地絡
地絡とは、電路の充電部分と大地との間で絶縁が破れたり、金属体が接触したりすることによって、本来流れるはずのない電流が大地へ流出する現象である。低圧の屋内配線から特別高圧の送配電系統まで、あらゆる電圧階級で起こりうる。原因は経年劣化、雨水や結露の浸入、小動物の接触、施工不良など多岐にわたり、感電・火災・機器焼損の引き金となるため、電気設備の保全において最も警戒される異常の一つに数えられている。
発生要因の分類
地絡を招く要因は、現場での点検経験からいくつかの型に整理できる。代表的なものは次のとおりである。
- 絶縁物の経年劣化や熱・紫外線による絶縁破壊
- 雨水・結露・塩害による表面漏れ電流の増大
- 小動物や工具の誤接触による直接短絡
- ケーブル被覆の損傷や施工時の圧着不良
世界一の超高圧変電所の地絡または短絡。変電所で爆発レベルの事故があっても、「電気が一瞬チカッとした」だけ。これは電気が不安定なのではなく、システムが設計どおり事故箇所を瞬時に切り離して、残り全てのエリアへの送電を再開。日本の電力網の強靭さに感謝。 https://t.co/xvhUBhXdAZ
— サラリーマン元電気主任技術者 (@slave_elec) November 26, 2025
接地方式による地絡電流の違い
中性点の接地方式によって、地絡電流の大きさと危険性の性質は大きく変わる。日本国内の6.6kV配電系統の多くは非接地方式または高抵抗接地方式を採用しており、一線地絡時の故障電流は数A程度に抑えられている。欧州の一部でみられる中性点直接接地方式では、故障電流が数百A〜数kAに達することもあり、保護継電器による瞬時遮断が前提となる。低圧の200V系統ではB種接地によって中性点が接地されているため、地絡が生じると比較的大きな電流が流れ、ブレーカーや低圧用の保護装置が短時間で動作するよう整定される。
| 接地方式 | 地絡電流の目安 | 主な適用範囲 |
|---|---|---|
| 非接地方式 | 数A程度 | 6.6kV配電線の一部 |
| 高抵抗接地方式 | 十数A程度 | 工場内高圧受電設備 |
| 直接接地方式 | 数百A〜数kA | 特別高圧送電系統 |
ネコバス、ちゃんと架空地線を走ってて偉いと思うけど鉄塔登る時に無事地絡事故起こしてるんだよなぁ pic.twitter.com/Xt2o90x9x0
— dydt 🧲MFT2026(I-03-06) (@dydt_Nao) August 23, 2024
検出の仕組み
零相変流器(ZCT)は、健全時にはゼロとなる三相電流のベクトル和を検出する装置である。地絡が発生すると零相分が現れ、この信号を地絡継電器(GR)が受け取り、整定値を超えた時点で遮断指令を発する。高圧配電盤では方向性を持たせた67N形(指向性地絡継電器)が使われることが多く、隣接するフィーダとの区別を行う。低圧回路では漏電遮断器(RCD/ELB)が主流であり、定格感度電流30mA・動作時間0.1秒以下のものが人体保護用として広く普及している。
マニアックな絶縁(地絡)監視リレー。 pic.twitter.com/i5jpT7B2d4
— インダストリー野郎 (@kikaianzen) November 25, 2025
間欠アーク地絡の難しさ
乾燥した粉じんや劣化した絶縁物の隙間で発生する間欠アーク地絡は、電流値が小さく波形も不安定なため、従来の過電流継電器では検出しにくい。高調波成分や不平衡波形を解析する高感度リレー、あるいはアーク故障検出器(AFD)の併用が有効である。絶縁監視装置による対地絶縁抵抗の常時監視も、こうした兆候を早期にとらえる手段の一つとなる。
CVケーブルを使用するとポリエチレンの熱分解等によりガスが発生し一線地絡と復帰を繰り返す間欠アーク地絡が発生しやすくなる。
間欠アーク地絡が発生すると非接地方式ではほかの接地方式よりも大きく異常電圧が発生します。#電験三種 pic.twitter.com/W1jef8IVKt
— 現場・技術系資格取得のSAT株式会社 広報アカウント (@SAT70887543) August 15, 2021
人体・設備への影響
地絡電流が人体を通過する経路に入ると、接触電圧や歩幅電圧が危険な水準に達することがある。アースによる等電位ボンディングと、信号系のための機能接地との区分を明確にしておくことは、感電事故を防ぐうえで欠かせない。変電所や電気室では接地網(メッシュアース)を敷設し、電位傾斜を緩和する設計が採られる。なお、地絡が大地との間で生じる異常であるのに対し、短絡は相間や導体間で直接電流が流れる異常であり、両者は発生機構も保護方式の考え方も異なる。
コンセントと人体地絡原理はこう
人体抵抗は2000Ω〜5000Ωくらいだろうけど、汗とか水で濡れた手だと800くらいまで下がる
人体が電路になって地絡回路ができる⚡️
コンセントにはアース側(デカイ穴) 電源側(小さい穴)があるから注意 デカイ穴側だったら対地だから電圧は0V
針金突っ込んでも感電しない https://t.co/l1IyU1zzAo pic.twitter.com/Q2W9FGAazE— よはたぶ🎀 (@x_MockBa_x) May 30, 2019
現場での点検と診断
生産設備では、インバータ駆動のモータやヒータ回路が対地静電容量を持つため、正常な状態でも数mA〜十数mAの漏れ電流が常時流れていることが珍しくない。この背景漏れ電流とRCDの定格感度電流との差が小さいと、実際には地絡が発生していないにもかかわらず不要動作(トリップ)を起こす。現場の実務上は、絶縁抵抗測定(メガー試験)と接地抵抗測定を組み合わせ、経年劣化による絶縁低下の傾向を継続的に把握しておく必要がある。竣工検査や年次点検では、漏電試験によってクランプ式リーク電流計で回路全体の漏れ電流総和を測定し、EMIフィルタのYコンデンサに起因する漏れとの切り分けを行う工程が組み込まれることが多い。
この前、漏電対応で完全地絡に遭遇した😱
単相3線式回路にて恐らく完全地絡している赤相は検電器鳴らず白相が鳴った😇ふと電圧を測定した所、
・線間→100V(RS)・100V(ST)・200V(RT)
・対地間→0V(R)・100V(S)・200V(T)
だった。完全地絡しても線間は問題無いが、対地間にて電圧に異常が見られた。 pic.twitter.com/QQ3k4jQa8F
— 電気マニア (@denki_33) October 26, 2025
関連規格と保護協調
国内では電気設備技術基準や内線規程が地絡保護の設計基準として参照される。国際規格ではIEC 60364が接地系統をTN・TT・ITの三方式に分類し、それぞれの保護遮断時間を規定しており、住宅用のソケット回路では0.4秒以内の遮断が求められる。キュービクルのような高圧受電設備では、上位・下位の保護協調を段階的に整定し、事故時に必要最小限の区間だけを遮断するループインピーダンス管理と選択遮断が設計上の焦点になる。
設計・保守における留意点
高圧受電設備の更新や大規模改修にともなう停電作業では、作業前の無電圧確認と仮設接地の徹底が、地絡事故を防ぐ最後の防護線となる。送電線区間に張られる架空地線は直撃雷を減らし、逆フラッシオーバに起因する地絡故障の頻度を抑える役割を担う。太陽光発電設備などを系統連系する現場では、逆潮流を監視する逆電力リレーとの保護協調も検討課題となり、単独の保護要素だけで安全性を確保することは難しい。
試験・点検と基準
地絡リスク低減には、絶縁抵抗測定、接地抵抗測定、漏れ電流の常時監視が有効である。竣工・定期点検ではメガー(IR試験)、接地比抵抗法・置換法、クランプ式リーク電流計測を組み合わせる。保護装置は整定値・動作時間の検証(試験器注入)が必要で、系統変更時は保護協調を再確認する。
設計上の勘所
- 接地方式の整合:供給側(変電所)と需要家内配電の方式整合と中性点処理の明確化。
- ループインピーダンス管理:故障電流確保と遮断器の確実動作、またはRCDの選定。
- 選択遮断:上位・下位保護の時間・電流整定の段差設計。
- 環境対策:湿気・結露・塩害・粉じん対策とIP保護等級の適用。
- ケーブル布設:機械的保護、最小曲げ半径、シース接地の方針(単点/両端)。
現場での一次対応
- 異常検知:GR動作・RCDトリップ・匂い・発煙・警報の確認。
- 安全確保:負荷停止、活線作業の回避、立入禁止・表示。
- 区分切り:母線・フィーダ単位で段階的に投入し故障区間を特定。
- 原因究明:絶縁測定・外観点検・端末処理・防水劣化の確認。
- 恒久対策:部材更新、ルート改良、保護整定の見直し、教育の徹底。
関連概念と用語整理
地絡(一線接地故障)は「短絡」(相間故障)と異なる。低圧配線では「漏電」という語が日常的だが、保護装置は零相電流のしきい値で動作する点を理解する。設備の一時的な「浮遊容量」に起因する微小零相電流は正常でも生じうるため、整定は誤動作と感度のバランスで決める。
波及事故防止のための保護協調
配電線・柱上変圧器・受電盤・分岐盤・最終負荷の各段で、GR/RCD・ヒューズ・遮断器の選択遮断を成立させる。特に長距離ケーブルやVFD(インバータ)負荷が多い系は零相高調波や漏れの増加により誤動作が起こりやすく、フィルタ・ノイズ対策や高周波耐性型RCDの採用が有効である。
設備ライフサイクルでの留意点
設計段階で地絡シナリオを想定し、FMEAや保護協調図で整定根拠を文書化する。施工ではシースアース・端末処理・貫通部の止水を厳守し、保全ではトレンド監視で劣化徴候を早期検知する。更新時は規格改訂・短絡容量の変化・系統構成の増強を反映させる。
コメント(β版)