研摩
研摩は、砥粒・工具・スラリーなどを用いて微小な除去または塑性流動を引き起こし、表面粗さ・形状精度・光沢・清浄度を高める仕上げ加工である。切削や研削で残った加工痕やバリ、微小クラック、酸化皮膜を整え、機械要素や金型、配管、光学部品、半導体ウェハなどの機能信頼性を向上させる。一般にRaを指標とし、粗仕上げから鏡面に至るまで段階的に条件を最適化する。図面ではJISの表面性状記号で要求品質を指示し、工程内検査と最終検査で一致させる設計・製造連携が重要である。
定義と語義
研摩の「摩」は摩擦・擦り合わせの意であり、摩擦作用を伴う仕上げ全般を含意する。一方、工業文献では「研磨」も広く用いられ、実務上は同義として扱われる場合が多い。本稿では便宜上研摩の語を用い、除去型(微小切削・擦過)と塑性型(バニシング的平滑化)、化学・電気化学の援用(電解・CMP)を包含する概念として説明する。
加工原理とメカニズム
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微小切削:砥粒エッジが不規則に接触し、ピークを除去してRa/Rzを低減する。荷重・滑り速度・粒度・パッド硬さの組合せで切込み統計が決まる。
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塑性平滑化:圧延・転造に近い局所的塑性流動で谷部を埋め、うねり低減に寄与する。過大荷重は加工硬化や残留引張応力を招く。
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化学・電気化学:化学的軟化層を形成して除去しやすくする(CMP)またはアノード溶解でミクロピークを優先的に平滑化する(電解)。
代表的な方法
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バフ研摩:繊維バフと研磨剤で曲面・自由曲面の光沢を得る。装飾品や金型の最終仕上げに適する。
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ラッピング/ポリッシング:平面定盤と砥粒スラリーで高い平面度を得る。光学・シール面に有効。
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電解研摩:アノード溶解で微細凹凸を平滑化し、脱バリと清浄化を同時達成。医療機器・食品配管の衛生面に利点。
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CMP(化学機械研摩):化学反応と機械作用の両立でナノレベルの平坦化。半導体配線層で必須。
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磁気・流体援用研摩:磁性流体や粘弾性媒体で難到達部位を均一仕上げ。インペラ内面や微細孔に適用例がある。
砥粒・工具と条件設定
研摩では、砥粒種(Al₂O₃、SiC、ダイヤモンド、CBN)、粒度(#400〜#8000相当)、結合・媒体(不織布、フェルト、スラリー)、工具剛性、パッド硬度、荷重・速度・相対滑り、供給量・粘度・温度が相互に影響する。鋼に対するアルミナ、超硬・セラミックスに対するダイヤモンドのように、被削材と化学的安定性・硬度差を考慮して選定する。条件最適化は「粗→中→仕上げ」の段階研摩で行い、各段階でスクラッチサイズを十分に下げてから次工程へ送る。
表面性状と評価
評価はRa、Rz、Rt、Rqなどの幾何学的パラメータのほか、うねり、表面欠陥、残留応力、表面自由エネルギー(濡れ性)を含む。接触式プロフィロメータは実務性に優れ、白色干渉・共焦点・AFMはナノ領域の把握に有効である。サンプリング長さ・フィルタ(カットオフ)の規定に従い、要求機能に一致する指標で合否判定を行う。電解研摩やCMPでは化学膜の影響を考慮し、洗浄後の再酸化や汚染まで含めて評価する。
材料別の留意点
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炭素鋼・合金鋼:過熱で「焼け」や復炭を招くため、冷却と荷重管理を徹底。マルテンサイトの微小割れに注意。
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ステンレス:電解研摩で光沢と清浄度を両立。バフでは鉄粉付着やすきま腐食の起点を避ける洗浄が肝要。
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アルミ合金:軟質で目詰まりしやすい。ワックス系や脂肪酸添加で切れ味維持。
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銅・Ni:酸化皮膜管理が重要。CMPの酸化剤・防食剤バランスで均一性を確保。
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セラミックス・ガラス:ぜい性破壊の抑制に微細ダイヤと低荷重。水準化に超音波援用研摩が有効。
工程設計のポイント
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前加工の粗さ・うねり・形状誤差を見積り、除去量マージンと段階研摩のステップ数を決める。
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端部・穴縁・リブ周りの相対圧上昇を見越した治具・マスキング設計で均一接触を確保。
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スラリー循環は濃度・温度・清浄度を維持。ろ過で大型砥粒混入や脱落片の二次スクラッチを防止。
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洗浄・乾燥・防錆を直結し、再汚染を遮断。清浄度は表面エネルギー試験や接触角でモニタ。
不良モードと対策
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スクラッチ:粒度過大・異物混入。濾過強化、パッド更新、荷重低減。
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オレンジピール:塑性支配の過剰。パッド硬度や相対速度の見直し。
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ピット・局所腐食:電解研摩の電流分布不均一。電極形状・撹拌・マスキングで平準化。
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変色・酸化:温度・薬液管理不足。リンス・中和・乾燥を即時化。
安全・環境とコンプライアンス
研摩では粉じん・ミスト・薬液・騒音・振動が伴う。局所排気と捕集、飛散防止カバー、耐薬手袋・保護眼鏡・呼吸用保護具を標準化する。電解・CMPの薬剤はSDSに基づき保管し、中和・凝集・ろ過を経て適正処理する。スラリー再生・砥粒回収で廃棄量を削減し、LCA観点でエネルギー・薬剤原単位をモニタする。設備更新時は騒音・振動・電気安全の関連規格と事業所の環境基準に適合させる。
関連規格・図面指示の要点
表面性状はJISの定義・表示方法に従い、RaやRzの数値、カットオフ、評価長さ、方向性、加工の可否を図面に明示する。工程仕様書には測定器種別と校正、サンプル頻度、判定基準、工程能力指数を記載し、設計要求と検査成績をトレーサブルに結び付ける。電解研摩やCMPのように化学反応を伴う場合は薬液組成・温度・電流密度・攪拌条件の管理幅を定義してばらつきを抑制する。