炭素工具鋼鋼材
炭素工具鋼鋼材は、切削工具や打ち抜き型、刃物、測定工具など多様な工具用途に使用される炭素鋼である。JIS規格ではJIS G 4401に分類され、SK(“Steel Kohgu”)シリーズとしてSK1、SK2、SK3、SK4、SK5などの等級が定められている。これらは炭素含有量が高く、焼入れ処理を行うことで高い硬度と耐摩耗性を得られる点が最大の特徴である。一方で靱性や衝撃強度は低下しやすく、ひび割れ対策や焼入れ応力の管理が重要になる。機械加工や研削、焼入れ・焼戻しなどの適切な処理条件を選定することにより、用途に合った特性を最大限に引き出すことができる。
化学成分と特性
炭素工具鋼鋼材では炭素含有量が0.6~1.4%程度と高く、マンガン、ケイ素などの添加量も規格により厳密に規定されている。炭素量が増えるほど硬度や耐摩耗性が向上する一方、靱性が低下するため、材料選定時には切削抵抗や衝撃負荷の大きさを考慮する必要がある。SK1やSK2は特に高硬度を求められる刃先に向き、SK5などはある程度の粘り強さを必要とする状況で使われるなど、炭素量や焼入れ特性に応じて用途が分かれている。
(代表:中村)
KL-16用の開きチャックという製品固定用治具を製作。
SK材(炭素工具鋼鋼材)を切削加工にて。
(後で焼き入れもできる様に)先端の形状を製品に合わせて仕上げるので現在はブランク品。 pic.twitter.com/UudKLCOUJv
— 【-HATA-】Official (@HATA_official_) February 3, 2023
焼入れと焼戻し
強度と硬度を高めるために行われる焼入れは、炭素工具鋼鋼材の性質を最大限に引き出す上で欠かせない工程である。高温で加熱してオーステナイト相を形成し、急冷することでマルテンサイト組織を得る。その後、所定の温度で焼戻しを行うことで、過度に脆化した組織を安定化させ、粘り強さと硬度のバランスを調整する。冷却速度や焼戻し温度の選択次第で機械的特性が大きく変化するため、用途に応じた最適な条件を試験片などで確認することが望ましい。
こんな感じで溝掃除します。使わなくなった(目がつぶれた)ヤスリを削って、ガスコンロであぶってピンクから白色になったら曲げて油で焼き入れしたあと、砥石で研磨して整えます。SK材(炭素工具鋼)なので焼きはすぐに入りますがカーボン多いと割れる可能性もあるので油で焼き入れします。 pic.twitter.com/YLL8qZ7C1N
— 矢田 宏樹 (@yada_ynfp) February 11, 2023
代表的な種類
- SK1・SK2:炭素含有量が高く、焼入れにより極めて高い硬度を得られるが、衝撃に対しては脆さが増すため慎重な熱処理と使用条件の検討が必要。
- SK4・SK5:炭素量がやや低めで、一定の強度と靱性を両立しやすく、汎用性が高い。量産工具や手工具など幅広い分野で利用される。
用途と実例
切削工具や打ち抜き型、ハンドツールなど、高硬度と耐摩耗性を最重視する場面で炭素工具鋼鋼材が活躍する。具体的には、彫刻刀やノコギリ、包丁などの刃物、プレス加工のパンチ・ダイ、ゲージなどの測定工具が挙げられる。特にSK1やSK2は刃先の切れ味と高い耐摩耗性が求められる用途で重宝され、SK5は適度な柔軟性を伴うツールに向いている。このように、用途ごとに最適化された材料選定と適切な熱処理が不可欠である。
機械加工と研削
焼入れ前の炭素工具鋼鋼材は比較的被削性が良いが、焼入れ後は極めて硬度が高くなり、通常の切削では加工が難しくなる。そこで放電加工や研削加工が主に用いられ、高精度な仕上げや複雑形状の成形に対応している。加えて、近年は硬さと靱性を同時に満たす粉末冶金法の登場により、さらに高性能な工具鋼が開発されているものの、扱いやすくコスト面でも優れる炭素工具鋼の需要は依然として根強い。
SK材(炭素工具鋼鋼材)で針をつくろうと削ったが、硬すぎて途中で断念。
以前、0.3mm厚くらいの部品を切り出したときは問題無かったが、さすがに1mm厚はキツイ。
焼き入れの自信が無いので、焼きなましはしていない。
次はステンレスでつくる。 pic.twitter.com/9FI2GmHJ2p— Daisuke Oguri (@ogdai002) August 27, 2021
劣化と保護対策
高い硬度を保つ一方で、炭素工具鋼鋼材は錆びやすい性質も持つため、防錆油や表面処理による保護が推奨される。特に湿度の高い環境や酸・アルカリ雰囲気に置かれる場合は注意が必要で、保管時にはシリカゲルなどの乾燥剤を併用したり、防湿包装を施すことで表面劣化を防止できる。また、使用後の刃物や工具は付着物を除去し、オイルで拭き上げるなどのメンテナンスを徹底することで寿命を延ばすことが可能になる。
課題と展望
厳しい作業環境での適用例が多い炭素工具鋼鋼材は、衝撃荷重や過熱などにより破損や寸法変化を起こすリスクがつきまとう。これらを克服するため、焼入れ工程での歪み制御や深冷処理などの改良手法が研究・導入されている。さらに、炭素工具鋼をベースとしながら、微量元素の添加や表面硬化処理(窒化処理やCVDコーティングなど)を組み合わせることで、高い耐摩耗性と靱性を両立しようという試みも盛んである。今後も先端加工技術との連携が進み、多様なニーズに対応したカスタマイズが期待される。