層間変形角
層間変形角とは、地震力や風圧力などの水平力を受けた建築物において、ある階の上下の床の水平変位の差(層間変位)を、その階の高さで割った値である。単位は無次元で、1/200や1/120のように分数で表すのが一般的である。日本では1981年施行のいわゆる新耐震設計法で建築基準法施行令第82条の2に規定が設けられ、建物の変形を抑えて内外装材や設備の損傷を防ぐための指標として、構造計算の中で確認される。
計算式と数値の読み方
i階の層間変形角θiは次式で求める。
θi = δi / hi
ここでδiはi階の層間変位(mm)、hiはi階の階高(mm)を表す。たとえば階高3,500mmの事務所ビルで層間変位が17.5mmであれば、θ = 17.5 / 3,500 = 1/200となる。分母が大きいほど変形は小さく、建物は「硬い」と判断できる。数値そのものは小さく見えるものの、1/100の変形は階高4mの階で40mmのずれに相当し、窓ガラスや間仕切り壁には十分に大きな値である。
法令上の制限値
施行令第82条の2は、許容応力度計算に用いる一次設計用の地震力(標準せん断力係数C0=0.2)によって生じる層間変形角を、原則として1/200以内に収めるよう求めている。ただし、地震時の変形によって構造耐力上主要な部分以外の部材に著しい損傷が生じるおそれがないことを確かめた場合には、1/120まで緩和できる。この確認が必要になるのは、高さ31mを超える建物などに適用されるルート2・ルート3の計算であり、小規模建物のルート1では通常求められない。2007年の法改正では構造計算適合性判定制度が導入され、緩和規定を使う場合の根拠資料も審査で厳しく問われるようになった。
剛性率との深い関係
剛性率は層間変形角の逆数を使って算出される。各階の層間変形角の逆数rsを、全階の平均値で割った値がRsであり、施行令第82条の6ではRs≧0.6を満たすことが求められる。これを下回る階は、ピロティ階のように地震時に変形が集中しやすい「柔らかい階」とみなされ、保有水平耐力計算で形状係数Fsによる割増しを受ける。偏心率の0.15という基準とあわせ、層間変形角は建物の剛性バランスを評価する出発点となる指標である。
設計法ごとの目安
確認する地震の大きさや計算方法によって、用いられる制限値は異なる。代表的な値を整理すると次のようになる。
| 設計法・検討段階 | 想定する地震 | 層間変形角の目安 |
|---|---|---|
| 許容応力度等計算(一次設計) | 中地震(C0=0.2) | 1/200以内(緩和時1/120) |
| 限界耐力計算(損傷限界) | 稀に発生する地震 | 1/200以内(条件付きで1/120) |
| 限界耐力計算(安全限界) | 極めて稀に発生する地震 | 1/75以内(木造は1/30) |
| 時刻歴応答解析(超高層) | レベル2地震動 | 1/100以内とする例が多い |
限界耐力計算の値は平成12年建設省告示第1457号に基づく。高さ60mを超える建物で用いる時刻歴応答解析では、法令に一律の数値はなく、指定性能評価機関の審査を通じて1/100程度を設計クライテリアとするのが慣例となっている。
構造種別による効き方の違い
どの構造でも同じ制限値が課されるものの、設計への効き方は大きく異なる。鉄筋コンクリート造は壁や柱の剛性が高く、1/200を満たすのは比較的容易である。これに対し鉄骨造の純ラーメン架構では、応力度に余裕があっても変形制限で部材断面が決まる「変形支配」になりやすい。現場の構造設計者の間では、スパン10m前後の倉庫や工場で1/200を満たすために柱を□-350から□-400へ上げる、あるいはブレースを追加するといった判断がよく行われる。鋼材量で1割前後の差が出ることもあり、緩和規定の1/120を使えるかどうかは建設コストを左右する論点となる。木造の場合は、4号建築物を除く許容応力度計算で1/120を目安とする運用が広く知られている。
非構造部材と設備への影響
変形制限の本来の目的は、骨組みそのものよりも、骨組みに取り付く部材を守ることにある。外壁のカーテンウォールでは、日本建築学会のJASS 14などを参考に、層間変位追従性能を1/150〜1/100程度で仕様化するのが一般的である。ALCパネルはロッキング構法を採用することで、1/100程度の変形に追従できるとされる。設備側では、配管の貫通部やエレベーターのレール、スプリンクラー配管が層間変位による損傷を受けやすい。
実務で見落としやすい点
平面的に偏心がある建物では、重心位置で算出した層間変形角が1/200を満たしていても、ねじれの影響で外周の隅部ではそれを上回ることがある。外装材が取り付くのは外周部なので、構面ごとの変形を確認しておくと手戻りが少ない。工場建屋の改修で天井クレーンやダクトを後から追加すると、地震時の重量が増えて変形が大きくなるため、既存の計算書の数値をそのまま流用せずに再確認したい。耐震設計の現場では、制限値ぎりぎりの1/201で設計を終えるのではなく、施工誤差や仕様変更を見込んで1/250程度を社内目標に置く設計事務所も少なくない。
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