定格電流
定格電流とは、機器・配線・部品が所定の環境条件と温度上昇限度のもとで、長期にわたり連続通電しても機能・安全性が損なわれないようにメーカーが保証する最大の電流値である。スイッチギヤ、遮断器、ヒューズ、変圧器、電動機、プリント配線板、コネクタや電線など、あらゆる電気要素に設定され、選定・設計・保守の基準軸となる。これを超える通電は発熱(I2R)と誘導・接触抵抗増大により劣化や誤動作、最悪は火災・感電のリスクを生むため、装置の信頼性・安全設計で最重要パラメータである。
定義と位置づけ
定格電流は「規定の周囲温度、冷却条件、使用区分で許容される連続電流の上限」と定義される。瞬時(サージ)許容電流や短時間許容電流と区別し、温度上昇と絶縁クラス、端子部の接触抵抗、導体断面、放熱条件を統合した結果として与えられる。
仕様書・銘板の読み方
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周囲温度:一般に40℃基準が多く、これを超える環境では定格電流のディレーティング(低減)が必要である。
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使用区分:AC-1/AC-3 など負荷特性区分で同じ装置でも許容が変わる。
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温度上昇限度:コイル・巻線・端子の各部で規格上限が定められる。
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導体サイズ・端子形状:圧着端子やバー端子の適合サイズが定格電流の根拠となる。
設計要因(熱・電気・機械)
銅・アルミ導体の抵抗R、通電I、発熱I2R、対流・放射・伝導の放熱バランスで平衡温度が決まる。プリント基板ではパターン幅・銅厚・層構成・ビア個数が、ケーブルでは断面積S・被覆・布設形態(空中/束ね/ダクト)・敷設温度が支配的である。機械要因として端子締結トルク不足は接触抵抗増による局所発熱を招き、定格電流を満たせない。
温度上昇と熱設計
熱設計では、周囲温度Taと温度上昇ΔTの和が材料・絶縁クラス限度以下となるように決める。ΔTはI2R損、渦電流・ヒステリシス損(磁性体)、接触損、スイッチング損(半導体)を含む。ファン追加やヒートシンク、銅箔増厚、並列配線、ダクト間隔確保などで許容定格電流を引き上げられる。
周囲温度補正の目安
カタログにディレーティング曲線が示される。例として基準40℃を超えるたびに割合で低減する。曲線が無い場合は保守的に余裕率20〜30%を確保する。
規格と試験
定格電流はJIS/IEC/UL等の規格・試験で裏づけされる。通電試験で温度上昇が限度内か、端子の発熱・ゆるみ・変形・絶縁劣化が無いかを確認する。遮断器・ヒューズは通電損失の測定に加え、短絡耐量・I2t・遮断性能が関連指標となる。
運用・保守での考え方
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負荷率:平均電流、実効値、デューティ比を評価し、断続運転ならば熱時定数も考慮する。
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配線経路:多回路を同一ダクトに収容すると相互加熱で定格電流が低下する。
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端子管理:定期的な増し締め、赤外線サーモでホットスポット点検を行う。
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異常兆候:端子変色、被覆硬化、異臭、波形歪み(高調波)増大など。
計算例と換算
銅導体の直流近似でR≈ρL/S(ρは20℃で約1.72×10-8Ωm)。発熱P=I2R、平衡温度は放熱係数hと表面積AでP≈hAΔTとみなしΔTを推定する。PCBではIPC-2152の曲線が実務に用いられ、ケーブルは許容電流表を参照して定格電流を決める。
計算例の前提
連続定常、均一温度場、直流、単独布設を仮定。実機は風量、筐体形状、隣接発熱、PWMなど非定常要素を含むため、余裕を見込む。
関連要素と相互作用
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電圧降下:大電流ほど配線電圧降下が増し、機器の起動・トルクに影響する。
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短絡・始動電流:始動時は定格電流を大きく超える。遮断器整定・ケーブル熱耐量で検証する。
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高調波:Irms増と追加損失により許容定格電流が実質低下する。
選定フロー(実務の要点)
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負荷プロファイル(連続/断続、平均・最大、周囲温度、冷却)を定義する。
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許容温度上昇と絶縁クラスから目標定格電流を引き算で決める。
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カタログのディレーティング曲線・配線表・IPC/電線規格を適用する。
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端子・コネクタ・基板パターンをボトルネックとして再評価する。
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試作で温度上昇・圧着品質・振動ゆるみを検証しマージンを確定する。
注意事項(法規・安全)
法規・規格への適合表示は特定条件での定格電流に基づく。想定外条件(高地、密閉筐体、粉塵、油煙、連結ダクト)は必ず低減設計とすること。自己責任での超過運用は厳禁である。