産」と名づけられ、欧米企業へ広まった。品質管理の考え方は国際規格にも反映され、1987年にISO 9001の初版が制定された。日本ではこれに対応するJIS Q 9001が用いられている。

日本における受容と展開

戦前の日本では、上田貞次郎や平井泰太郎らがドイツの経営経済学を紹介し、1926年に日本経営学会が設立された。戦後になるとアメリカ流の管理論が主流となり、ピーター・ドラッカーの『現代の経営』(1954年)は多くの経営者に読まれた。1958年にジェームズ・アベグレンが指摘した終身雇用・年功序列・企業別労働組合は、1980年代に「日本的経営」として国際的な研究対象になった。社会人が経営学を体系的に学ぶ場も広がっている。大学院のMBAプログラムのほか、国家資格である中小企業診断士の1次試験では、企業経営理論や運営管理を含む7科目が課される。工場長や生産技術者がこの資格を取得し、現場改善と経営判断を結びつける役割を担う例も増えている。

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