流体機械|流体エネルギーを機械動力へ変換

流体機械

流体機械は、流体と回転体あるいは往復体との運動量交換により、機械的エネルギーと流体の圧力・速度・位置エネルギーを相互に変換する機械である。動力を与えて流体を加圧・送流するポンプや送風機・圧縮機、流体から動力を取り出すタービンが代表であり、産業設備、発電、化学プロセス、空調、輸送に広く用いられる。設計・運用では、相似則、性能曲線、キャビテーション回避、効率最大化、信頼性確保が中核となる。

定義と分類

  • 流体機械の基本分類は、動力を与える「動力形(ポンプ・ファン・ブロワ・コンプレッサ)」と、動力を取り出す「受動形(タービン)」である。
  • 作動様式で「ターボ形(動翼で連続的にエネルギー授受)」と「容積形(容積の周期変化で圧縮・移送)」に分かれる。
  • 対象流体で「液体(ほぼ非圧縮)」と「気体(圧縮性)」に分け、圧力域や必要流量で機種選定を行う。

作動原理

ターボ形では翼列が流れに作用して角運動量を変化させ、オイラーのターボ機械式に従ってエネルギーが授受される。容積形ではケーシングとピストン・ギアなどで囲まれた容積が周期変化し、吸込・圧送を繰り返す。いずれも連続の式と運動量保存則が基礎であり、損失は粘性散逸、二次流れ、リーク、表面粗さなどに起因する。

主要機種と用途

  • ポンプ:遠心ポンプは大流量・中低揚程に適し、化学・水処理で汎用。容積式ポンプは高粘度や定量移送に適する。
  • ファン/ブロワ:空調や燃焼用送風に用い、比体積の大きい流れを扱う。軸流は大流量、遠心は高圧側に有利。
  • コンプレッサ:ガスを高圧化し、プロセス供給や空気圧システムに使用。多段化やインタークーラで効率を高める。
  • タービン:水力・蒸気・ガスタービンがあり、流体のエンタルピを回転仕事に変える。

性能指標と相似則

  • 基本量:流量Q、揚程H(または圧力比π)、軸動力P、効率η、回転数n、羽根車径D。
  • 相似則(ターボ形):Q∝nD³、H∝n²D²、P∝n³D⁵。粘性影響はRe数で補正する。
  • 比速度Nsは幾何相似機の形状傾向を示し、機種選定の指標となる。
  • NPSHは吸込余裕を表し、キャビテーション回避の鍵である。

選定の考え方

配管網の系統曲線と機械の性能曲線の交点が運転点である。可変速制御はバルブ絞りに比べ省エネルギー性に優れる。運転レンジではサージやチャタリングなど不安定領域を避ける。材質、シール、軸受、メンテナンス間隔を含むライフサイクルコストで評価し、NPSH余裕、異物・腐食・温度・粘度などプロセス条件を確実に反映させる。

ポンプの基礎

遠心ポンプは動翼で流体に動圧・静圧を与え、ケーシングで速度エネルギーを圧力に変換する。容積式はピストン、ギア、ロータリの各形式があり、脈動や脈動吸収が設計上の焦点である。キャビテーションは性能低下と損傷を招くため、吸込側配管損失の低減、液温管理、インデューサ採用などで抑制する。

圧縮機と送風機

遠心・軸流の両形式が用いられる。圧縮過程はしばしば多段多孔で行い、インタークーラで比仕事を低減する。マップ上でサージラインを回避し、可変入口案内翼やバイパスで安定運転域を拡大する。等温・断熱・ポリトロープ効率を区別し、熱力学的評価を行う。

タービンの基礎

水車ではインパルス形(ペルトン)と反動形(フランシス、カプラン)に大別され、比速度が形式選択を導く。蒸気・ガスタービンは多段翼列で膨張仕事を取り出し、反動度、ノズル角、ブレード冷却、クリアランス制御が性能の支配因子である。

材料・製造と信頼性

腐食・浸食・疲労に耐える材料選定(ステンレス、二相系、ニッケル基など)と、鋳造/鍛造・5軸加工・溶接の品質管理が重要である。動バランス、表面粗さ、コーティング、シールクリアランス管理が効率と寿命を左右する。振動・温度・軸受状態の常時監視で予防保全を実施する。

CFDと試験

  1. 仕様策定(Q・H/π・η・n・媒体・温度・粘度)を明確化する。
  2. 一次設計で翼型・比速度・段数・クリアランスを決める。
  3. CFDで内部流れ・損失源・キャビテーション傾向を評価する。
  4. 試作・性能試験でベンチマークし、性能曲線と保証点を確定する。
  5. 実機据付後、配管影響と計装を含めた運転最適化を行う。

保守・診断

劣化要因はキャビテーション、固体粒子による浸食、腐食、シール摩耗、軸受損傷、アンバランス・ミスアライメントである。異常兆候は振動スペクトル、吸込圧の低下、温度上昇、漏えい、効率劣化として現れる。状態基準保全や予知保全を採用し、部品共通化や在庫最適化でダウンタイムを短縮する。

安全と規制

保護装置(圧力逃し、ドライラン防止、サージ抑制)、カップリング防護、遮音・防振、耐圧・気密試験の実施が必要である。圧力設備や可燃性流体を扱う場合は関連法規・規格(JIS、ISO など)に適合させ、文書化・トレーサビリティを確保する。最終的には流体機械の性能・安全・信頼性の三立を満たす設計・運用が求められる。