方向継電器
方向継電器は、故障電流や電力の「向き」を判別して遮断器の動作可否を決める保護継電器である。電圧(VT)と電流(CT)の位相関係を用い、所定の感度角内でトルク条件が満たされたときに動作する。配電線の選択遮断、発電機の逆電力検出、連系点での逆潮流判定、単相接地系統の地絡方向判別などに広く用いられ、過電流継電器や距離継電器と協調して系統の選択性・信頼性を高める。
定義と役割
方向継電器は、測定量のベクトル方向に基づいて故障区間を判定する装置である。動作方向を系統側または負荷側に限定することで、外部故障時の不要動作を抑制し、所定の保護区間のみを切り離す。特に放射状配電や連系点では、潮流反転や再閉路後の過渡現象が発生しやすく、方向判定は保護協調の前提となる。
動作原理とトルク条件
古典的表現では電圧Vと電流Iを用いた指示トルクT=k・V・I・cos(φ−θ)で表され、φはIの位相角、θは感度角である。電力方向形(P方向)はP=V・I・cosφの符号を、無効電力方向形(Q方向)はQ=V・I・sinφの符号を用いる。地絡方向形では零相電圧3V0と零相電流3I0(またはI0)を比較し、接地抵抗や系統容量に影響される位相差を補正する。現代のマイコン継電器ではデジタル演算で同等の判定を行い、過渡フィルタや第2高調波抑制などの信号処理を併用する。
特性・設定パラメータ
- 感度角(θ):VとIの基準位相差に対する許容偏差。系統定数や故障様相に合わせて最適化する。
- 最小動作電圧・電流:低電圧故障や電源喪失時の誤判定を防ぐしきい値。VT喪失時のブロッキング論理を併用する。
- 方向ゾーン:前方(Forward)・後方(Reverse)を定義し、距離要素・過電流要素の起動条件に連動させる。
- 高調波・直流分対策:整定時はCT飽和や残留磁気の影響を考慮し、第2高調波判別等を有効化する。
種類と用途
代表例は、(1)電力方向継電器(逆電力・逆潮流の検出)、(2)無効電力方向継電器(進み・遅れの判別)、(3)地絡方向継電器(零相量により故障方向を同定)である。配電用地絡保護では、地絡電流が容量性に支配される非接地系や高抵抗接地系で有効に機能する。発電機保護では逆電力検出によりモータリングを防止し、連系インターフェースでは逆潮流を用いて系統側の保護要素を選択起動する。
適用例(系統別)
- 放射状配電線:外部故障時に非動作、内部故障のみ動作させるため、方向要素+短絡検出要素を組み合わせる。
- 配電用変電所:母線セクションの選択遮断に用い、遮断器容量や遮断容量の制約下でも選択性を確保する。
- 分散電源連系:逆潮流検出により非連系保護を構成し、再閉路タイミングでの誤投入を抑制する。
- 地絡保護:零相方向要素で上流・下流を判別し、区間選択開放を実現する。
誤動作要因と対策
低電圧時の位相不安定、VT断線、CT飽和、逆相・不平衡、高調波による位相ずれが主要因である。対策としてはVT監視・ブロッキング、最低電圧ロジック、フィルタ設計、感度角の最適化、二次回路の導通・極性確認、事故点移行を考慮した再閉路時論理が挙げられる。単相接地事故では零相位相の地域差が大きく、線路容量の違いを踏まえた整定が不可欠である。
保護協調の考え方
方向継電器は時間要素を持つ過電流継電器や距離要素と協調させる。まず一次系統で故障電流・電圧の位相を試算し、動作方向の妥当性を評価する。次に時限・遮断器動作時間・再閉路時間を重ね、最小・最大故障条件で選択性を検証する。設備の定格は定格電圧、定格電流、系統の電圧階級(高圧・低圧など)と適合させる。
整定手順(実務フロー)
- 系統モデル化:単線結線図、インピーダンス、電源短絡容量を整理する。
- ケース選定:内部・外部故障、三相・二相・一線地絡を想定し、最小/最大電圧条件を用意する。
- 方向判定:V–Iベクトル図で感度角範囲を確認し、必要ならQ方向も補助に用いる。
- 協調確認:下位設備の時限・遮断性能と重ね合わせ、選択性と感度余裕を評価する。
- ドキュメント化:整定根拠、想定外乱、保守基準を記録し改訂管理する。
規格・推奨事項
一般に保護継電器の性能・試験はIEC 60255系列やJISの関連規格に準拠することが望ましい。位相演算、過渡応答、環境耐性、電磁両立性(EMC)などの要件を満たす装置を採用し、二次配線は極性・導通・絶縁を点検する。試験は一次注入・二次注入・シミュレーションを併用し、整定の再現性を確認する。
試験・保守
受入試験では方向特性(前方/後方)と最小動作電圧・電流、感度角の公差を確認する。定期点検ではVT/CTの健全性、端子の締結、時刻同期、ファームウェアの完全性を確認し、想定更新時には整定票を改訂する。停電切替作業や活線作業の計画時は、誤動作防止のためブロッキングや一時的な設定変更の要否を審査し、復旧時に原状回復を徹底する。
実装上の留意点
保護リレーは周辺機器との組合せで性能が決まる。VT断線検出のしきい、フューズ溶断時の代替論理、無電圧投入時の起動抑制、再閉路時のデッドタイム設定、通信連携(GOOSE等)を総合して設計する。また遮断器のトリップ容量や遮断容量を考慮し、故障除去までの電気的・機械的余裕を確保する。最終的には系統拡張や分散電源の増加を見据え、設定の見直しサイクルを設計に組み込むことが重要である。