湿式機械多板クラッチ|油圧制御で滑らか高トルク伝達

湿式機械多板クラッチ

湿式機械多板クラッチは、複数の摩擦板と鋼板を油中で圧着し、摩擦力で動力を伝達する機械要素である。油浴(ATF等)による冷却・潤滑により発熱と摩耗を抑え、高トルク密度と高い耐久性、静粛性を得ることができる。自動車のATやDCT、建設機械の走行・作業用変速、工作機械の主軸切換、二輪車のクラッチなど広く用いられる。乾式に比べ、油圧制御系やポンプ動力が必要で系が大きくなりがちだが、熱安定性と扱いやすさで量産用途に適する。

構造と主要部品

基本構成はインナーハブとアウタードラム、摩擦板(ライニング付)とスチールプレート、油圧ピストン、シール、皿ばね(ベルビルワッシャ)、スナップリング、給排油路から成る。ハブとドラムのスプラインに板を交互に係合させ、ピストン押付で全面を均一に圧着させる。シールと油路設計は応答性と漏洩抑制の両立が要点である。

作動原理

作動油圧Pが有効面積Aのピストンに作用し、押付力F=P・Aを生む。ばね反力や流体力を含む総合押付力Nに対し、伝達可能トルクTは概ねT=n・μ・N・rmで近似できる(n:有効摩擦面数、μ:摩擦係数、rm:平均半径)。実機ではμの速度・温度依存、面圧分布、端部効果、油膜せん断が寄与するため、滑り開始〜固着移行の過渡領域を含めたモデル化が必要である。

潤滑と冷却

ATFなどの作動油は潤滑と冷却を担う。板間へ均等に供給し、周方向・半径方向の滞留を避けるオリフィス設計と流路抵抗の最適化が重要である。流量を増せば冷却性は向上するが、撹拌損失とポンプ動力が増すため、熱負荷プロファイルに応じた可変供給(デューティ制御)が有効である。泡立ちやキャビテーションはμ低下と応答遅れを招く。

摩擦材の選択

摩擦紙(セルロース/アラミド系レジン含浸)、カーボン、焼結金属などが用いられる。μ–V–T(速度・温度)特性の平坦性、耐フェード、耐グレージング、耐摩耗、油適合性を総合評価する。紙材は量産・コストと制御適合に優れ、カーボンは高エネルギ密度や耐熱に適する。表面のポア/溝形状は油膜形成とデブリ排出に寄与する。

熱設計と許容エネルギ

滑りで発生する熱量Qは、近似的にQ=∫T・ω・dtで表され、シフトや起動のイベント毎に評価する。ライニングの許容エネルギEperm、面圧p、温度上昇ΔT、熱拡散経路(板→ドラム/ハブ→オイル)を総合して板数と径を決める。熱斑やサーマルクラッキングを避けるため、面圧分布均一化とプレートの熱容量配分が要点である。

制御と応答性

電磁ソレノイドバルブのPWM制御で油圧立上りをプロファイル化し、予圧→スリップ制御→固着の各位相を滑らかに接続する。学習補正(温度・摩耗補正)とフィードフォワードにより、ジャダーやショックを抑制できる。油温、供給圧、ばね定数、漏れ量のばらつきに対しても安定な閉ループ設計が求められる。

設計計算の要点

  • 必要トルクTreqからnとD(ro, ri)を決定し、rm=(ro+ri)/2で評価する。
  • 平均面圧pavg=N/Aが許容面圧以下となるよう板数を調整する。
  • μはStribeck領域を含むため、速度域ごとにμ(T, V)を用いる。
  • イベント毎の∑QがEperm以下、連続運転での定常温度が設計上限以下であることを確認する。
  • 撹拌・せん断損失によるアイドル損を見積もり、流量最適化を行う。

公差・組立とクリアランス

ピストンストローク、バックラッシュ、板厚ばらつき、反り、平行度は応答性と面圧均一性に直結する。スナップリング溝寸法とクリアランス設定により、熱膨張時でも固着・引き摺りを避ける。シールリップは摩耗粉の侵入を抑え、低温時の摺動抵抗と高温時の耐久を両立させる。

故障モードと対策

  • 焼損:過大エネルギ投入。対策は板数増、径拡大、流量増、制御プロファイル修正。
  • ジャダー:μ–V特性の負傾斜、ねじり系固有振動の励起。対策は摩擦材選定、ダンパ追加、制御ゲイン最適化。
  • 歪み・割れ:熱斑・面圧偏り。対策は剛性配分と放熱経路改善。
  • シールリーク:Oリング損傷・座屈。対策は材質最適化と座ぐり形状見直し。
  • ATF劣化:酸化・せん断低下・泡立ち。対策は油温管理と交換間隔の設定。

材料と表面処理

スチールプレートは表面硬度と平坦度が重要で、焼入れ・窒化で耐摩耗性を高める。摩擦紙はレジン含浸と焼成条件で孔構造を制御し、初期あたりと油保持性を両立する。プレート表面の粗さ(Ra)やクロスハッチは初期μと鳴きの抑制に寄与する。

試験・評価法

慣性ダイナモメータでのシフトイベント再現試験、μ–T–Vマップ作成、熱斑観察、耐久サイクル、NVH評価を行う。ライン監視では押付力・油圧・滑り速度の同時計測で品質を担保する。統計的手法(Weibull等)で寿命分布を推定し、設計余裕を定量化する。

主な適用分野

自動車のAT/DCT内のギヤステージ切換、油圧ショベルの走行・作業クラッチ、工作機械の主軸変速・主軸停止ブレーキ、二輪車の湿式クラッチなどに用いられる。高頻度のオン/オフや長時間の微小スリップが要求される用途では、熱管理と制御適合が設計の肝となる。

環境・安全への配慮

ATFの酸化・添加剤劣化は性能低下や摩耗促進につながるため、油温と寿命管理を行う。漏洩防止設計、発生デブリの捕集、使用済み油の適正回収・処理は環境対応上必須である。製品安全面では、誤作動時にも暴走や過負荷が発生しない冗長設計とフェイルセーフ機構を備える。

湿式機械多板クラッチ

呼び番号 d b t C1 A
ラグ
A
歯車
B C D E L
単式
L
複式
M N
開放時
O P Q
単式
Q
複式
R S ラグ
W
ラグ
歯車
歯数
1.2-18 18 5 2 1 63 62.7 56 28 63 50 63 106 24 13.5 10 18 10 53 8 1 11.7 6 40
1.2-20 20 5 2 1 63 62.7 56 28 63 50 63 106 24 13.5 10 18 10 53 8 1 11.7 6 40
2.5-22.4 22.4 7 3 1 78 79.6 71 37.5 78 63 80 134 27.5 16.5 12.5 24 13 67 10.5 1 15.5 6 38
2.5-25 25 7 3 1 78 79.6 71 37.5 78 63 80 134 27.5 16.5 12.5 24 13 67 10.5 1 15.5 6 38
5-28 28 7 3 1 98 99.6 90 45 100 80 100 168 37 22.5 16 28 16 84 12 1 17.5 6 48
5-31.5 31.5 10 3.5 1 98 99.6 90 45 100 80 100 168 37 22.5 16 28 16 84 12 1 17.5 6 48
10-35.5 35.5 10 3.5 1 124 124.5 112 56 125 100 112 190 39 23 20 32 17 95 16 1 19.5 6 48
10-40 40 10 3.5 1 124 124.5 112 56 125 100 112 190 39 23 20 32 17 95 16 1 19.5 6 48
20-45 45 12 3.5 1 152 152.4 140 63 138 110 132 226 50.4 29 22.4 36 19 113 18 1 15.5 12 49
20-50 50 12 3.5 1 152 152.4 140 63 138 110 132 226 50.4 29 22.4 36 19 113 18 1 15.5 12 49
40-56 56 15 5 1.6 196 195.37 180 80 170 136 160 276 63.5 37.5 25 42 22 138 23 1 19.5 12 54
40-63 63 18 6 1.6 196 195.37 180 80 170 136 160 276 63.5 37.5 25 42 22 138 23 1 19.5 12 54
80-71 71 20 6 1.6 240 241.36 224 100 200 165 170 300 69 40 25 48 25 150 26 1 25.5 12 58
80-80 80 20 6 1.6 240 241.36 224 100 200 165 170 300 69 40 25 48 25 150 26 1 25.5 12 58
呼び番号 d b t C1 A
ラグ
A
歯車
B C D E L
単式
L
複式
M N
開放時
O P Q
単式
Q
複式
R S ラグ
W
ラグ
歯車
歯数

〔注〕呼び番号には、単式ラグ形にはSL、複式ラグ形にはDL、単式歯車形にはST、複式歯車形にはDTの記号を、それぞれ前に付ける.