潮解性|湿気を吸い自ら溶け出す固体の性質

潮解性

潮解性とは、固体が空気中の水蒸気を吸収し、その水に自ら溶けて水溶液となる性質をいう。代表例は塩化カルシウムや水酸化ナトリウムである。梅雨時に試薬瓶を開けると粒同士が固まっていたり、袋の底に液がたまっていたりするのは、この性質による。水分を表面に付着させるだけの吸湿性とは区別され、最終的に固体の形を失う点に特徴がある。英語ではdeliquescenceと呼ばれ、ラテン語の「溶けて流れ去る」を語源とする。

固体が勝手に溶けていく理由

現象を決めるのは、その物質の飽和水溶液が示す水の蒸気圧である。溶質を含む水溶液の水蒸気圧は、純水よりも低い。周囲の空気の水蒸気分圧がこの値を上回ると、水蒸気は固体の表面で凝縮し続け、できた薄い水膜に固体が溶け込む。溶けた分だけ溶液が増え、溶液がさらに水を引き寄せるため、条件が変わらない限り固体がなくなるまで進行する。潮解が始まる境目の湿度は臨界相対湿度(CRH)または潮解相対湿度(DRH)と呼ばれ、物質ごとにほぼ固有の値をとる。

臨界相対湿度の式

温度Tにおける臨界相対湿度は、飽和水溶液の水蒸気圧 ps と純水の飽和蒸気圧 p0 を用いて、CRH = (ps / p0) × 100 [%] と表す。空気の相対湿度がこの値より高ければ潮解が進み、低ければ溶液は水を放出して再び結晶に戻る。

物質ごとの臨界相対湿度

値が小さい物質ほど、乾いた空気の中でも溶けやすい。下表は25℃付近における飽和塩溶液の平衡相対湿度の目安である。1977年にL. Greenspanが整理したデータは、飽和塩法による湿度計校正の基礎資料として現在も使われており、国内の湿度計試験を定めたJIS B 7920でもこの方法が採用されている。

物質 化学式 CRH(25℃, %) 備考
塩化リチウム LiCl 約11 除湿機の吸収液に使われる
塩化カルシウム CaCl2・6H2O 約29 家庭用除湿剤・融雪剤
塩化マグネシウム MgCl2・6H2O 約33 にがりの主成分
炭酸カリウム K2CO3 約43 ガラス原料
硝酸アンモニウム NH4NO3 約62 窒素肥料
塩化ナトリウム NaCl 約75 精製塩は通常の室内では潮解しにくい
塩化カリウム KCl 約84 カリ肥料

吸湿性・風解と混同しやすい点

似た言葉に吸湿性と風解がある。シリカゲルは大量の水を吸着するが、溶けて液体になることはないため、吸湿性はあっても潮解性はない。風解はこれとほぼ逆の現象で、炭酸ナトリウム十水和物(Na2CO3・10H2O)のように結晶水を空気中へ放出し、表面が白い粉に崩れていく。どちらが起こるかは、その水和物の水蒸気圧が周囲の水蒸気分圧より高いか低いかで決まる。同じ物質でも、乾燥した冬の倉庫では風解し、梅雨の倉庫では潮解するということが実際に起こりうる。

温度と混合で変わる溶けやすさ

臨界相対湿度は温度で変わる。塩化ナトリウムは0〜50℃の範囲でほぼ75%前後とあまり動かない。ところが硝酸アンモニウムは、20℃で約67%、30℃で約59%、40℃で約53%と、温度が上がるほど大きく下がる。夏場に肥料袋の中身が固まりやすいのはこのためである。2種類以上の塩を混ぜると、混合物のCRHはそれぞれ単独の値より低くなることが多い。尿素と硝酸アンモニウムの混合物では30℃で約18%まで下がることが知られており、配合肥料の設計では成分の組み合わせ自体が保管性を左右する。

あえて潮解性を利用する技術

水を集める力は、裏を返せば利点にもなる。押し入れ用の除湿剤は塩化カルシウムが水を吸って液化する性質をそのまま使ったもので、容器の下部に溶液がたまる構造になっている。道路に散布する融雪剤としても塩化カルシウムは優秀で、溶解時に発熱するうえ、水溶液の共晶点は約−50℃と低い。未舗装路の防塵剤に使われるのも、路面の水分を保持して砂ぼこりを抑えられるからである。空調分野では塩化リチウムや臭化リチウムの水溶液が液式除湿機や吸収式冷凍機の吸収液となっている。ただし、これらは用途がはっきりした場面での話であり、一般的な乾燥剤として製品に同梱するには液漏れの危険があるため向かない。

製造現場での保管と取り扱い

工場で問題になるのは、液化よりも手前の「固結」であることが多い。水酸化ナトリウムのフレークや塩化カルシウムの粒は25kg袋で納入されるのが一般的で、開封後に口を折っただけで放置すると、数日で塊になって定量フィーダーが詰まる。水酸化ナトリウムは水と同時に二酸化炭素も吸い、炭酸ナトリウムに変わって純度が落ちる点も見落とされやすい。塩化物の溶液が設備にかかると、炭素鋼やステンレス鋼の腐食、特に孔食の原因にもなる。現場で取られている主な対策は次のとおりである。

  • 開封した袋は内袋をヒートシールするか、密閉できる樹脂容器へ移し替える
  • 保管庫の相対湿度を、扱う物質のCRHより十分低い値(目安として40%以下)に管理する
  • 使用量に見合った小さい荷姿で発注し、長期の在庫を持たない
  • 粉体の搬送ラインや計量ホッパーには乾燥空気をパージして結露を防ぐ
  • こぼれた粒は吸水する前に回収し、床面の塩化物残留を水拭きで除去する

分析・実験室での注意

試験室でも潮解性は秤量誤差の原因になる。水酸化ナトリウムを天びんに載せると、数十秒で表面がぬれて質量が増えていく。そのため水酸化ナトリウムは一次標準物質として使えず、JIS K 8576に適合する試薬であっても、溶液を調製したあとにアミド硫酸などで標定してから使用する。潮解性の試薬はデシケーターで保管し、秤量びんにふたをしたまま手早く量り取るのが基本の手順である。

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